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土木学会 第15回コンサルタントシンポジウム 詳細報告           
テーマ『技術者の復権と新展開』〜21世紀に輝く技術者とは〜』

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シンポジウムの開催主旨 : 
 国土建設から国土マネジメントへ、発注者主体の事業執行からコミュニケーション型事業執行へ、さらには、ライフサイクル評価やゼロエミッション事業など持続的な環境形成も重要な視点となる時代を迎えています.そのような中で、東海村における臨界事故、宇宙ロケットの打ち上げ失敗、トンネル壁の崩落等一連の事故が、技術および技術者に対する社会的信頼感を著しく損なってしまいました.これらを踏まえて土木学会は「土木技術者倫理の制定」「大学における倫理教育の見直し」「資格制度と継続教育の導入」「仙台宣言」など革命的な行動を実践し始めています.
  土木事業の初期段階で計画、設計を担い、完成物の品質を保証するうえで、コンサルタントは極めて重要な責任を負い、この面で国民の信頼を獲得することが、コンサルタントにとっての最重要課題と言えます。「仕様規定」から「性能規定」へ、「指名競争」から「プロポーザル競争」へという一連の動きは、技術者の選択システムの変更を意味します.技術的な要請に的確に応えて次世代あるいは後世に有益な社会資本を残すためには、常に挑戦的なテーマを自ら課し、技術と人格に優れた技術者が、強く要求されています. 
 「社会資本整備における設計系技術者の役割り」「歴史的な土木技術者像」「欧米における土木技術者の志」さらには「国民からみた土木技術者」などを題材に、各界の第一人者をお招きし,「技術者の復権と新展開〜21世紀に輝く技術者とは〜」をテーマとするシンポジウムを下記の要領で開催いたしました.

開催日およびプログラム 
開催日 : 2001年1月30日(火)
於 : 土木学会図書館講堂 
プログラム :

話題1:社会資本整備における設計系技術者の役割り  三木 千壽(東工大教授)
話題2:誇り高き明治の土木技術者たち        高崎 哲郎(帝京大学短期大学教授) 
話題3:ヨーロッパにおける土木技術者の志      中村 祐司(アイ・エス・エス社長)
話題4:国民からみた日本の土木技術者        西村 隆司(日経コンストラクション編集長)
パネルディスカッション「技術者の復権と新展開〜21世紀に輝く技術者とは〜」 
        パネリスト 学識経験者 :三木 千壽
                     〃 :高崎 哲郎     
                        コンサルタント :中村 裕司 
                        ジャーナリスト :西村 隆司 
       兼進行支援  コンサルタント :駒田 智久(日本技術開発常務取締役)

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開会挨拶 石井弓夫委員長 
−今回のシンポジウムは「技術者の復権と新展開−21世紀に輝く技術者とは−」という大きなテーマを掲げ,4名の先生方に話題提供をお願いした. −我々の建設産業あるいは土木技術においては一種の行き詰まり部分もある一方で,見ようによっては21世紀に輝いていく展望もある.先輩から後輩へと受け継いでゆく時間軸,および社会を横につなげる空間軸の両面から考察し,そうした明るい部分を本日見極めたい. −後半のパネルディスカッションでは会場からの発言の機会もあるので,皆さん積極的に参加されて大いに議論してほしい.

 


 石井弓夫委員長

話題提供1 三木千壽 東工大教授   「社会資本整備における設計系技術者の役割」
  −シンポジウムのテーマである「技術者の復権」を唱えるならば,そこには技術があらねばならない.「設計系技術者」という場合,どこまでの行為を設計系としてとらえるのかやや曖昧な部分があるが,コンサルタント委員会としてのここでは,設計行為の中のどの部分に対して責任を持つのかとして考えてみる. 


三木千尋 教授

【社会情勢】
 −本題の科学技術に関しては,土木学会企画委員会でも議論し,企画委員会2000年レポートがまとめられた.さらに,このレポート提言の実現化に向けて,鈴木学会会長を委員長とする「社会資本整備と技術開発の方向性に関する検討委員会」が活動し,科学技術が活きる環境整備の構築に努力している状況である.裏を返せば,現状においては科学技術が活きない環境があるのでこのような努力が必要とされている.また,第二期科学技術基本計画に建設分野が組込まれるか否かの議論が科学技術戦略会議において進行中である. 
−建設業界に関する周囲の意見として,例えば,「技術不在の利権構造を問う」(日経新聞,8/27/2000)などのきびしい意見の論説がある.コンクリート劣化問題,建設に伴う環境問題,あるいは地震被災などの反響として科学技術への不信感も生じている(原因の一つとして,これまでの土木構造物には寿命と言う概念,ライフという概念が欠けていた点が挙げられる).また,国民から見て,公共事業や土建業への疑いの目(談合問題,等)も芽生えている.こうした状況下の土木・建設業分野においては,社会に誇れる建設技術の確立が急務である. 

【建設分野における研究開発の現状】 
−研究開発の現状について分析してみると,建設産業の研究開発投資は他産業と比較して非常に少ない(全産業では売上費2.85%,製造業では3.7%であるのに対して,建設業は0.39%と低く,このほとんどは大手ゼネコン5社で占められている).土木系官庁の研究開発投資も同様に低い(通産系と比較して建設・運輸系は一桁オーダーが低い).加えて,建設業の生産労働性は低下の一途である.ところが,建設業の経営者へのアンケート調査によると,日本の技術力は欧米と比較してそこそこ平均レベルであると認識している結果がでており,この解釈には頭を悩ます.
−次に研究組織の現況に触れると大学は壊滅的な状況にある.国の研究機関は縦割り組織型で,長期的戦略に基づく大規模研究テーマが少なく,ユニークな研究成果も出てこない.ゼネコンの研究所は外国では見られないわが国のユニークな存在であり,最近徐々に色合い(特色)を出してきているが,多くは横並びである.このような現状打破の一方策として産官学の役割分担論が唱えられるが,現実的にはなかなか困難な実情がある.

【他分野や海外での研究開発の現状】 
−他分野の研究開発について言うと,科学技術基本計画の策定に伴い,現在,他分野から少しずつうまいシステムやプログラムが構築されつつある.これには一種の競争原理も含まれている(東工大フロンティア共同研究センターではバイオなど6分野の研究テーマが動いている). 
−米国におけるHigh performance steelなどのHigh performance Construction materialに関する研究開発事例から考えると,特許とかオリジナリティを上手に尊重する仕組みあるために新しいものが創造されやすい.この際に必要とする研究開発マネジメントは大学ではなくコンサルタントが行うのがふさわしい.米国では高学歴者がコンサルタントとなる.この点はコンサルタント委員会で議論して欲しい. −大学サイドから他分野との比較を見ると,研究開発や技術開発の無い分野は大学の将来構想からはずされてしまう.大学として必要な研究開発自体は学生にとって大変魅力的な行為である.しかし,土木建設系の現状を紹介すると,研究に専念したドクターの勤め先が無く,したがって進学者は減少し,その結果研究ができないと言う悪循環が形成されている.すなわち,能力と成果にあった報酬が保障されるシステムを持たない分野はダメになっていく. 

【わが国の建設系研究開発に関する課題】 
−米国などでうまく機能している研究開発の仕組みが何故日本ではできないのかを考察する.わが国では研究開発のマーケットが無く,研究がビジネスにならない.特に建設業において無い.それは研究が経営資源として位置付けられない仕組みとなっており,仕事の受注が研究開発とは無関係なところで決まっていることが問題である.国土交通省でもこれまでの発注体系の公平性が過度になっていないかを議論している. 
−今後のグローバル社会の到来において,わが国の競争力を学会なりに自己評価した結論は「コスト競争力を除けば技術はある」というものであった.しかし,コスト競争力が無ければビジネスにはなり得ないし,それは技術と言えないのかもしれない.他に,国際契約からクレーム処理までこなせる人材の問題がある.最近では,建設産業はハードウェア技術が競争の源泉ではないとする認識がある.土木学会レポートではフィービジネス化(優秀なエンジニアの労働時間に対して代価を払ってもらう)を提案している. 

【今後の建設技術の在り方】 
−わが国の社会資本レベルは依然低い状況で公共事業を休んではいられない.しかし公共事業費は減少している.このような時代にどう対応すべきかをエンジニアは考えなければならない.宇宙,造船,鉱山等の分野は下火になっていったが,建設は消滅させるわけにいかないので,現在の課題をどうにか解決して次の時代にまで続ける努力が必要である.
−そのための一方策として,我々の技術開発を推進し技術者が誇りを持てるシステムや,技術開発に努力すれば発注機会が高まるインセンティブを与えられる仕組みの構築が必要である.時間の概念(工期短縮)や社会的費用(迷惑度)などもうまく評価するシステムを導入する.さらに性能発注,DB,ターンキー方式,VEなどの導入で自由度が増加する.ただし,現状のVEはうまくいっているとは言えない.制度は全てそろっているがうまく機能していない.性能発注においてはまさしく技術力が必要となるシステムである.また,コスト縮減はデザインレベルで行うのが効率的であり,これもコンサルタントの範囲である. 
−土木学会の動きとして,新技術の信頼性を認知するシステムの構築,正当な代価が支払われる制度の構築,現在は無償のソフトや特許等権利の問題に関する提案を進めている. −最後に,新技術を導入する際のキーワードとして「競争と評価」を挙げたい.「競争と評価」が無い限り技術議論も無いし,技術者議論も無い.競争社会があって初めて技術議論の場が出てくる.技術を議論できることで誇りが持て,ビジネスも進展する社会を創造していくのが我々の役目である.さてコンサルタント自身は今後をどのように考えているのだろうか?

 

話題提供2 高崎哲郎 帝京大学短期大学教授   「誇り高き明治の土木技術者たち」 
−本日は青山士と,宮本武之輔を題材に話したい.特に宮本武之輔についても触れたい理由は,土木屋をとりまく環境が現在とは比較にならないほど劣悪だった当時の官僚社会において,土木技術者としての誇りを持って現状を乗り越え,法科優遇の官僚社会で立ち上がっていく生涯を送った人物だからある. 

【現在の技術者像における課題】 
−三木先生は技術が無いと話されたが,人材育成を考えた場合,現代には技術を乗り越えた新しいinnovationを実践する人材が居ないのではないかと思う.現在の状況に危機感を抱く土木学会においてはそうした人材を創ることが重要課題だと思える.

【青山 士の技術者像】 
−大変に興味ある人物像であったために自分の研究対象とした青山士の70歳を過ぎた頃の話題の一つに,現場視察で意見を求められた際,他の官僚だったら技術的な細かい点を論じるような状況下において,「職員よ正義観を持って国民の福祉向上に奉仕せよ」とのコメントを残したエピソードがある.また,土木学会誌の巻頭言にて「土木技術に対する認識と尊重と協力とをより広く社会に呼びかけ求めて,人類福祉の増進に尽くすように,青山自身も率先してこれをやりたい」ことを記している.
−明治時代,国家の揺籃期が少し経過した頃,皆さん周知のように青山はパナマ運河の大事業に参画した.去年の3月に1週間ばかり,青山士が汗をかいたパナマの現地に行く機会があった.そこは灼熱地獄の現場だった.青山士が手がけてから約1世紀を経過しているガツン閘門は現役としてなおも健在であり大いに感銘を受けた. 
−現地にて,青山士の7年半(25歳から32歳まで)にわたるパナマ時代の仕事振りの記録資料に目をとおしたが,技術とマネジメントの全ての項目でexcellentと評価されている.すなわち,日本人でありながら青山は技術と人を使う土木屋としてexcellentだった.しかも,そうした体験・実績を二流技術者のごとく周囲にひけらかすこと無く,当時の米国技術のエッセンスと人を使うことのエッセンス,土木技術者としてのエッセンスを胸に秘めて帰国した.


高崎哲郎 教授

【土木技術とは人なり】 
−こうした技術者像に接すると,土木技術とは「血と肉の人間が創りあげるもの」であり,最も肝要なことはそうした「人となり」の視点であると言わざるを得ない(技術図書を読みあさるのも悪くないが).したがって,Civil Engineerを「文化技術者」と呼びたい.人間の福祉向上のために役立つ仕事に努力する(汗をかく)技術者のことである. 
−国土交通省荒川下流工事事務所に,荒川放水路竣功記念の記念碑がある.これに刻まれた青山士による碑文「この工事の完成にあたり多大なる犠牲と労役とを払いたるわれらの仲間を記憶せんがために」は,(クリスチャンだった影響もあるが)共に建設現場で働いた人夫をも称えたもので,こうした碑文は当時の官僚によるものとしては破格である.土木技術者としての精神性を大いに感じることができる.こうしたエピソードを持つ青山士は常日頃「技術は人なり」と言っていたと伝えられる. 
−昭和の始め,信濃川に構築された竣工後5年目の大河津分水路が濁流に呑まれて水没した.青山士と宮本武之輔がその復旧工事にあたり,復旧が完成した時に青山が作らせた記念碑の言葉「万象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ 人類ノタメ国ノタメ」なる意味は,全ての現象から発せられるアピールを一早くキャッチする者は幸いであると解釈している.どんな優れた構築物も自然現象の前では崩壊することもある.そうしたアピールが察知できて国民の福祉向上に奉仕できる技術者精神を唱える碑文であり,土木技術者の精神,青山士の精神,あるべき姿がこれに記されている.

H12年度第2回コンサルタントシンポジウム風景(1/30/2001)土木学会図書館講堂
【宮本武之輔の技術者像】 
−宮本武之輔も,当時,法科優先・法科優越であった官僚時代で土方の親方という役目を全うし,弱い人貧しい人のために奉仕した人物である.著名な業績の一つが大河津分水路の復旧工事で,4年間で完成させた.事故処理現場ということで元気の出ない作業員・職員にインセンティブを与えるために作業歌を作り,作業員・職員の家族に仕事の立派さを伝える努力をした所長(管理者)であった.また,所長の役職でありながら当時のマスコミ対応や,被災住民対応に自ら対応した人物でもあった.当時の官僚社会の差別を受けていたにもかかわらず,技術は人なりで,国民の福祉向上を原点において働いた人物であったが,後年は優秀な技術者幹部を満州に送らざるを得なくなり国家の破滅につながる残念な道へ向かってしまう.

 

話題提供3 中村裕司 (株)I.S.S.代表取締役   「欧米に学ぶコンサルティグ・エンジニアの未来」 
【コンサルタントとしての決意】
 
−本日の話題提供者の中では自分だけが皆さんと同じコンサルタントである.現在は主にわが国と米国とで業務活動をしており,業界人となって今年で30年目を迎える.そのうちの約4割の期間を海外で仕事してきた.
−自分の考えでは,ODAやOECFという日本資本による海外プロジェクトは本来の国際コンサルタント展開とは言えないと認識している.南半球や発展途上国を相手にした活動ではなく,北半球のアングロサクソンを相手にしたプロジェクトが自分の国際コンサルタント業務であると決意して,個のコンサルタントとして頑張っている. 
−自分と三木先生との会話の中で「土木も2千万プレーヤーをつくろうよ」との話題がでるが,これは自分が目指す方向が集約されている言葉である. 


中村裕司 代表取締役

【コンサルタント環境の今後の変化】 
−本日の話題は,昨年11月にアメリカ,12月にロンドンに飛び,主としてAsset Managementに係わるHighway Agencyの方々と意見交換した結果を踏まえて,これからの展開に関する私見を述べてみたい.コンサルタントを取り巻く今後のグローバルな環境条件として,話題のタイトルは(配布資料に示したとおり)「ゲームが変わる」「ルールが変わる」であり,目指す方向はSustainable Societyの実現だととらえている. −20世紀から21世紀に移行して我々のゲームの内容が 「造る時代」から「利用する時代」へ,「建設する時代」から「マネジメントの時代」へと変化するととらえられる.ゲームが変わると当然ルールも変更されるが,我々が読み取らねばならないルールの変化の一つ目は,「官主導」から「市民主導」のルールに変わると考えている.英国では Customer Focusedを意識した政府運動プログラムが進行中である.二つ目は,投資対象が価値創造に向けられる,いわゆるValue for moneyである.三つ目は仕様発注から性能発注へ,発注形態が設計施工一括方式へ,技術万能時代から多様な評価尺度の時代に向かうのが21世紀のルールではないかと認識している. −このようなルール変化が生じると,三木先生がおっしゃられたライフに関する見方も変化してくる.今までは投資対象となるか否かの「要」の部分と,性能を示す「強」の部分だけが強調されていたが,これからは「美」である感性の部分の寿命も加わる.すなわち,これからのゲームとルールはSustainable Developmentを究極の目的とした体系になる. 

【コンサルタントの新たな役割】
−ゲームとルールが変化すれば,我々コンサルティングエンジニアに対する「要求が変わり」「役割が変わる」.組織の論理で物を言うのでなく,個人の倫理や個人の技術感で技術的判断をしていくことが要求される.また,土木技術と言う単一技術だけにあぐらをかいている時代ではなくなり,複合専門性が問われてくる.よく言われることであるが,「管理の時代」でなく「マネジメントの時代」への変化であり,この場合のマネジメントとは,「管理」ではなく「運営・保持保全」と訳したい.建設業はインフラに対するサービス業,われわれ土木技術者は,高崎先生の話題にでてきた文化技術者に相当するCivil architectを実践することが重要となる.建設がマネジメントの時代に変わるのであるから,われわれはマネジメントコンサルタントを目指すことになる.すなわち建設コンサルタントからマネジメントコンサルタントがわれわれの未来である.その時に我々を支えるために必要とされる技術がIntegrated Solution Service,統合された解決サービスのプロバイダーである. 

【英国に学ぶ公共事業のヒエラルキーとコンサルタントに求められる資質】 
−最後に,今回イギリスへの情報収集に行って学んだ集大成として,イギリスでは使命追求(mission driven)のヒエラルキーを次のような階層構造で設定しているように自分は勉強した.階層の最上段として最終的に目指すべきことが持続的発展(Sustainability)である.その石杖になるのが市民志向(customer focused)で,それを支えるのが価値創造(Value for money)である.その価値創造をするためには事業執行指標が必要となる.Integrated solutionを行うわれわれmanagement consultantあるいはCivil architectは,それぞれのヒエラルキーに応じて,すなわち,持続的発展のためには事業目的の追求,市民志向のためには合意形成,価値創造のためには寿命函数の新たな導入,事業執行指標のためには知を統べる技術,複合専門性,多様な提案力,マネジメント力,プレゼン能力などの階層ヒエラルキー毎に対応した技術力を持つべきではないかと考えている. −コンサルティングエンジニアにとって明るい21世紀が訪れるように,これからも事業機会を広げるような勉強の仕方を続けていく必要があると提言したい.

 

話題提供4 西村隆司 日経コンストラクション編集長   「国民から見た日本の土木技術者」 
−日経コンストラクションの編集をとおしてわが国のコンサルタントやエンジニアを見てきて感じたことを参考に,これから求められる技術者像について話してみたい.


西村隆司 編集長

【わが国のコンサルタント像の現状認識】 
−仕事量が減り,このままでは数年後にかなりの廃業が予想されるという建設コンサルタントビジネスを取り巻く厳しい現状に対して,コンサルタント自身の危機感の薄さが感じられるという意見を最近よく耳にする.日経コンストラクションが他産業のビジネスマン対象に昨年実施したアンケート結果から,現在のコンサルタントがどのように見られているかの実情を紹介する. 
−建設産業全体に対するイメージを尋ねた結果では,9割以上の人が社会基盤整備の上で欠かせない重要産業であると回答している.業界内の不透明性を指摘する回答もあるが,日本の土木技術は世界一であると言ったわが国の建設技術に対する賛美の声は多くの人から聞こえている.ところが,他産業のアンケート回答からは「建設コンサルタント」「コンサルティングエンジニア」の言葉や概念が出てこない. 
−次に,建設業界の異業種であるゼネコンへのアンケートに基づいたコンサルタント像を紹介する.設計図書のミスについてのアンケートでは,7割が詳細設計は現場をよく知っている建設会社に任せた方が良いと回答している. 

【異業種によるコンサルタントビジネスへの進出】
−また,ゼネコンから見たコンサルタントビジネスのとらえ方の例として,特に関心が高い分野としては維持管理や劣化診断,最近ではPFIのアドバイスなどの分野において,新しい部署を設置してニュービジネスとしてのコンサルタントビジネスの取り組みを開始している実態がある.最近でも大手ゼネコンが数社集まってISO支援ビジネスの会社を設立している.情報化の支援ビジネス,中小企業の技術サポート,CM,PMなどの分野において,大手が持っているノウハウ,知的財産,総合マネジメント力を試すものに関心が集まっており,今後もどんどん出てくるだろう. 
−こうした傾向はゼネコンばかりでなくシンクタンクでも見られる.社会実験,住民参加などのノウハウを既に有するシンクタンクが上流分野のコンサルタントビジネスに着目しており,よきライバルになりそうである.しかも,シンクタンク自身にライバルを尋ねると大手ゼネコンと回答している.大手ゼネコンで長年マネジメントした人がいたらスカウトしたいとまで言っている.ここでもコンサルタントの名前が出てこない. 

【コンサルタントの雇用環境】 
−建設コンサルタントの雇用関係の調査結果では,ゼネコン回答の35%よりは少ないが,コンサルタント174社中約2割弱がここ2,3年以内に人員削減を予定している.仕事量の減少とともに,建設・運輸・農水の労務単価も平均で5.9%下落しており,ゼネコンと比較すると落ち込み幅は少ないようだが,コンサルタントの収入は低下傾向にある. 

【コンサルタントの技術力】 
−コンサルタントの技術力に関する周囲の見方を紹介すると,7割程度の意見がコンサルタントの技術力が落ちてきたと発言している.このうち非常に技術力が低下しているの回答が22%あり,この回答の内の半数が発注者からの意見である.官の発注者における落ち込みほどではないと思うが,今後,官のビジネスをサポートしていく立場に対するコンサルタントの技術力の見られ方としては危惧する内容である. 

【21世紀に輝くための技術者のプライド】 
−建設コンサルタントのステータスを議論する際の参考として,同じ建設に携わる建築士の状況と比べてみた.建築士の場合,年収面ではコンサルタントより低い場合が多い.労働時間や残業面でもコンサルタント以上と言うケースが多い.さらに徒弟制度的な修行期間の仕組みも残っている.ところが,このような就業環境下でもステータスを感じて建築設計を志す人材が減っていない.このステータスを感じる根拠は,多分,個人の顔で仕事をできるという点が挙げられる.建築士に対して,コンサルタントは組織のイメージが強い.以前実施した「わが社のエース」というアンケートの際に,ゼネコンは喜んで提示してきたのに対して,コンサルタントの場合は組織で仕事をしているので個人名を出すのははばかれると反応した大手コンサルタントがあった. 
−組織対応を否定する気はないが,公共事業での評価が企業から技術者個人に移行している現実があり,発注者もそうした個人データベース化を構築している実情を考慮すると,計画・設計というクリエイティブな作業を組織・サラリーマンで実施することについて疑問が抱かれる. 
−制約だらけの業界内においても,例えば,劣化診断専門コンサルタントなどの中には,個人ベースで活動している技術者がいる.ちなみに,彼らは従前のコンサルタント以外の会社からの転職組である.多くの制約の中では容易なことではないが,技術者としての意見を貫いて発注者提案を変更したケースもある.また,談合に関らずに結局は倒産したコンサルタントの社員は,「談合するぐらいなら会社がつぶれてもかまわない」と言って小さな会社で現在も頑張っている.これらのケースで共通して感じることは,「技術者のプライドを捨てていない人」がまだいるという点である.技術者のプライドをどこまで持ち続けられるかにより勝負が決まってくるという気がする.

【技術力を備えたコンサルタントにとってはチャンスの時期】 
−今後のコンサルタントに求められるベースはやはり技術力である.しかも,これからの顧客は官庁発注者と異なり素人の市民である.市民の中にはかなりえげつない要求をしてくる場合もある.そうした市民を相手とする場合は打ち合わせと言うよりは商談に近くなり,素人であるから技術説明ではなく問題解決法を提示することが重要となる.
−日経コンストラクションでコンサルタント特集を初めて企画したのが,今から7年前の1993年であった.その時の内容を今読み返してみると,現在の特集号にそのまま使える事項が並んでいる.すなわち,コンサルタントも以前と比較するとずいぶん提言,提案,主張するようになってきているが,7年前の課題から変化していないという点はいささか心もとない.これからは,概念的な提言,提案をするだけでなく,ビジネス環境を変えていくことを具体的な形で示すことが求められている. 
−最後に,21世紀はコンサルタントにとってチャンスである.それは,発注者がコンサルタント個人の能力に着目し始めたのは確実であり,異業種が各種のコンサルティングビジネスに参入し始めたことは関心が高いということであるから,今こそ,コンサルタントの実力や存在価値をアピールすべきであり,確固たる地位を勝ち取っていただきたい.

 

パネルディスカッション「技術者の復権と新展開−21世紀に輝く技術者とは−」 

パネリスト : 三木千壽,高崎哲郎,中村裕司,西村隆司
司会進行支援 : 駒田智久(日本技術開発(株)常務取締役)

駒田 : 設計分野における「性能規定設計」概念の導入や,コンサルタント業界においての「技術力に基づくコンサルタント選定方式」など,我々を取り巻く状況が様々に変化していく中で,どちらも考え様によっては技術者の解放,復権を促すものととらえられる.すなわち前者は,仕様書やマニュアルに縛られ技術者の創意・工夫・努力が反映されにくい状況であったこれまでの仕様規定からの解放であり,後者における技術力に基づいた発注システムは今後間違いなく進んでゆき,その際には,会社ではなく技術力を担うエンジニアが着目されるだろうという点で技術者の復権である.これからは真に実力があるコンサルタント個人が仕事をできる環境となっていく.そのようなことを委員会で申し上げたことも要因となって本日のシンポジウムの内容が企画された.
 ディスカッションの視点として,一点は,三木先生よりご提示のあった「技術の復権」を含めた上での「技術者の復権」を,二点目として,わが国のコンサルタントの現状を踏まえて,どのようにすれば必要とする技術力を持ったコンサルタントを目指せるのかを議論したい.はじめは,パネリストの方々からの補足発言や,話題提供していただいたパネリストの方へのフロアーからの質問を伺います. 


パネルディスカッションプログラムでのパネリスト

【個人が出ないわが国のコンサルタント】 
高崎 : 地域の図書館で土木分野を扱った本がいくらも見当たらないことから,国民への発信の努力をほとんど怠ってきた分野と言える.また,本日のようなテーマの議論は10年前とほとんど変わっていない.こうした状況をいつまで継続するのかを問題提議したい.市民とのつながりという点で言うと,土木では物は見えても人物の顔が見えない.国民の間の日常生活において土木の顔は全く見えていない. 
三木 : 顔が見えるヒーローを作れば良いという単純な問題ではない.土木は個人の責任のもとでの仕事がしにくいことから組織で動くしかない状況が多い.そのため個人で発言する意識が少ない.このような土木界の性格に関しては教育者としても反省する点がある.現在の懸念事項に対して学会などでも盛んに議論しているが,本来の対応は,官学サイドから言うべきものではなく,実際に手を動かしている当事者から出されるべきものかもしれない.ただし,なかなか個人からのレスポンスが得られないのが現状である. 
駒田 : 中村さんの指向する仕事はわが国のコンサルタントと比べると異質分野なのでしょうか? 
中村 : 自分はコンサルタント業界に居るつもりであるが,わが国の一般的コンサルタント像と比べると自分の考え方は異分野的かもしれない.今の国内のコンサルタントは,技術のとらえ方の領域が狭い専門技術知識にこだわりすぎで,個人の責任において個人の人格からほとばしるシナリオ創りに関する力量が欠けている.西村氏も言われたように,打ち合わせではなく商談の技術力が大切であり,欧米コンサルタントとの大きな違いは,わが国のコンサルタントは人間を基本にした技術の周辺にあるトップセールスができない点である.

駒田 : それでは,フロアーからのご質問を伺います. 
【発注サイドの今後の変化】 
佐伯(日本技術開発)
 : 中村氏のコンサルタントの役割が変わるという中で,発注機関の変化について伺いたい?
中村 : 例えば,役所のインハウスエンジニア100人の内95人は要らない時代とするのが望ましい.技術陣はアウトソーシングされて別途新たなマネジメントビジネスをすれば良い.これからは照査ビジネスが必要となるから.このような時代では行政は行政サービス能力が大切であり,事業の執行能力は要らない.そうした部分は民間にアウトソーシングされる.
高崎 : 今,話題にされたインハウスエンジニアの実情としては,答弁書作成等のデスクワーク・ペーパー業務に追われ,技術屋としての生きがいを見出すのが困難な日常環境の中で土木技術系の役人は疲れている.しかし,官は既得権をなかなか手放さないものであるから,インハウスエンジニアに関する中村氏の構想の実現は壁にぶつかる部分が多いだろうが,どしどしぶつけるべきだと思う.宮本武之輔の時代は直営事業であり,本人はトンカチ屋としての土木屋ができた.それに比べて現在の官の技術屋はデスクワークが主だから当時とはかなり異なると思う. 


駒田智久 委員

【コンサルタント業態の変化と環境改善の動向】 
三木 : 中村氏の意見には,コンサルタントの2分化が始まると言う読みが含まれている.欧米では明確に分かれているところの,照査技師と普通のコンサルタントとの2分化である.前者は性能審査ができるなどの高い技術力に応じて,高い地位と高い報酬が保障されているコンサルタントである.高学歴を受け入れられるコンサルビジネスを必要とする視点からも2分化は不可欠に思う.なお,このような部分をインハウスエンジニアが代替できるかは疑問である. 
志村(川田工業) : わが国にはコンサルタントに対するフィービジネスの評価が無いが,その点に関する改善の動きが学協会であるか?
三木 : いろいろな形で提案し働きかけているが障害も多い.例えば,コスト縮減のためには最も知恵を必要とする基本設計部分が安易になされた後に,詳細設計や施工時にコスト縮減を求めている.非効率であることは官側も認識しているであろうが改善提案に対する障害も大きい.一方,このような業界の体質を見ている学生は皆土木から離れていっている.個人の責任で仕事ができる業界にすることが大変重要である. 
駒田 : 我々の業界からの動きについて委員長のお考えは? 
石井(委員長) : コスト縮減策の仕組みを検討していた時,コンサルタント業界としては上流の計画・設計過程で実施するのが大切であると主張した.3年後のコスト縮減効果の成果では10%のうち6%ぐらいをコンサルタント領域で頑張ったと思う.ところが,その結果を踏まえた最近のコンサルタントフィーのシェアーは減少しているので,正直言って残念である.今のコスト縮減策は,コスト縮減策の検討において最も重要とする調査・設計のコンサルタントフィー部分を削減しようとしている.これはまさに技術力軽視の方向であり,業界の魅力が失われていく原因にもなっている. 

【これからのコンサルタントに求めたい資質】 
大野(オリエス総研) : 高崎先生への質問として,今後,個のコンサルタントとしてのリーダーシップ発揮を目指す場合に心・技・体のどの部分から究めるべきか? 
高崎 : 土木事業資料館を造ろうとした時の例で言うと,土木分野の人をメンバーに入れても必要とする資料がうまく集められない.すなわち,土木屋に一般教養や歴史的認識などが欠けている.技術論ばかりで多用な感性が欠落している.心・技・体と言うよりも,幅広い教養人としても育成し,感受性が鋭く鍛えられた上で土木技術に携わる技術屋となる努力をしてほしい.

【技術・技術者の復権に向けて】 
駒田 : この先は,(三木先生のOHPを参考にしながら)技術,技術者の復権の獲得に踏み込むディスカッションへと進めていきたい. 
高崎 : われわれの文化・文明,歴史的価値観を感じさせる美しくて良いものを提供する場合には多少コストを費やしても良い,という考え方は土木分野で受け入れられないのであろうか? 
三木 : きれいな街や長持ちする施設等の基本的な考え方はCivil分野では皆が考えていることである. 
駒田 : 一番の根本として,わが国では本当に技術が受け入れられるだろうか,技術・研究開発がビジネスになるのだろうか,コンサルタントに多い高学歴が武器になるのだろうかの課題に対してご意見を伺います. 
佐伯(日本技術開発) : 今までの議論は社会システムに起因している部分が多い.そうした問題の解決には土木分野における公共事業執行システムの改善が必要である.例えば,会計法などの改善は避けて通れない.コンサルタント委員会では,こうした課題に対する制度改善に向けた建設的な提案を積極的に実施してほしい.日本の風土に応じた社会資本整備のあり方に基づいた社会制度の改善,あるいは自然現象に対する防災,安全とは何かなどのアピールとともに社会システム改善を提案してほしい. 
三木 : 現状は,良かれと思う新しい制度は出来つつあるのだが,実際にはうまく機能していない点にある.なぜうまく機能しないのかを考えて改善策を提案する必要がある.雑談だが,学生たちといっしょに公開される応札業者リストを見て,次はどの業者が応札するかを当てるゲームができる状況が依然残っている.そうした実情があるのは好ましいことではない. 
石井(委員長) : ご指摘の改善策の提案に対しては,コンサルタント一社では無理であり,建コン協活動ととらえるにも無理があり,一番力を発揮するのは学会であろうと思うが,実情は学会からの発信はほとんど無く,現状はうまくいっていない.そこで,今,議論されているような根幹に係わる話題をメディアも根気よく多いに取り上げてほしい. 

【個人の技術力が見えない日本】
駒田 : 現状では技術がビジネスに直結していない理由をどのように考えるべきか. 
西村 : 土木分野の研究開発の現状は各社団栗の背比べであって無駄も含んでいる.また,提案技術内容の証拠作りにエネルギーを費やしている部分が大きいように見える.根本は技術開発周辺の契約制度等のシステムに課題が含まれているのだろう. 
富永(川鉄) : 自分の40年間の体験談から考えると,国際プロジェクトの際に「あなたの技術力は何か」との質問を受けて絶句したことがある.顔が見える技術とリンクしていない経験は自分の技術と言えない.彼らの評価に値するのはプロジェクトマネジメントや,技術開発成果を出した直接の担当当事者の本人に当たる場合である.ところが,わが国ではそうした個の顔が見える技術力に対して次に必要とする評価システムがない.明石大橋の技術力はだれの技術力かと質問した場合,関係した100社以上のJVの技術力だと発言しても良い.こうした発言をしないと土木技術者のインセンティブが得られない.また,発注者においても,この技術力の評価に基づいてA社に発注したと,正々堂々と説明責任ができるようなシステムであってほしい. 
三木 : 「日本では技術力が見えない」という記事が明石海峡大橋を題材としてJapan's JewelというタイトルでENRに掲載された.この記事のタイトルは,明石海峡大橋が宝石のようにすばらしくもあり,また宝石のように金がかかっていることをダブらせて痛烈に批判していると読み取れた.実際,日本の土木プライスはグローバルスタンダードの倍である.VEの仕組みが正しく機能するようにもう一度考えてみる必要がある.アメリカの例で言うと,VEのおかげで大いにコストダウンが図られたが,次に生じたのは多くの事故だった.コスト縮減はだれのためのアクションと考えるか?それは,Tax payerである国民のためである. 
高崎 : 顔が見える努力という議論の中で言えば,途中経過も含めた技術資料をきちっと保存してほしい.しかも,それをオープンに公開して誰でも資料の取材ができる仕組みがほしい. 
駒田 : 日米で事業に携われている中村さんから見て,米国では確かに技術がビジネスとなるのか?また,日本との違いは何処にあるかをお尋ねしたい. 
中村 : 一個人である自分が欧米の官庁にe-mailを送った場合,ほぼ100%翌日には返信が来る.それで個人レベルでも面会のアポイントメントが取れる.こうしたオープンさには常々感心している.また,欧米ではフィービジネスができる.一方,わが国の場合,一個人が官庁にe-mailを出してもまず返信はいただけない.また,フィービジネスに係わる部分は別形態仕様の仕事に代えてしか代価が払われないし,そのフィー評価が過小評価である.この部分の改善が,将来の明るいコンサルタントビジネス構築の際に大変重要なポイントとなる.

【コンサルタントに求められる今後の姿勢と努力】
駒田 : 残りの時間は現状のコンサルタントに技術があるのか,今後,どのように技術に対する努力をしていくべきかについてご意見を伺いたい. 
根岸(パシフィックコンサルタンツ) : このシンポジウムで2点ほどヒントを見つけた.三木先生がおっしゃられた個人のresponsibilityで仕事ができる環境を生み出していかねばならないという点と,高崎,西村両氏がおっしゃられた技術者としてのプライドを保持できる環境を守っていくという点である.西村氏の指摘されているこれからのハードルについて,今後どうすべきかのご意見を伺いたい. 
西村 : 発注制度が変わるまで待ち続けるのかという点と,コンサルタントの中立性,独立性がお題目に終わってしまわないかの二点を挙げている.一時期,建設CALS/EC構築の際に,設計図書に関する著作権テーマが問題になったが,その後はどうなっているのだろうか.コンサルタント業界は待ちの姿勢が多いように感じる.ダメ元で構わないから,いつまでにという時間概念を明確にして何をどうするの発信がコンサルタント業界に求められている.概念論ではなく具体的なアクションや姿が見たい.個の中立性・独立性を考える場合も,建築と異なり土木の場合は独立しにくい状況はある.個だと下請けにされてしまうだろうが,具体的な行動イメージを発言することが重要である. 
阿部(建設技術研究所) : 新しい制度を作っているとのことだが,学識者らが作った制度だからいつまでも本物にならない.人に作ってもらったものは自分たちのものにはならない.我々自身が制度をつくらないからincentiveも無く自分のものにならない.自分の海外経験からわが国のエンジニア像を分析すると,DiscussionとNegotiationができない.海外ではFiling systemがしっかりしている.ユーロトンネル建設の際に日本のコンサルタントに対してInsurance問題が生じたようなRisk managementへの配慮.さらに,日本の官は土木事業でのTime speedに対するincentiveがなくAgile management(俊敏なマネジメント)となっていない.これらのわれわれに欠けている部分はIndependent Engineerの思想でもある. 
駒田 : 海外システムとの比較からご意見が出ましたが,国内で議論されている問題の中にはコンサルタント設計図書のミス防止策などと言う次元のものまでが含まれています.わが国ではコンサルタント技術の復権はいかがな状態でしょうか? 
佐伯(日本技術開発) : 現状われわれのシステムの課題は,官とPublic servantとの関係に起因する部分が多いと思う.こうした点を改善するシステムについて土木学会で提言してほしい.技術の復権の視点から言うと.近年のDigital化の弊害として設計作業が矮小評価されているとも思う. 
高崎 : 土木と環境のテーマをもっと展開してほしい.このテーマに対する土木分野の反応が遅いように感じる. 
三木 : 環境問題については土木分野でも多角的な活動を実施している.成果はもう少し長い目で見てほしい.本論に戻すと,これからは,物を造ってなんぼの発想を転換し,ソフト提供をもっと重要視すべきである.ノウハウに対してチャージを取る仕組みである.鋼橋梁の疲労破壊を例に取ると,補修の大工事ではなく疲労部材の一部に穴をあければ解決すると言ったノウハウ提供への評価である.この例のようなノウハウの提供とそれに対するチャージの要求は,中村氏がおっしゃられたAsset managementや環境問題の視点からも大切な視点だと思う.

駒田 : わが国のコンサルタント業界はそろそろ明確に2分化する必要があるのでしょうか?そうしないと,コンサルタント全体が沈没してしまうとか,正当なコンサルティングフィーが確保できなくなるのでしょうか? 
山下(建設技術研究所) : 少数精鋭だけの条件では,かなりの実力をつけておかないと組織的に食われてしまう心配もある.欧米の動向から推察すると,ある程度のパワーを持たないと個人レベルでは好きなように買われてしまう心配もある.個人的に横のつながりを広げる生き方に可能性があるように思う. 
白井(パシフィックコンサルタンツ) : 業界の不透明さが言われていることへのこれからの土俵作りとして,個としての一人ずつが律して行動することが大切である.それがあって外からの正当な評価がなされるのだと思う. 
駒田 : 最後にもう一言ずつパネリストの方々にお伺いします. 
三木 : 設計分野での今後の動向で,性能設計が導入されると設計内容を検証するコンサルタント技術が出てくる.そうした性能設計の仕組みを作ったので,コンサルタントにはラストチャンスがある.ただし,確かにお仕着せの仕組みであるから,これも実際にはうまく機能しないと言うこともありえる. 
高崎 : わが国の旧態依然とした部分の土木屋ごっこはもはや改めることです. 
西村 : 本日のシンポジウムに参加して,コンサルタントがこれから本当に輝きたいのかを聞きたかった.本日の参加者の方々は感度が鈍くないからこそ参加しているのであろうが. 
中村 : 本日の参加者の平均年齢がどれほどかに興味があった.また,CMはコンサルタント業界がやるのだという自覚と実力がほしい. 
駒田 : 本日のディスカッションでのkey wordは「個人」と「志(プライド)」であったように感じ取りました.本日参加された感度の高い方々は,職場に帰って本日の議論の水平展開を願えれば幸いですし,コンサルタント委員会としても本日のシンポジウムから得られた有益な情報を発信していただきたい.長い時間ありがとうございました.

 

閉会挨拶 大野博久幹事長 
−コンサルタント委員会では2年間を活動単位とし,7つの小委員会と特別委員会とで延べ100人ぐらいの委員が熱心に活動しています.当委員会は,発注者,ゼネコン,メーカー,異業種などにはこだわらず,基本的にはコンサルタントサービスに携わる方々を対象に活動して,ここ数年は少しずつ変身を遂げています. 
−最近の幅広い委員会活動から考えると,現在,一番大事なことはわれわれのパラダイムを変えることであり,そうしないと,せっかくの幅の広い議論を別々のものとして聞いてしまう恐れがあると感じられる. 
−そのためには,委員会内に新たなタスクフォースを設立することも可能であるので,皆様の積極的な参加やHome Pageへの自由なご意見などの力を得ながら,コンサルタントも力強くその存在感を示していきたいと考えている.


大野博久 幹事長

以上(記録 田中副幹事長)

 


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