報告:建設プロジェクトにおける環境配慮

 

 

1.はじめに

社会基盤整備に関するマスタープランや建設プロジェクトのF/Sあるいは環境アセスメントでは、環境配慮事例を参照することが多い。参照する事例は多数公表されているが、建設部門別または環境要素別に整理されたものや特定プロジェクトの報告が多い。参考事例を更に有効利用するには、建設部門・環境要素・プロジェクト等を横断的に整理すると共に中立的立場で評価を行い総合的にまとめた情報(環境配慮指針)が必要であると考え調査研究を進めてきた。

研究期間の前期は計画・設計・施工・供用の各段階における環境配慮の事例研究、後期は関連研究を行った。事例研究では、道路・鉄道・廃棄物処理・都市交通・河川部門における国内外の建設プロジェクト及び開発調査の環境配慮事例を収集し4段階評価を行った。また、関連研究では環境アセスメント以外の分野、例えば地球環境問題、環境リスクに係る問題、環境マネジメントシステム等における環境配慮指針の利用の可能性について調査研究を進めた。

 

 

2.事例調査結果

2.1 基礎データ

事例調査結果は全136事例であり、建設部門別に見れば、道路(56事例)・鉄道(30事例)・廃棄物処理(26事例)・都市交通(14事例)・河川(10事例)である。これらのうち、道路・鉄道・都市交通部門を合計すると100事例となり、陸上交通関係で全調査の74%を占めている。また、これらを環境要素によって整理すると、陸上動物(22事例) ・騒音(18事例)・水質汚濁(17事例)・陸上植物(13事例)・水生生物(12事例)・景観(11事例)・大気汚染(9事例)・振動(6事例)・生態系(5事例)・低周波空気振動(4事例)・日照阻害(3事例)・電波障害(2事例)・地形地質(1事例)・その他(13事例)である。

 

1)道路部門

対象事業は高規格道路・国道・地方道である。自然環境の残された郊外道路が対象であり、陸上の動植物と生態系に対する環境配慮が多数抽出(37事例、66%)されている。次に景観や騒音の事例が多い。それに反し、道路公害の主要因である大気汚染の事例が少ないのは、実効性のある環境保全対策を実施することの困難性が原因と考えられる。なお、その他に交通安全は含まれているが交通管理的要因は含まれていない。

 

2)鉄道部門

 対象事業は新幹線・都市鉄道・モノレールである。都市鉄道の供用時の標準的環境要素である騒音・振動・日照阻害・電波障害・景観が多数抽出(22事例、73%)され、鉄道沿線における生活環境保全の重要性を裏付けている。また、騒音対策(9事例、30%)が最も多く挙げられている。なお、低周波空気振動(4事例)は新幹線鉄道の事例であり、今回の調査では都市鉄道における環境配慮事例を見出すことは出来なかった。

 

3)廃棄物処理部門

 対象事業は海面埋立て最終処分場であり、陸上の廃棄物処理場とは異なる事例である。そのため、水質汚濁及び水生生物を合わせた21事例(81%)が抽出され、水環境に対する配慮の重要性を示している。

 

4)都市交通部門

 対象事業は平面道路・立体交差・橋梁架替え・電線共同溝・沿道環境改善・交通円滑化・共同輸配送・ITS等多岐に渡っている。前述の道路部門とは異なり都市内の道路が対象である。最も多い環境要素はその他(6事例、43%)であるが、その内容はすべて交通渋滞の解消を目的とする施策である。これらの施策により渋滞が解消されると沿道の大気汚染は低減されるが、渋滞解消は総合交通体系のなかで計画されねばならない。次いで自動車交通に起因する大気汚染と騒音の事例が多く、景観は1事例のみである。従って、14事例中13事例(93%)までが交通流に起因する環境問題であり交通管理や需要抑制の重要性を示すものである。

 

5)河川部門

 対象事業は一級河川水系である。すべての事例が自然環境に係るものであり、水中のみならず河川敷や河畔林を含む環境配慮が調査されている。従って、水生生物が主体(7事例、70%)であるが、生態系や陸上動物(鳥類)についても抽出されている。

 

2.2 評 価

全環境配慮136事例について表−1の基準に従い、全委員が優・良・可・不可の4段階評価を行い、その平均値を最終評価値とした。なお、全事例の平均値は1.9であり「良」に相当する。なお、建設部門及び環境要素別に整理した結果を表−2及び表−3に示す。

 

表−1 4段階評価の基準

評価

評 価 基 準

配点

環境配慮として優れている。

3点

現在の社会常識から見て概ね妥当な対策である。

2点

環境影響の低減であり普通レベルの対策である。

1点

不可

社会的責任の観点から環境配慮とは認められない。

0点

 

表−2 建設部門別の評価結果

 

建設部門

事 例 数

小計

不可

道 路

56

2

44

10

0

鉄 道

30

4

18

8

0

廃棄物処理

26

3

16

7

0

都市交通

14

1

9

4

0

河 川

10

1

9

0

0

合 計

136

11

96

29

0

 

表−3 環境要素別の評価結果

 

大気汚染

 

 

低周波

水質汚濁

地形地質

陸上植物

陸上動物

水生

生物

生態系

日照阻害

電波障害

 

その他

 

1

2

0

2

0

1

0

1

4

0

0

0

0

0

11

7

8

5

1

12

0

13

16

8

5

2

1

8

10

96

1

8

1

1

5

0

0

5

0

0

1

1

3

3

29

合計

9

18

6

4

17

1

13

22

12

5

3

2

11

13

136

 

 

3.考 察

収集した環境配慮事例の内容を考察した結果より下記のことが言える。

1)環境配慮は複合的または総合的に計画・実行して初めて所期の目的を達成する場合が

多い。

2)同一の環境配慮であっても対象プロジェクトの事業内容及び地域特性によって評価は

異なる場合がある。

 

3.1 複合環境配慮

 ここでは、道路騒音の複合環境配慮について述べる。道路騒音の環境配慮において防音壁の設置のみでは低い評価となり、複合環境配慮を実施しないと良い評価を得ることは困難である。例えば、表−4及び表−5に示す騒音レベルの物理的低減方法を道路の構造と地域特性に基づき、適宜組み合わせた複合対策を行うことが必要であり、その場合には優れた環境配慮の評価を受けることが出来る。この他、透明型防音壁の採用は騒音・日照阻害・景観に対する総合環境配慮であり、専門技術者の幅広い知識と経験に基づく計画や設計の必要性を求めるものである。

 

表−4 騒音の環境配慮(平面道路)        表−5 騒音の環境配慮(高架道路)

 

環 境 配 慮

 

 

環 境 配 慮

中央分離帯の防音壁と吸音材

 

防音壁と吸音材

歩車道境界の低層防音壁

 

防音壁上端のノイズリデューサ

植樹・植栽

 

防音壁上端の内側湾曲

低騒音舗装

 

低騒音舗装

シェルター(今回は事例なし)

 

高架裏面の吸音板

 

 

 

シェルター(今回は事例なし)

 

3.2 総合環境配慮

ここでは動物の道路侵入に対する総合環境配慮について考察する。動物の道路侵入防止方法は対象とする動物(哺乳類、昆虫)、大きさ(大・中・小型)や習性及び道路構造が確定すれば、一種類の施設によってもある程度の効果は期待出来る。ただし、道路延長が長い場合には対象とする動物と道路構造が多種多様であるため、可能な限り総合的に配慮することが望ましい。その上、もし侵入した場合の脱出施設も同時に設置する必要があり、侵入防止と脱出施設はセットとして計画しなければならない(表−6)。

 

表−6 動物の侵入防止施設

 

環 境 配 慮

対象動物

侵入防止柵

小動物、大型動物

侵入防止植栽

エゾシカ

侵入防止グレーチング

エゾシカ、牛

侵入防止反射板

エゾシカ

脱出用斜路(枡、側溝)

小動物、昆虫

脱出用バンク

エゾシカ

脱出用ワンウエイゲイト

エゾシカ

 

3.3 建設部門により異なる評価

道路と鉄道の両部門において透明防音壁の事例が報告されている。透明防音壁は、沿道や沿線の日照阻害に対して有効であるが透明度の保持が必要である。今回の事例調査では、道路部門の透明防音壁は市街地の防音壁に帯状の窓として設置されたものであり、鉄道部門の透明防音壁は道路のものより壁高は低いが全体が透明板で作られている。その結果、鉄道部門の方が道路部門より高い評価を受けている。

両者の評価の違いについて考察すると次のことが言える。

@高規格道路における透明防音壁の設置は一般的であるが、鉄道高架橋では少ない。

A道路に設置される防音壁の高さは、通常、鉄道高架橋の防音壁より高い。

B都市鉄道における防音壁の高さは、構造的に全面透明にすることが可能である。

C全面透明の防音壁は日照と景観の観点から良好である。

Dこれらの理由により、鉄道部門の方が高い評価を受けたものである。

 

 

4.おわりに

 この報告では収集した建設プロジェクトにおける環境配慮事例の分析結果を報告したが、今後、整理を進めて環境配慮指針の作成を目指すものである。