湖沼、貯水池の管理に向けた富栄養化現象に関する学術研究のとりまとめWGの活動について

 

環境水理部会では平成10〜11年度の間,表記WG活動(代表:埼玉大学大学院,浅枝隆教授)を行い,平成12年5月に報告書をとりまとめました.以下に研究の背景と研究分担課題をご紹介致します.なお,希望者に報告書をお配りいたしておりましたが,好評につき残部のすべてを配布し終わりました.関係の皆様に深く感謝いたしますと共に,今後新たな配布希望には残念ながらお応えできませぬことをご了解いただきますようお願い申し上げます.

 

湖沼・貯水池の管理に向けた富栄養化現象に関する学術研究のとりまとめ

 

1.研究の経緯

 湖沼・貯水池など陸水域の富栄養化現象に関する研究は,水理学をはじめ,湖沼学,衛生工学,生態学,生物学など幅広い分野で展開されてきた.しかし,研究相互の関連性を意識しながらテーマが選定されたり成果がとりまとめられているわけではなく,異なる分野間相互の情報交換も十分ではない.特に,大学での研究の多くは,個別のプロジェクトとして実施されているため,せっかくの貴重な成果の多くは利用しやすい形にまで整理されてはおらず,利用可能な技術としての体系化は十分ではない.これは,研究成果を工学技術へ還元する上でも,環境水理研究や技術開発をこれからスタートさせようとする研究・技術者への情報提供の上でも残念な実状である.こうした背景のもとに,湖沼・貯水池の富栄養化現象について各分野で得られた研究成果の再整理,総合化を目的として,以下の組織のもとで平成10年から表記の調査研究を開始した.国内外で得られた観測結果,実験結果,技術等の情報が収集され,必ずしも専門技術者とは限らない水域の管理者が,富栄養化現象を水理学,湖沼学,生物学など様々な側面から理解する上で一助となり得るような報告書作成を目標に調査を実施した.研究期間においては,河川環境管理財団からの河川整備基金助成を頂くとともに水理委員会,環境水理部会の関係各位から多くのご協力・ご助言を賜った.

 

2.組織

表−1 分担者と課題

氏名

所属

分担課題

浅枝隆

埼玉大学

@ 湖沼の生態系と富栄養化との関係

秋山壽一郎

九州工業大学

A 流入水と水質との関係,対策

池田裕一

宇都宮大学

B 貯水池内の流動制御による水質保全対策

松尾直規

中部大学

C 貯留水の流動特性と藻類の増殖及び集積現象との関係

道奥康治

神戸大学

D 水温成層と熱循環が水質におよぼす影響

岡田知也

運輸省港湾技研

E 湖沼内の波浪と富栄養化現象との間の関係

 

3.貯水池問題の変遷

 湖沼・貯水池における水工問題の比重は,図−1に示すように,時代の移り変わり,社会背景や研究手法の発展と連動しながら,冷水害土砂障害堆砂濁質粒子の長期浮遊)→富栄養化へと推移してきた.こうした変遷にも関わらず,水質管理に供するための環境水理学上の知見は,これまでの研究成果の積み重ねに負うところが大きい.また,水質過程の予測評価にとどまるのではなく,将来的には人為的な水質改善を含む水環境の創造技術を視点に据えた研究展開が当然,必要となる.

図−1 貯水池研究の変遷

 


 

4.富栄養化現象の構成要素と調査研究内容

図−2 富栄養化水域において発限する諸過程

 


 湖沼・貯水池の富栄養化は図−2のような諸過程に支配される複雑系であるので,水理解析に加えて生物・化学過程重要となる点が,熱や土砂を対象物理量とする他の工学問題との根本的な相違点である.水域の富栄養化は物理・化学・生物の諸過程が相互に関連し合う総合システムの中で発現することを前提にして水質管理を行う必要がある.例えば水質予測において,流れや乱れなどの水理過程がいくら精度よく再現されても,生物・化学過程のモデル化が不十分であると水質過程全体の予測精度は劣る.本調査研究における各分担課題は,富栄養化に介在する諸過程の学術研究成果をバランスよく整理すること,前述のように環境創造の一貫としての水質制御技術を勘案して表記の組織が構成された.各現象と分担課題の関連性は図−3のようである(図中の番号は表−1中の分担課題に相当).全ての課題が網羅されているわけではなく,特に生物・化学現象に関しては研究途上の課題が多く残されていることは言うまでもない.しかし,こうした学術研究のとりまとめ作業は,残された検討課題を再整理しクローズアップするためにも重要である.

図−3 分担課題

 

5.むすび

 調査作業を通して省みると,湖沼・貯水池の富栄養化現象に関する成書やレビュー論文が必ずしも多くないことに気がつく.今回の成果は必ずしも水質管理業務の「マニュアル」までには至っていないが,多くの関係各位からのご批判と問題提起を通して,今後の環境水理研究の体系化に少しでも反映されれば幸いである.

 調査研究成果は報告冊子としてとりまとめ,関係諸機関に配布予定である.