平成12年11月2日
東京都中央区長 殿
(社)土木学会 土木史研究委員会
委員長 佐藤 馨一

海幸橋の保全的存続に関する要請


 貴職におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。

 さて、貴区におかれましては築地市場入り口に架かる「海幸橋の保全あるい は移設」に関して検討中と伺いました。  昭和2年完成の海幸橋は従来、柳橋や永代橋と同様、タイド・アーチとされ ていましたが、構造的に分析した結果、ランガー桁である判明しました(特異 な構造の鋼下路アーチ橋−海幸橋−について、『土木史研究』、1999年発行)。 海幸橋以前にはこの種の橋はありませんので、わが国最初のランガー桁となり、 橋梁技術史的に極めて貴重な橋梁であると評価されます。
 またアーチ端部にヒンジがありますが、このような橋は江東区にある「白妙 橋(昭和12年完成、江東区)」を含めてわずかに2橋しかありません。デザ インにも特徴があり、一般に折れ線のランガー桁アーチ部分は優美な曲線アー チとなっています。さらに大きな親柱が点対称に配置され、わが国ではめずら しいアムステルダム派のデザインとなっています。これは震災復興当時、欧米 における橋梁デザインの一つとされていますが、我が国での事例は少なく、橋 梁デザイン史の観点からも注目されております。

 以上述べましたように、海幸橋は近代化土木文化財として、シビック・デザ インの観点から非常に価値の高い橋梁であり、貴区内でいろいろとご検討され てきたかと存じますが、可能な限り現地保存をお願い申し上げます。また、こ れが不可能な場合には、是非とも移設保存についてご検討下さいますよう、重 ねてお願い申し上げる次第です。







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