ニュースレター bQ3

2000 November


COP6をふり返って

広報小委員会 情報部会 山本 公夫

2000年11月13日からオランダのハーグにて、COP6(気候変動枠組み条約第6回締約国会議)が開催された。その目的はCOP3にて温室効果ガス削減目標などを決めた「京都議定書」の細かな運用ルールを決めることにあり、その合意にもとづいて各国の批准手続きを経て2002年に議定書の発効が可能となるはずであった。結果は、新聞等でご承知のとおりプロンク議長の懸命な努力にも係わらず、合意できずに来年5月のCOP6パート2に先送りされた。ここでは、COP6をふり返ってその概要を紹介する。議論の中心は「京都議定書」の運用ルールについてであり、その大きな論点は@途上国の支援・援助、A吸収源、B京都メカニズム、C遵守制度の4つであった。
会議のなかで最初に注目されたのは、アメリカ・カナダ・日本による吸収源に関する共同提案であった。この提案は、2008年から2012年の第1約束期間から「森林管理」による吸収を含めるべきとし、具体的には森林保全活動による吸収量のうち毎年2000万トンとそれを超える分の1/3を削減量に算入するものである。これにより、アメリカでは90年比で6.7%、日本では3.4%が算入されることになる。この提案は、EUおよび途上国からの猛反対にあい合意されなかった。また、それ以外の論点に関しても各国の思惑が絡み合い合意は不調に終わった。
そのため、議論は閣僚会議における政治的な合意に委ねられた。具体的にはプロンクペーパーをもとに、4つの論点グループに分かれて非公開で交渉が続けられた。このプロンクペーパーは、主要な論点を合意できているものとそうでないもの(crunch issues)とに分類し、合意できていないものについて重点的に議論を行うためのものである。しかし、資金の追加性やCDMにおける吸収源関連事業の扱いなどに係わるいくつかの主要な論点で合意は進展しなかった。
最後に議長は、政治的な妥協案としてプロンク提案を提示し、合意の可能性を模索した。しかし、最終的には吸収源と京都メカニズムの補完性、遵守制度の3点に関してEUとアメリカ・日本・カナダ・オーストラリアなどの先進国との間で合意できず、COP6は不調に終わった。そのためCOP6を一旦中断し、2001年5月にドイツのボンでCOP6パート2を開催することを表明した。この結果は、「京都議定書」の運用ルールが決められず、2002年の議定書の発効が厳しい状況に陥ったことを示唆している。
この結果に対する論調は、たとえば日本政府は「交渉は終わったのではなく、各国の相互理解は深まった。これをベースに新たな話し合いを」(川口環境庁長官)としている。産業界にとっては「温暖化対策意欲を失うことなく、拙速を避け議論を尽くそうという点では良かった」という評価もある。WWF(世界自然保護基金)は、「温暖化防止ハーグ会議で、先進国のCO2排出削減のための合意に失敗したことについて、各国政府を強く非難し、議定書批准に向けて新たな努力を求めた。特にアメリカ、日本、カナダ、オーストラリアが、京都議定書のほとんどすべての抜け穴を最大限利用することを主張したことで、京都会議以降3年間続いた、恐ろしく難航した交渉を停止させてしまった。」と厳しく非難している。いずれにせよ合意に至らなかった大きな理由は、自国の産業界への影響が大きく、国際競争力の低下を招く恐れがあるため容易に妥協できなかったためと考えられる。
しかしながら、地球温暖化が着実に進行している現状を鑑みると、京都議定書を採択した日本においてはまず率先して温室効果ガスの6%削減を確実に達成するための国内対策を進める必要がある。そのためには、環境税などの経済手法や排出権取引のための制度設計とともに、温室効果ガス削減のための新たな技術開発も重要な課題であり、土木界での役割と責任が問われることになる。また、これらの循環型社会の構築に向けた様々な努力が、国際社会における交渉の発言力に結びつくことが期待される。



第9回地球環境シンポジウムの開催案内

   九州大学 松本 亨
   (実行委員会 副委員長)

土木学会地球環境委員会では、地球・地域環境問題に関する現象面、社会・経済・文化的側面、あるいは地球環境問題への対応と実践など、幅広い分野の交流・討議・情報交換を進めるために、第9回地球環境シンポジウムを下記の要領で開催いたします。前々回創設された「地球環境技術賞(技術展示)」、前回創設された「地球環境講演論文賞(口頭発表)」、「地球環境貢献賞(一般展示)」も継続されます。奮ってご応募ください。

開催要項及び論文・展示募集要項
1.主 催: 土木学会(担当:地球環境委員会)
2.後 援: 北九州市
3.日 時: 2001年7月18日(水)、19日(木)
       ※翌20日は祝日です。
4.場 所: 北九州国際会議場(北九州市小倉北区浅野3-9-30,JR小倉駅北口徒歩7分)
5.企 画: 1)一般セッション(口頭による論文発表。一件約20分)
       2)技術展示(民間企業等の地球環境関連技術の紹介)
       3)一般展示(国、地方公共団体、NGO、大学等の地球・地域環境問題に関連した取り組みや活動の紹介)
       4)特別セッション(市民公開、詳細未定)
       5)懇親会
6.論文・展示の募集: 発表内容のアブストラクト(論文は800字、パネルは400字程度)を作成し、2001年2月28日(水)までに郵送、FAXあるいは電子メールでお申し込み下さい。詳細は土木学会誌1月号の会告、あるいは土木学会地球環境委員会のホームページをご覧下さい。
7.発表申込先および問合先: (社)土木学会地球環境委員会(〒160-0004 東京都新宿区四谷1丁目無番地)
               TEL 03-3355-3559、FAX 03-5379-0125、Email:maruhata@jsce.or.jp
               事務局担当:丸畑
8.その他: 北九州市では同時期に、「アジア」や「環境」が重要なキーワードとなる下記のような行事の開催が予定されています。併せて参加を計画されるのも一計かと思いましたので、ご紹介させていただきます。詳細は市に直接お問い合わせください。
       o北九州博覧祭 2001.7.4-11.4
       o北九州学術・研究都市産学連携フェア 2001.7.23-26



『土木海岸・海洋環境学』研究小委員会の発足について

   幹事長 森 澤 眞 輔

 地球環境委員会では、『土木海岸・海洋環境学』研究小委員会の発足を企画・準備しています。
 近年、温暖化等の地球規模の気候変化によって生じる諸問題への適応対策の具体化が急がれるにつれ、海岸・海洋の管理に関する種々の課題が顕在化しつつあり、大きな社会問題になりつつあります。海面上昇によって海水面下に没する国土面積の増加と市街地や港湾施設等の資産・資源の保全対策、減少する自然海岸の保全と管理、沿岸地下水や河川における塩水の遡上等の従来から土木工学が対象にしてきた海岸に関連する諸問題に加えて、沿岸開発に伴うミティゲーション、人工島や大型浮体構造物建設と環境保全、河川水系と沿岸水域とを統合した水域管理等、土木工学の各分野が横断的に対処すべき諸問題の重要性が益々増加しています。併せて、海砂採取の制限、沿岸における養殖漁業と環境保全、深層海水の利用や海洋温度差発電、東アジア海域における広域海洋汚染とその対策、地球温暖化に果たす海洋の役割等々、国際的な展開を展望しつつ、水産学や海洋学等、土木工学の枠組みを超えた取り組みが大きなテーマになりつつあります。
 以上のような状況から、土木界における、海岸と海洋に関する基礎的な知識の習得・把握と、海岸・海洋環境の持続的利用とその保全・管理の概念の認識、既存の学問分野の枠組みを超えたより広い視点からの国土計画の展開等を目的として、地球環境委員会に研究小委員会(土木海岸・海洋学研究小委員会)を設立し、調査研究活動を展開しようとしています。
 今回の研究小委員会は、先に成果を擧げて活動を終えた『土木森林環境学』研究小委員会(委員長:太田北大教授)と同じく、竹内事務所(代表:竹内元土木学会長)からの委託を得て運営される予定です。土木学会理事会の承認を得て、正式の活動が開始されます。
 『土木海岸・海洋環境学』研究小委員会の委員長には、中辻啓二地球環境委員会委員(大阪大学教授)が就任され、海岸工学委員会や水理委員会等と協力しつつ活動が開始されます。ニュースレターや土木学会ホームページ、土木学会誌等による活動案内や研究会・ワークショップ等への参加呼びかけにご留意下さいますようお願い申し上げます。



(社)土木学会 地球環境委員会
委員長・委員・幹事の公募について

 土木学会地球環境委員会では、その内規を改正し、委員長、委員および幹事候補者を広く会員諸氏から公募することに致しました。つきましては以下の公募要領にしたがい、多数応募下さいますようお願い申し上げます。
 委員長、委員および幹事の任期は2年と定めています。特に、委員および幹事につきましては、委員会活動の円滑な継続を図るため1期毎に半数交代することにしており、多くの委員および幹事の任期は実質的に2期4年になります。
 委員会内規、委員会の活動内容等の詳細につきましては、土木学会ホームぺージ(http://www.jsce.or.jp)を参照下さいますようお願い申し上げます。なお委員長、委員および幹事は本年度の最終委員会(平成13年3月に開催予定)において決定され、平成13年4月1日から就任頂きます。

1.地球環境委員会委員長候補者の公募
 ○公 募 数:1名
 ○応募資格:土木学会フェロー会員あるいは正会員であり、地球環境委員会活動の意義と内容について理解し、それに貢献できる者。
 ○応募方法:下記の事項を記載した文書を、任意の方法で土木学会事務局宛送付下さい。
       ・所属、職、氏名
       ・地球環境委員会の活動に関連する分野での活動歴
 ○応募期日:平成12年12月末日

2.地球環境委員会委員及び幹事候補者の公募
 ○公 募 数:各5名
 ○応募資格:土木学会フェロー会員、正会員あるいは学生会員であり、地球環境委員会活動の意義と内容について理解し、それに貢献できる者。
 ○応募方法:下記の事項を記載した文書を、任意の方法で土木学会事務局宛送付下さい。
       ・所属、職、氏名
       ・略歴
       ・応募の理由(400字程度)
 ○応募期日:平成12年12月末日

 応募書類は下記の事務局宛、また公募に関するお問い合わせは地球環境委員会幹事長宛お願い申し上げます。

(事務局)〒160-0004 東京都新宿区四谷1丁目無番地
     (社)土木学会事務局 地球環境委員会 丸畑明子
     TEL:03-3355-3559, FAX:03-5379-0125
     E-mail:maruhata@jsce.or.jp
(幹事長)〒606-8501 京都市左京区吉田本町
     京都大学環境地球工学専攻 森澤眞輔
     TEL:075-753-5155, FAX:075-753-5066
     E-mail:morisawa@risk.env.kyoto-u.ac.jp



年次学術講演会研究討論会の報告
「気候変動に係る共同実施活動における土木の役割と可能性」 

   特任幹事 青山 俊介
  
はじめに
 温暖化に伴う気候変動は国際社会の最重要の懸案の一つとなっており、また、気候変動要因の制御、変動に伴う治水・利水・海面上昇問題への対応など土木界にとっても多くの関わりを持つ問題であるが、この気候変動への対応手法のなかで温室効果ガス排出抑止や吸収に有効な対策事業の共同実施が注目を集めている。
 今回の土木学会年次学術総会において、地球環境委員会主催で標記の研究討論会を、共同実施の枠組みが現状でどこまで固まってきたか/共同実施事業がどのような領域で展開されようとしているかについての共通認識の形成、更に共同実施領域で土木がどのような役割を果たし得るか、どのような形で参画できる可能性を有しているかを明らかにすることを課題として実施した。
 なお、地球環境委員会では、本年度から「共同実施小委員会」を立ち上げることにしており、本研究討論会は、その立ち上げに向けての第一歩としても位置づけていた。

研究討論会の概要
 討論会では、座長を三村信男(茨城大学広域水圈環境科学教育研究センタ−)、話題提供者を松尾直樹((財)地球環境戦略研究機関 上席研究員)、山田健人((株) パシフィックコンサルタンツ環境部地球環境グループリーダー)、青山俊介の3名の構成で進めた。
 三村は、座長として本討論会の趣旨およびこれまで温暖化影響とその対策を中心に研究してきた土木学会でのこの領域での経緯と今後の共同実施への参画に必要性、更に本討論会で討議を期待する事項などについて言及した。
 松尾は、「京都レジ−ムを見越した国際温暖化対策プロジェクトへの期待」と題する報告のなかで、背景としての気候変動枠組条約、京都議定書、議定書における市場メカニズムを活用した方途として排出権取引、共同実施(JI)、CDM(Clean Development Mechanism) が組み込まれたことを指摘し、また、CDMの運用則、排出権市場に対する期待とリスク、日本の現状と速やかな政策対応の必要性などCDMに関する基本認識を広く紹介した。
 山田は「欧米諸国を含めた国際温暖化対策プロジェクトの事例と想定される活動領域」と題する報告のなかで、プロジェクトとしての適格性、追加性(排出・効果・資金・技術など)、ベ−スライン(効果を図る為のプロジェクトが無かった場合の状況)などに言及すると共に、具体的な知見や経験を積むことを目的として先行的に進められている約 140件のAIJプロジェクトのテ−マや活動領域、欧米各国のプロジェクトの特徴などについての知見を報告した。
 青山は、「共同実施活動における土木の役割と可能性」と題する報告で、わが国の共同実施プロジェクトの発掘に向けての検討で浮上してきているプロジェクト類型、土木学会における関連分野の研究実績、土木界の役割と可能性についての私見を提示し、更に、地球環境委員会「共同実施小委員会」の設立意図、活動の見通しを報告した。
 討論は、当日に出席者約60名と話題提供者との質疑を中心に約30分間行った。主に2000年の11月に開催されるCOP−6に向けての諸情況やCDMのスキ−ムなどに対する質疑が中心であったが、若い研究者の方々からの小委員会活動への期待や関心も示された。
 地球環境委員会では、11月のCOP−6の結果も踏まえて、2001年当初には小委員会を立ち上げ、具体的な研究活動に入ることとしている。
 この小委員会の立ち上げについては、委員会ホ−ムペ−ジで提示しますが、ご関心のある会員の方々は、下記のアドレスにて青山にご連絡いただければ幸いです。



年次学術講演会研究討論会の報告
「東南アジアの河川域・都市域における地域開発と環境」

   委員 中辻 啓二

1.はじめに
 河川流域が人間活動や地域環境に及ぼす影響は重要なものがある。とくに、開発途上国では社会の安全性、健康的な生活、開発のポテンシャルを高めるためには、河川域の総合的な活用が生活水準を上げるための最初の社会基盤として必要となる。例えば、メコン川は6カ国を流れる国際河川である。チャオプラヤ川への分水計画、上流でのダム建設,また内陸水運としての位置つけ等、国際河川として非常に高い開発ポテンシャルを有している。政治的不安定性からようやく解放された現在において、防災や開発が主たる研究対象にならざるを得ないが,上流の分水計画、ダム建設や流域の人為的な改変は中・下流域の地域環境のみならず、地球規模の環境に対しても大きな影響を与えることが予想される。また、開発と環境の対峙的な議論がすぐに必要となってくる。これらの困難な課題を抱えながら持続可能な開発に向かうであろう開発途上国に対する我が国の技術者や研究者の貢献は余りにも少ない。とくに大学の研究者がそうである。百聞は一見にしかずということで、水理委員会は若手研究者4名をメコン中・下流調査に送り込んだ。その内容は水理委員会のHPに記載している。
 日本が60年代70年代に経験したと同じ急激な社会構造の変貌を辿るであろう東南アジアの諸国に対して,我が国が、正確には我が国の技術者や研究者がどのような役割を持ち、どのような協力や参画が可能なのかを検討した。この研究討論会は地球環境委員会と水理委員会との共催として発議されたものである。水理委員会の「東南アジアの河川域研究小委員会」の委員長でもあることから、中辻が座長を務めた。話題提供者は両委員会から2名づつ参加していただいた。

2.話題提供:
1)水理委員会メコン川調査より(メコン川河岸の植物とその利用法)
 浅枝 隆氏(埼玉大学・院・理工・環境制御工学専攻)の研究室は毎年20名以上の留学生がいるという特殊な状況にある。.日本の大学教育にタイする留学生の要望は、@ 実験や演習等のトレーニングの増加、A 環境教育の実施、B 教官の国際的な知名度の向上、であることが披露された。浅枝氏の話題は水理委員会から本年3月に派遣されたメコン川調査で、粗朶沈床による護岸工事の植物に興味をもたれ、植生に関する理学(生物学)と工学(土木工学)の視点の違いから環境問題への工学的アプローチ法が論じられた。植物の学名等が分からなくとも、その特性、共生の植物群が分かれば、工学的見地から利用が可能である。
2)メコン・デルタ雑感
 中北英一氏(京都大学・院・工・環境地球工学専攻)は、専門の水文学から敢えて離れられ、昨年3月に文部省科研費(国際学術研究)で訪れたメコン・デルタの特性と地域住民との関わり(生活スタイル,気質等の人間環境と相互関係)を主眼においた話題を披露された,環境を @ 健康に関わる環境、A 「自然に囲まれて」という意味の環境、そして、B 温暖化等グローバル且つ人類の存亡に関わる環境に分類された。メコンの子供たちを守るという視点から Aよりも B に危機感をもって、この地での人と水との関わり方を基礎に考えたいと主張された。
3)低地・流域都市ダッカ(バングラデッシュ)の環境問題
 北田敏廣氏(豊橋技術科学大学・工)は、現在約859万人で年7.5%の高率で増加し続けるダッカの人口増が既存の都市インフラや適切な環境管理のためのシステムに過大な負荷を与え,結果として厳しい環境汚染をもたらしていること、さらに、雨季には国土の約30%が洪水によって冠水するという土地利用上の制約があることを指摘され、ダッカにおける各種環境質の汚染の実態を克明に話された。ダッカに見られる急激な人口集中(農業従事者の都市への流入を含む)と、都市インフラの未整備は東南アジアの巨大都市に共通の課題であり、防災計画、都市計画、環境計画とが一体となって考える必要がある。
4)インドネシア国・チタルム川流域の水環境問題
 白岩弘行氏(パシフィックコンサルタンツ・インターナッショナル)はジャワ島西部に流れるチタルム川流域を,農業中心から都市化・工業化に移行する東南アジアの典型例としてとりあげた。70年代の国全体の人口増は年2.3%、ジャワ・マドウラへの人口集中(6.9%の面積に、62%の人口)、および経済活動の活発化、などにより水環境の悪化をもたらしている。
 我が国の協力の可能性を検討するための課題として、つぎの3課題を提示された。@ 水問題は複数セクターとの協力体制が重要、A 高度成長前後、つまり60年代、70年代の我が国の技術の移転は可能、B 日本の技術の国際的評価を得るためには、基準や参考資料が日本語である限り、利用価値はない.

3.まとめ
 環境の持つ多様性を反映してか、話題提供者から種々の興味深い話をして頂いた。問題点を整理すると、@ 今、なぜ東南アジアなのか?なぜ若手研究者なのか?A 開発途上国の経済成長は我が国の60年代に相当する。日本はアジアにあって唯一の先進国であり,公害経験国である。にもかかわらず、日本の企業が経済的外圧として関与しているのは悲しい。B アジアの観測データの所有者は欧米のコンサルタント。戦略を持たない援助では何も産まれてこない。C 優秀な若手研究者が多自然とか、親水性とか、生態系とかの川作りに向く傾向にある。もっとダイナミックな河川工学に挑戦すれば如何?
 総括討論では予期した以上の議論が沸騰した。しかし、それらの質疑内容をまとめあげるのは至難の業である。例えば,key words をひろっていくと、以下のようになる。
 ○ 欧米とアジアの流出現象は異なる。○ マニュアルは基本的に自国語もしくは英語である。○ バングラデッシュでの洪水の原因の追求よりも,地域開発のなかでの河川の位置付けを考えることが重要、○ 環境教育の重要性,○ 大勢の留学生が帰国しているにも拘らず、彼等はネットワークを持っていない、○ メコンの開発をそれぞれの国がどのように考えているのか,洪水は農業にとってはプラスの要素である。その災害との兼ね合いがむつかしい、○ 地域毎に許容最大人口を設定しなければ、これまでのように技術に頼るには限界がある。○ 地域開発と環境を考えるときにスペシャリストはいらない。○ 自然科学を総合的に利用し,社会学的な要素も絡んでくるとなると、おそらくそれが出来るのは土木の技術者でしょう。○ モンスーンアジアの風土を考える時に日本の美意識を押し付けてはならない。その傾向が我が国の河川にも目立つが、それはロマンチストとは思えない。それぞれの河川に河相があり、河川の発達に応じた性質を理解したうえで開発と環境の調和を考えるべきでしょう。
まとめることが非常に難しいことは原稿から推察していただけるでしょう。今始まったばかりです。種々の議論を戦わせながら、つぎのステップをともに考えていきましょう。興味深い見地から話題提供をしていただいた先生方、ならびに積極的に発言いただいた方々に謝意を表します。



年次学術講演会研究討論会の報告
「社会の環境変化の本質を探る」

   環境システム委員会幹事長 原沢 英夫

 「有限」の社会を認識しつつ、持続型社会を作ることが必須としながらも、具体的な動きとなって見えてこない理由はどこにあるのか?本研究討論会は資源循環・生活形態、生態系リスク、エネルギーの面から第一線の研究者から話題提供していただき、「有限」に対処できる21世紀型の社会構築の方向、土木技術者・研究者の役割を探ろうとするものである。
 「真の持続可能社会を目指すために」内藤正明(京都大学):国連環境計画が昨年発表した地球環境概要2000は、京都会議以降、温暖化対策は遅々として進まず、地球温暖化防止はもう手遅れと、ショッキングな内容である。20世紀は科学技術の進歩により大量生産、大量消費、大量廃棄社会を作りだし、先進国の人々は豊かな生活を得て、これからは途上国が先進国に追いつくべく経済発展を目指している。危機的な状況になりつつある地球環境問題に対して、科学技術で解決できるとする「ドラエモン仮説」は、破綻しつつある。21世紀は、環境制約、石油・石炭など枯渇性エネルギーの制約の中で、持続的発展が可能な社会の構築を目指す必要があり、土木技術者は何ができるか、真剣に考える時期がきている。
 「野生生物の絶滅リスク評価と保全」巖佐庸(九州大学):森林の農地への転換など人間活動によって地球上の生物多様性が喪失しており、多くの種が絶滅の危機に瀕している。200年前に比べて10の5乗減っている。多数の異なるプロセスが生物絶滅のリスクにどのように影響するかを計ることが、重要になってきた。環境に対する悪影響を「生態リスク」という規準で考えることも試みられ、その基盤に種の絶滅確率の推定値をもって評価することなどが提案されている。生物集団の絶滅リスクに基づいて環境の化学物質を管理する方法の研究例として、米国ロングアイランドのセグロカモメとDDTの関係などが、実例をもとに紹介された。
 「持続可能なエネルギーシステム」山地憲治(東京大学):環境の有限性を考慮し、どういう方向に向かっていくか?@脱炭素化(CO2抑制)、A分散化(大型火力や大規模集中化を変える)、Bネットワーク化(たとえば、電力システムを組む)の3つが重要になってきた。省エネルギーはもう限界で天然ガスへシフト、一方ドイツでは、原子力政策の転換など、持続可能なエネルギーシステムへの模索が続いている。エネルギーと環境の有限性を考慮したシステムの検討が必要である。大気中のCO2濃度を550ppmで安定化させた場合の、エネルギー源の最適組み合わせが紹介された。家庭用の燃料電池によるコジェネなど、分散型エネルギーとそのネットワーク化が環境制約下でのエネルギーシステムを構築することが出来る。
  話題提供後の質疑応答では、技術の問題に加えて、社会システムの問題、ライフスタイルの変革の問題、日本の持続可能な人口規模などについての質疑が行われた。21世紀は、環境、エネルギー制約のもとで、途上国も含めて持続可能な社会の構築なしでは、人類の発展はない。持続可能な社会を構築する上で、土木技術者は何ができるか?この問に早急に答える必要があることを実感させるに十分な内容の濃い研究討論会であった。



JGEE(Journal of Global Environment Engineering;地球環境英文誌)
第6巻発行お知らせ等

   JGEE編集小委員会委員長 北田 敏廣

本年7月より、太田幸雄(北海道大学)前委員長からJGEE編集小委員会を引き継ぎました北田(豊橋技術科学大学)と申します。JGEEへの投稿、購読等、今後ともご支援の程、よろしくお願いいたします。
JGEEは、土木学会発の地球環境関連英文誌として貴重な役割を果たしていますが、国際的な競争が強調されるなかで、論文誌としての国際的認知度を上げることがますます必要になってきていると感じられます。各種の英文抄録誌に取り上げられることが必要ですが、そのためには最低年4回の発行が前提となります。現状は年1回の発行ですから、一足飛びに年4回は困難ですが、この目標に向かって努力しようと編集小委員会で話し合っています。その一環として、次巻(2001年発行予定)より、アジアより5名程度の外国人をRegional Editorとしてお願いする予定です。それぞれの国からの投稿および購読を促すのが目的です。また、まず年2回程度の発行にするために、国内で土木学会員が組織された国際会議等からのselected paperによるプロシーディングスとして1冊ぐらいは発行するというアイディアもあります。以上、種々検討しておりますので、ご意見を地球環境委員会JGEE編集小委員会にお寄せ下さい。本ニュースレターの他の記事で紹介されていると思いますが、JGEE掲載論文から論文賞(JGEE Award)が選ばれることになったこともJGEEのさらなる活性化を推進するものと考えております。
 最後になりましたが、本題に入ります。去る9月に太田幸雄・前委員長の下で編集が行われたJGEE第6巻が発行されました。招待論文を含め査読を経た7編の論文が収録されています。論文タイトルは以下の通りです。貴重な情報が満載されています。まだ購読されていない方は、この機会に是非ご購読下さい。

JGEE第6巻掲載論文
 Linking Technology Transfer with Clean Development Mechanism (CDM): A Developing Country Perspective
 J. K. Parikh...................................................................... 1

 Radiative Transfer Model for Satellite Remote Sensing of Ocean Colors in Coastal Zones
 H. KobayaShi, S. Ohta, N. Murao, H. Tachibana and S. Yamagata..................... 13

 Perceived Environmental Problems by Nepalese of Three Ecologically Different Areas
 T. Futawatari, H. Kashiwazaki, T Hamaii and M. P. Shrestha........................ 33

 Contribution of Bacterial Production to Sinking Carbon Flux in a Japanese Coastal Area: A Marine Mesocosm Study
 S. Harada, H. Koshikawa, M. Watanabe, K. Kohata, T. Ioriya and J. Hiromi.......... 51

 Variation of Sliding Failure Probability of Breakwater Caisson Due to Global Warming
 H. Kawai ......................................................................... 65

 Bridge Type Selection System Incorporating Environmental Impacts
 Y. Itoh, L. Sunuwar, T. Hirano, A. Hammad and T. Nishido ......................... 81

 Life Cycle Estimation of CO2 Emission from Urban Districts and its Application for Urban Environmental Management
 T. Fujita, T. Morioka and A. Murano .........................................103


以 上



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