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    土木学会 環境システム委員会ニュースレター

        Vol.15 No.1 2002.5.14 発行  

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    発行:(社)土木学会 環境システム委員会

    〒160-0004 東京都新宿区四谷1丁目無番地

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  環境システムニュース平成14年度第1号をお届けします。本号では、だいぶ遅くなってしまいましたが、平成13年11月1日(木)〜2日(金)東京において開催された「第29回環境システム研究論文発表会」のポスター賞受賞者の報告とセッション報告を掲載しています。

 

29回環境システム研究論文発表会報告

 

ポスター賞受賞者の報告 (国立環境研究所 一ノ瀬俊明)

 

ポスター形式の奨励とイベント性の高揚を兼ねて、昨年度から優秀ポスター賞が設けられている。今年度は18のポスター発表があり、それらに対して環境システム委員を中心とした45名(投票委員総数21名)の審査委員による、「わかりやすさ」、「ユニークさ」、「美しさ」(学術水準そのものは対象外)の3つを審査基準とした投票が行なわれた。その結果、以下の2編の論文が優秀ポスター賞に輝いた。受賞者には環境システム委員会より賞状が贈られた。

 

A16(提案型論文)「消費者の選好分析を用いた環境広告の現状とあり方に関する研究」近藤隆二郎(滋賀県立大学)・藤井裕輔(有線ブロードネットワークス)

 

B13「衛星データを用いた森林管理システムの構築に関する基礎的研究−和歌山県紀南地方の針葉樹林でのケーススタディー」  仁和亮(和歌山大学)・谷川寛樹(和歌山大学)・法眼利幸(和歌山県農林水産総合技術センター )・金子泰(和歌山大学)

 

 

●セッション報告

 

【環境行動】

細川恭史(国土技術政策総合研究所)

「環境行動」のセッションでは、全文査読通過論文3件とアブストラクト査読通過論文2件の発表があった。いずれも、自治体や地域における環境への取り組みを、地域社会との関わりを含めて様々な側面から検討したものである。

そのうち、B01 自治体を対象とした環境保全活動評価に関する研究」では、自治体に対するアンケート調査から取り組みの姿勢の分布を示した。「過去に決定したプロジェクトが自治体不信を引き起こしてきたのなら、その責任を反省しないまま今風の政策を出しても信用されないのではないか」、「積極的な自治体とはどんな状況の自治体であるのか」といった議論が出された。

また、B02 里山・雑木林保全活動に関する研究」では、里山や雑木林の保全や管理を行っている団体へのアンケート調査から、保全活動の様子を分析している。保全活動は3つの類型に分類でき、年代による変遷がうかがえる。「地域交流派が減り、自然に親しむ派が増えたのが96年頃とのことだが、このころに何があったのか」など、活動類型の変遷が何に起因しているのだろうかと言った議論がなされた。

また、提案型論文として全文査読を通過したA01 都市近郊立地型の鎌倉市腰越漁港における市民参加による改修計画の検討と合意形成過程」の発表では、漁港改修における地域の対応状況が説明され、合意に至る過程でのいくつかの重要な要因が考察された。鎌倉市の特性をどう考えるか、公募型委員会と言う手法に至った経緯、関心の低い市民の扱いや取り込み、等の議論がなされた。この事例研究では実践例を努めて具体的に示そうとしている。

こうした研究方法論のあり方についても質疑応答があったが、さらに深化した議論が望まれる。

 

土屋十圀(前橋工科大学)

環境行動のセッションでは後段の2題の論文発表を担当した。

A15 環境パートナーシップ活動の推進に関する研究」(木村、笹谷)は大津市の環境フォーラムを事例とした市民の意識と環境保全行動のアンケートの分析を通した論文である。アンケートの解析から学校を拠点とした学区単位でビジョンを共有し、市民、団体、企業が初期段階から協働プロジェクトを立ち上げてゆくことが、その後の市民行動に効果的な戦略に繋がることを明らかにした。

A02 ため池公園来訪者の水鳥への給餌行動意識とその情報提供による変化」(渡辺、衛藤、三浦、和田)では次のようなことが指摘された。すなわち、都市内のため池公園に水鳥が多く住み来訪者の過度な給餌活動が水質悪化に繋がっている。このため給餌場所を設置した。しかし、十分この目的を理解している市民が少ない。利用者へのアンケート調査から水環境保全の意義をしっかり情報提供することが重要である。

 両者に共通する点は、環境行動は市民、利用者へのしっかりした情報の提供であり、意義、目的など始めの段階からこれらを明確にした意識の共有化が重要であることを印象づけたものとなった。

 

【環境意識・環境教育】

早瀬隆司(長崎大学)

A17 人間の生涯発達に着目した生活環境の新しい計画枠組みの提案−思い出分析を用いた意味論的アプローチ−」は人間の生涯発達ステージに応じた生活環境を確保あるいは提供するという視点から思い出を分析することにより都市施設等の計画論に反映させようという提案に関する研究。工学の分野では非常にユニークであり、想い出をどのような座標軸で分析し、個々の想い出の中から共通項を見つけ出すのかという方法論について議論があった。

A18 小中学校校歌にみる近江の風景イメージに関する研究」はまちづくりなどに活かしていく為に、小中学校の校歌歌詞に歌われる景観要素を分析し景観資源に関する地域のイメージを把握しようとしたもの。ただ歌詞を分析するだけではなく、子供たちあるいは作詞者の側の気持ちまで踏み込んだ研究への期待について会場から意見があった。

A19 居住地と環境学習充実度からみた小学校における体験型環境学習のあり方に関する研究−びわ湖フローティングスクール『湖の子』を事例として−」は体験型環境学習プログラムの前後における児童の琵琶湖への認識の変化を分析し、継続的な環境学習に対する具体的な提案を行おうとした研究。前提とされている体験型環境学習プログラム自体の評価をどうすべきかについて議論があった。

B21 子どもたちの体験活動へのエココイン導入によるコミュニティ拡大と子どもたちの参画に関する研究」は子供たちの環境体験活動にエココインの収集システムを組み込むことによって、子どもたちの主体的な参加だけではなく、さらにそれを支える地域の大人たちの間でもコミュニティーが活性化されたことが報告された。本来の体験活動がエココイン集めにより主客転倒しないかとの懸念が示されたが興味深い観察報告である。

A20 小学校における交通・環境教育「かしこい自動車の使い方を考えるプログラム」の意義と有効性に関する実証的研究」では交通による気候変動の問題に関してトラベルブレンディングプログラムを参考に小学生及びその家族を対象として環境教育プログラムの実践を行った結果の有効性を検証した研究報告。対象としてどのような学齢期の生徒が適切かという視点での議論があった。また、家族構成員に対する意識啓発という意味でも興味深い報告であった。

B22 野草を生かした学校ビオトープづくりに関する研究」は小学校校庭の野草、あるいは学習教材としてのビオトープ作りについての現状及び教員の意識調査を行った報告。ビオトープのあり方についての評価の指標の明確化のための議論があった。

B23 市民団体主催による海域環境セミナーの開催とその意義」は市民団体主催による2度にわたる海域環境セミナーの開催とそのパートナーシップ作りという意義に関する考察結果が報告された。討議の中では参加する人の輪を如何にして拡大していくことが出来るかが重要であるという指摘があった。

(感想)環境教育・意識啓発という分野ではより多くの人をどういう方法で巻き込んでいくかが重要な課題であるが、このセッションの諸報告や議論からは、子どもたちがその核になるのではないかという可能性が伝えられたように感じた。

 

【水質】

古米弘明(東京大学)

A03 分流式下水道雨天時汚濁負荷流出の地域特性に関する研究」7排水区32降雨に関する都市ノンポイント汚染調査データに基づき、降雨特性と流出率、汚濁負荷量との関係を地域特性との関連から整理したものである。中規模降雨での雨天時汚濁現象を定量的に検討する上で、今後この種の調査データの蓄積と解析が体系立って進むことが期待される。

A04 有害化学物質の水・底質濃度の統計的予測に関する研究」:旧環境庁の「化学物質と環境」に掲載されている調査データに加えて、対象の化学物質特性や調査地域特性のデータを組み込んだデータベースを構築し、統計的な解析から水中や底質中の化学物質濃度を予測する手法を検討している。数量化分析の適用性に関する討議が主になされた。多量に蓄積されている環境データを活用する試みとして評価できる発表であった。

B03 貝殻などによる底泥からの栄養塩類の抑制に関する基礎的研究」:手賀沼底泥を対象に、カキ殻、シリカブラック、ルチールサンドでの被覆によるアンモニア態窒素とリン溶出抑制の試みが報告された。嫌気好気条件がこの種の溶出には深く関わっているため、微妙な測定結果の評価に苦労が見られた。溶出実験条件設定のあり方や被覆剤の実用性などに質疑応答がなされた。

 

中山正与(東北工業大学)

A05 諏訪湖水環境改善効果と対策に伴う地球環境への影響の費用便益換算による統合的評価」東京大学 稲葉陸太 他

水環境改善対策の実施に際しては、CO2などの環境負荷が増加する可能性がある。CVMLCAなどの手法を組み合わせて、環境への影響の費用・便益換算による統合的な評価を試みたものであり、ここでは長野県・諏訪湖を例とし、下水道整備および底泥浚渫事業について評価を試みている。これらの事業の水質改善便益を解析したところ、年間7.3億円となり、一方、CO2排出による損害費用の算出結果は年間100万〜2,300万円となり、統合的に見て環境改善効果が大きいことが示された。

A06 河川水質改善のための汚濁負荷削減策の効率的なスケジュール」岐阜大学 高木朗義 他

水質を目標とするレベルまで改善する場合、効率的に汚濁負荷を削減するためのスケジュールについて便益と費用を計量して評価しようとするものである。動学的応用一般均衡モデルを構築した後、このモデルを長良川流域に適用し、1995年〜2010年までの期間について数値シミュレーションを行っている。

A07 アジア地域諸国の水管理の政策と方法論に関する国際比較」長岡技術科学大学 ス二ル・クマール・カーン 他

アジア地域諸国の水環境管理の政策と方法論について比較検討したものである。これまでにアジア諸国で実施されてきた水環境管理のための種々の規制や経済的な対策について、文献や公文書を調査し、その歴史と現状について解析し整理している。環境の管理と立法について、ほとんどすべての国で増大しているが、現状は、それらの国の社会経済の発展レベルに応じて変わることが大きく類似している。アジア地域諸国の水環境管理を理解する上で参考となる発表であった。

 

【自然生態系・景観】

鈴木武(国土技術政策総合研究所)

B24 東京都内湾の水環境評価に関する水生生物調査の役割」

東京都による地先水面の水質・赤潮・底生生物調査の結果を、観測開始時まで遡ってデータを整理した結果が報告された。これに対して、これらのデータを行政としてどのように活用してゆくのか、その行方を占う取り組みとして研究発展への期待が示された。

A21 砂州上の植物群落分布の再現モデル」

発表された研究は、選好度モデルによって物理的な指標から河道内の植生分布を予測する取り組みである。このモデルには説明変数間の影響などが入っている可能性があり、室内要素実験などそれを排除する取り組みの必要性が指摘された。また、モデルの地域移転性を高めるために、他河川への適用研究を求める意見もあった。

A22 在来種ハーブ、ハッカ・ナギナタコウジュの生育環境保全に関する研究」

ハッカとナギナタコウジュの生育環境に、地表面の凹凸による水分量の違いとヨモギの植生変化が影響を与えるという論が展開された。これに対して、ハッカとナギナタコウジュの違いを考慮した分析の必要が指摘されるとともに、研究成果の利用方法について、対象を休耕田に限ることや凹凸による手法をとることの意味について意見が交換された。

 

那須 守(清水建設)

A23 棚田農村域における地域資源の社会的及び生態学的評価」

棚田を保有する地域における「多自然居住地域の創造」に向けた合理的地域計画の方法の確立を目的とした研究である。住民自身による地域資源の認識についてのアンケート調査、植物群落・土地利用の変化に基づく生態学的な調査を行い、住民に好ましいとされた生態系の保全がどのような生態学的機能の保持につながるかについて、目標設定のあり方を含めて示した。二次的自然における住民主体の持続的管理をどのように合意形成しながら進めるか等について議論があった。

A24 日本のエコロジカルフットプリント:土地資源に着目した環境指標に関する研究」

人間活動の持続性可能性を評価するための指標の開発を目的とした研究である。自然資本ストックの再生能力を評価する指標である「エコロジカルフットプリント(EF)」に注目し、産業連関分析の手法によって日本のEFを求め、さらに環境負荷を表す指標であるエネルギー消費と統合化することによって総合的な指標化を試みた。日本の土地資源の内包量は林業、建設業、食料品業の順に多く、輸入品ではアメリカ、アジアの農地との関連が深いことを示した。森林の景観保全機能、保水機能など土地の機能面を考慮することや指標の総合化について議論がなされた。

 

鎌田磨人(徳島大学)

B25 GISと衛星画像を活用した流域環境変化の定量化」

権らによる本論文は、韓国の小流域における水質汚染源の分布を空間情報としてGISで整理しながら、汚染負荷量の年次変化を把握しようとするものであった。ただ、これら数値はすべて統計資料であったり、何らかの仮定に基づいた推定値であったりしたため、現地観測等によってその精度を検証することの必要性が指摘された。また、今回示されたものは、単に1985年と1997年の資料を単にGISに入力したものであり、GISの特性を活用した解析は試みられていなかった。その空間データをいかに活用してゆくかが、今後の課題となろう。

B26 高分解能衛星画像及びGISを用いた都市内緑地評価に関する研究−低解像度衛星データを用いた緑地把握手法の問題点抽出と再検討−」

廣田らによる本論文は、LANDSATが持つ30m×30m解像度の衛星画像、およびIKONOSが持つ高解像度の衛星画像を用いた場合における、都市内における緑被面積の検出力の違いを検討したものであった。これに対して、イコノスの色データは4m解像度であり1u解像度ではないこと、また、ランドサットが持つバンド数はイコノスのそれよりも多いことを考慮した比較が必要であることが指摘された。

A25 都市域における水・土・緑の空間配慮の評価に関する研究」

神谷らによる本論文は、公園や水辺空間の配置のあり方を、非常時としての震災時での利用、日常の遊び場等としての利用という両側面から同時に評価しようとする興味深いものであった。現状では、居住地から目的の空間まで行くのにどれだけの街境を越えなければならないかという“tripでの評価となっているが、具体的な路線等を加味して考察してゆくことにより、さらに詳細な評価が可能になると思われる。また、どれだけ多くの人がどこまで移動しないとならないか、あるいは、どれほどの高齢者がいるのかといった問題などについても検討の余地が残されているといった議論が行われた。

 

【エネルギー】

松本 亨(北九州市立大学)

B04 一般住宅の使用段階におけるエネルギー消費実態の評価手法」

天野(立命館大学)らは、家庭へのアンケート調査を実施することにより、戸建住宅のエネルギー消費に及ぼしている要因とその影響量を明らかにすることを試みている。これにより、世帯人員、エアコン台数、AVIT機器台数の3つの要因でエネルギー消費の約35%を説明できることなどを明らかにしている。これに対して、属性別に集計したときのサンプル数に関する信頼性の問題や、世帯属性に年齢を考慮すべきこと等が指摘された。

B05 コージェネレーションシステムと清掃工場排熱利用の地域冷暖房システムの導入によるCO2削減量の評価 〜東京都区部におけるケーススタディ〜」

並木(東京大学)らは、清掃工場排熱によるDHC(地域冷暖房)と、CGS(コージェネレーションシステム)を導入することによる、東京都区部の民生用エネルギー供給に伴うCOの削減効果を試算している。CGSについてはGT(ガスタービン)とGE(ガスエンジン)という機器特性による違いについて、ケースを分けて評価している。これに対して、導入時におけるCO2排出との関係(CO2ペイバックタイム)の考え方や、廃棄物の収集と排熱回収双方を考慮した清掃工場の最適配置の解析可能性について、議論・コメントがあった。

B06 都市内水資源の熱エネルギーを利用した地域冷暖房システムの費用効果分析」

木内(土木研究所)らは、都市内の下水、河川、地下水の水熱を活用したDHCを取り上げ、LCCLCELCCO2を算出することでシステム導入による費用効果分析を行っている。その結果、水熱エネルギーの利用により、LCCLCELCCO2ともに削減できる可能性を示している。これに対して、結果の信頼性について、有効数字の問題や環境負荷削減効果の貨幣換算係数に関する質問があった。

 

片谷教孝(山梨大学)

このセッションの後半では、2件の全文審査部門の発表と、1件のアブストラクト審査部門の発表が行われた。それぞれ分野あるいは研究のアプローチが大きく異なるため、それぞれについて個別に印象を述べることにしたい。

A08 下水処理の高度化に対する下水道システム未利用エネルギー活用の研究」(松本由紀子ら)は、下水処理の高度化によって増大するエネルギー消費を、処理施設内の未利用エネルギーでカバーすることの可能性を定量的に評価した。その結果、未利用エネルギーが高度処理化によるエネルギー消費の増分を上回っており、十分にカバー可能であると結論づけている。高度処理化は時代の趨勢であり、水質保全の観点からも重要であることから、エネルギー消費増大をいかに抑えるかが課題とされているが、本研究によってそれを未利用エネルギーでカバーできる可能性が示されたことにより、一つの解決の道筋が見えたということができ、有用な研究といえる。

A09 外部条件の変化を考慮したライフサイクル評価手法−長寿命型住宅の普及シミュレーションへの適用−」(松本亨ら)は、LCAをベースとして長寿命型住宅の普及に関するシミュレーションを行った結果を報告した。100年以上の時間スパンを対象とするため、通常のLCAでは定常と仮定できる外的条件が変化することになり、そこに時間依存パラメータを導入することで対応を図った。結果として、長寿命型住宅の導入によって、建設廃棄物の大幅削減が期待され、CO2削減もかなり期待できることが数値で示されているが、これらの数値の是非よりも、動的な条件下でのLCAの手法を提案したことの意味が大きい研究であるといえよう。

B07 LCA手法を用いた港湾構造物の最適化設計」(池田ら)は、LCA手法をベースとして、港湾構造物設計に際してのリサイクル材の活用および輸送問題の最適化を試みた結果を報告した。素材の製造地と港湾建設地の間の輸送も含めた環境負荷最小化問題として解く試みは新しい着眼であるが、現状ではまだ負荷項目が十分に全体をカバーできていない印象があり、質疑でもその点の指摘があった。その点は今後の課題であろう。

以上のように後半3題では、下水処理、住宅、港湾と、それぞれ異なる対象について、エネルギー利用の最適化に向けた研究報告が行われた。いずれも何らかの課題は残すものの、環境負荷軽減のために有効な方法論の提案がなされたといえよう。

 

【マテリアル】

花木啓祐(東京大学)

本セッションにおいては、A論文1編、B論文4編の発表があった。

A26 日本全国の都道府県における物質循環評価手法に関する研究」では、比較的データが整備されている都道府県を単位として物質循環の状態を評価を実施する研究の成果が報告された。各都道府県毎の物質フローは産業構造に依存するところが大きく、今後はこのような指標を循環型社会の推進にどのように役立てていくかが課題となろう。

B31 森のゼロエミッション計画の手順に関する研究(その2)」では、森林資源を中心にすえた社会基盤の形成についての考え方が示された。

B32 ワンウェイペットボトルから他容器への代替による環境影響評価」では、実際の市における調査に基づき、ペットボトルの代替の可能性についてシナリオを設定して環境負荷を比較している。

B33 下水汚泥処理に伴う発生負荷の現状評価と汚泥管理の将来展望」は下水汚泥処理に伴って生じる環境負荷を東京都の場合について算定し、施設の集約化の効果の考察を試みている。

B34 リモネン産生遺伝子組換え大腸菌を主体とする発泡スチロールのゼロエミッション処理への提案」は遺伝子組み替え技術を用いて発泡スチロールのリサイクル技術にバイオテクノロジーを組み込もうとする試みである。

マテリアルのセッションでは、さまざまな視点でさまざまなアプローチの研究が紹介され、このテーマの研究の多様性をはからずも示すことになった。

 

【環境経済】

松村寛一郎(東京大学)・木朗義(岐阜大学)

B20 環境負荷低減型地域形成に向けたCO2を指標とする地域環境会計に関する研究」

 京都市の外部からの流入・流出をどのように見積もるのか、環境対策はCO2だけでなく例えばゴミ処理場の問題等もあるが地域環境会計に盛り込むかという質問に対し、マクロとミクロの対応できる範囲、分野を考えるとの回答があった。また、社会経済的なフレームとして総生産額を使っている。費用対効果は直接的な効果のみに絞っている。環境対策効果を測定したり、他のエリアまで、広げることを考えている。

B35 環境面及び経済面から見た資源循環の適正空間規模に関するモデル分析」

 処理能力と建設費(ゴミの焼却施設のデータ)に関しては、関数の形は収穫逓減になるのかという質問に対し、人件費は、最近は、ボランティア的なもので、低減する形になっている。適正規模としては、30万人規模が最適な大きさとあると回答された。また、数値計算のプラン、グラフにおいて、横軸が処理量を取っているが、輸送距離として考えてよいのかという質問に対し、収集施設みたいなものを集めて持っていく方法の扱いは、今後の検討課題である。物品別に広く集めてもペイできるかどうかという課題があるという回答があった。

A27 地球温暖化ガス排出抑制のための土地利用規制策の経済評価」

 土地利用規制策はどのようなものかという質問に対して、黄色いゾーンに関して、総利用可能面積の5%のカットを行うと回答があった。規制をかけると土地の価格があがるが、利用制限が強くなると土地の価格がさがるということはないか?例えば、別の地域に経済活動が移転してしまう可能性があるという質問に対し、エリアを閉じた形で外との流入をさけた形になっているので、岐阜以外に吸収されてしまう可能性があるとの回答があった。均衡モデルでの分析をするときに、一般均衡に入る前の処理が粗いかもしれない。原単位をかけるという話が粗いかもしれない。今後の行くべき方向性はという質問に対し、経済モデルも理論的には精緻になっているが、実証的には困難を感じるとの回答があった。

B36 応用一般均衡分析による再生可能エネルギー導入政策の評価」

 CO2の排出量の削減は、どれくらいかという質問に対し、モデル構造が単純な形をしているので、生産額の変化のみの変化をしているとの答えがあった。また、クリーンエネルギー産業の利用構造は?という質問に対し、炭素税単独で考えた場合の相対的な変化を考えるとの回答があった。

A28 応用一般均衡モデルと技術選択モデルの統合による下水汚泥処理技術の廃棄物最終処分削減への影響」

 地域間の違いについては?という質問に対し、この分析では日本全体を対象としている。ちなみに、下水道統計には、処理場毎にどのように処理されているかの情報が提供されている。技術選択を入れて、モデルの計算を行っているとの回答があった。モデルのインプットをどれくらい考慮しているか?という質問に対し、汚泥の量と質が将来に渡って変化をすると考えている。量については、経済活動の増加にともなって、増加するとしているが、質については、よくわからない部分があるとの回答があった。

A29 PCM手法を適用したODA水道整備プロジェクトの評価法開発に関する基礎的研究−インパクト評価について−」

賃金労働時間が増えているのではないだろうか?整備をしたときに、水の使用量を増やすのか。ベネフィットをどのようにみるかは、換算する方法を示す情況には、なっていないというコメントがあった。また、水質による評価項目が入っていないのではないかという質問に対し、簡易に整備できる予備調査等を行っているとの回答があった。PDMの評価指標がきっちりとしていないと進まない。評価指標の作成方法について教えてくださいとの質問に対し、ネパールでの3年にわたっての調査を遂行している。ヒアリング等をしたその結果を議論してまとめたものとの回答があった。

 

【環境評価】

A34A35B46B47は都合により略。

 

藤田壮(大阪大学)

B48 総合モデルを用いた地球環境問題のソフト分析」

社会経済活動や生産要素の「ハードデータ」と環境状況に対する認識や環境行動についての意識と言う「ソフトデータ」を統合する石川県を対象とする地域モデルについての研究が発表された。社会経済活動についてはコブダグラス型の援用などにより有意な関係性を構築できたが、意識データとの間との統合については今後の課題とする報告が、あえて主観的な評価データを統合することの研究の目的や、サンプルデータの属性の多様さから得られる知見の解釈の限界などについての討議がおこなわれた。

B49 環境負荷低減型製品の評価に関する検討―グリーン購入の考え方―」

建設業界の購買関係者のグリーン購入に対する意識調査の分析から、対象製品についてのコストや品質が重要な決定要素であることを明らかにした。発表に対して、グリーン購入を促す業界行動についての展開を期待する発言があった。

B50 気温・降水量変化がレジャー産業に及ぼす影響―スキー場への影響予測事例―」

温暖化にともなう積雪量の変化とさらに、その来場者への影響の関係をスキー場の事例分析から明らかにすることによって、温暖化によるスキー産業の経済損失を推定する研究が報告された。発表に対してはスキーの社会的効用を研究の対象に加えて欲しいとコメントや、積雪量の減少にともなうポジティブな経済効果についての算定も加えるべきとの議論がおこなわれた。

A36 日本人のダイオキシン類体内負荷量の推移に関する研究」

日本人のダイオキシン類の体内負荷量を、出生時の蓄積量と母乳摂取による摂取量および離乳時以降の経口摂取量を年代別に推計した上で、体内半減期を設定して、1970年代以降の年代について経年のダイオキシン類の体内負荷量を算定した結果を報告した。特に、食品からの摂取量については閉鎖系水域におけるダイオキシン類の環境濃度の変化からトレンドピークの補正をおこなった手順について熱心な意見交換がおこなわれた。

 

【大気環境】

川上智規(富山県立大学)

A31 街区における熱環境改善計画の効果に関する熱収支・エネルギー解析」

浦野らは、三次元の街区空間における熱環境を予測・評価することを目的とした、室温モデル、放射モデル、気流モデルから構成されるモデルを構築し、このモデルを三次元の仮想街区に適用することによって、短波吸収率の異なる壁面塗装が空調消費エネルギーや新標準温度SET*に与える影響を定量的に評価した。また、街路樹がSET*に与える影響も定量的に評価した。非常に精緻なモデルであるがゆえに壁体の材質等、入力項目が多岐にわたり、実際の街区への適用を困難にしている感がある。感度解析等による入力項目の取捨選択など、実際の街区における検証に向けた改善が必要であろう。

B37 都市熱環境とエネルギー消費及び住民意識に関する調査研究」

 上野は熊本市内の集合住宅の住民に対してアンケート調査を実施し、都市の熱環境とエネルギー消費の地域差と住民意識との関連について比較検討を行った。アンケートの回収率が低く、データの代表性という点に疑問が残る。また会場からは、一戸建住宅における調査も必要であるとの意見が出された。住民意識をどのように定量化し熱環境やエネルギー消費と関連付けていくかが今後の課題となろう。

 

原沢英夫(国立環境研究所)

B38 下水再利用水を用いた空調システムの導入可能性と熱環境改善効果の解析」 

 都市におけるエネルギー消費量と人工排熱量との差を前提とした上で、下水処理水を再利用することにより人工排熱を少なくする技術的対応について、東京都区部を対象として詳細な建物情報に基づいたシステム的な解析を行った研究である。ヒートアイランド現象、すなわち都市の温暖化が地球温暖化と相まって将来的に都市生活や活動に影響すると予測されるが、対応策としての下水再利用はユニークな対策と言えよう。質問にあった100003以上のビルへの冷却塔の設置や、下水再処理水の輸送方法など、技術的な実現可能性と費用効果などの視点からの検討も必要であろう。

B39 WBGT値を用いた緑地内外の夏季における暑熱強度分布の解析」 

 都市内緑地の冷却効果を従来のように気温だけではなく、湿度等も考慮したWBGT(Wet Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度、暑熱環境を計測する指標として、熱中症防止のための運動指針などで用いられている)を用いた緑地の評価に関する研究である。なぜ緑地内の日陰地と、対照として緑地外の日照地をとりあげ、比較したかについて質問があった。暑熱環境が都市環境を考えるうえで重要性を増しており、こうした総合的な暑熱環境を示す指標化及び適用が重要になってきたが、暑熱環境をこの指標で測定することの意義を検討する必要を感じた。

B40 PIXE法による環境大気汚染に関する研究」

 温暖化や大気汚染の解明では、エアロゾルの挙動の解明が重要である。本研究は、エアロゾルの粒径別の組成や挙動を把握するために、粒径別にエアロゾルを補足する新型捕集器を考案するとともに、PIXE分析装置を用いて、その特徴を把握しようとする研究である。エアロゾルの挙動を把握することの環境的に意義があることはいうまでもないが、研究自体は、計測分野の論文に近いものであり、環境システム分野における研究としての位置付けが十分わからなかった。

 

【水域環境】

A37A38A39は都合により省略。

 

近藤隆二郎(滋賀県立大学)

A40  都市生活者の浸水リスク認知度に関する研究」

 酒井(流通科学大学)らは、市民(北摂4市、墨田区)および市民団体を対象としたアンケート調査を行い、浸水リスクの認知を規定する要因について明らかにするとともに、情報提供の重要性について提起した。討議では、回答者居住地と河川との距離とリスク感との関係についての質問があった。また、新住民と旧住民との間でのリスク認知に差があり、そのためにも情報をどのように伝えていくかが重要であるという点について討議が交わされた。

A41  震災時を想定した大都市域水循環システムの総合的診断」

 中瀬(復建調査設計)らは、震災時を想定した上下水道システムへの直接被害と水環境汚染の双方から総合的に水循環システムを診断する方法について、花折、西山、有馬高槻、生駒、上町および六甲の6活断層系を対象に具体的な診断システム設計を行った。「総合的」とする診断システムにおいての統合化プロセスへの質問があった。また、GISへの適用も含めて、これらのデータをどの主体(組織機関)が管理して診断に用いるのかといった実務的な施策方法に関する質疑があった。システムの設計と共に実際の活用時においての重要な討議であった。

B51  大分県八坂川における治水対策の地域住民の理解」

 綿末(21世紀八坂川で遊ぶ会)らは、大分県八坂川の治水対策を身近な実践事例として取り上げ、県と市、住民の間の理解とズレについて具体的に報告した。その三者間の関係にさらにはNPOという主体が「メディエーター」の役割として入るのではないかという可能性について質問とコメントがあった。また、過去の掘り起こしよりはむしろ前向きな議論を期待するというコメントがあり、今後の方向性として多自然型工法や市民運動としての展開についての討議があった。このような事例実践報告では、事例間での交流を想定し、発表者間での相互討議を仕掛けることができればさらに有意義であったと思う。

 

岡部健士(徳島大学)

B53 合意形成に基づく超波対策・魚場保全・海面利用の鼎立を目指した海岸整備計画の検討−千葉県白渚海岸の例−」

B54 地方の漁村地先海岸における合意形成に基づく海岸事業に関する研究 −青森県木野部海岸の例−」

 B54(芹沢)およびB54(清野)では、それぞれ千葉県白渚海岸および青森県木野部海岸を例として、海岸整備事業に係る合意形成に向けた会議と懇話会に参加した著者らの経験が具体的に紹介されるとともに、合意形成システムの機能性を高めるための提言がなされた。提言では、関係住民と事業者とが質の高い情報を共有する必要があること、参加する市民のリテラシーレベルを高める必要があること、会議や懇談会の成果を計画案にフィードバックさせながら合意形成を進める必要があること、などが指摘された。フロアーからも関係住民の環境メンタルマップ作りは事業計画の立案に先立って行うのが適切ではないか、との指摘がなされた。

 

【廃棄物】 

藤原健史(京都大学)

A32 有料化自治体における自家焼却ごみ総量の推定とその削減可能性 −滋賀県守山市を例として−」

有料化自治体における自家焼却ごみ総量の推定と、自家焼却以外の方法による減量可能性について、滋賀県守山市を事例として検討した。一人一日当たりの自家焼却ごみ量には地域特性が影響し、農村、住宅、商業地区で値が異なった。自家焼却ごみ減量化の可能性について検討したところ、PR紙、容器包装財のリサイクル等によって60~85%の自家焼却ごみが削減できることが明らかとなった。

A41 大都市を対象とした廃棄物中継輸送システムの導入効果に関する一考察」

 本研究では収集運搬過程における中継施設の導入効果を調査するために、中継輸送システムをモデル化し、シナリオを設定し、コスト、環境負荷物質の排出量、収集効率を算出し、これらをもとに考察した結果、中継施設の導入は収集効率を上げ、環境負荷物質の排出量を削減する効果が大きいことが明らかとなった。

B43 名古屋市の一般廃棄物処理事業における環境会計作成の研究」

本研究ではごみ処理システムを金銭面と環境負荷面で評価するための環境会計作成を目的として、ごみ処理の一連の流れをもとに費用効率性を検討する上で必要となる事柄を包括的に記載するための環境会計デザインを行った。環境会計を導入することでその事業全体での費用と環境改善及び環境悪化についての体系的な理解が得られることが分かった。

 

大野栄治(名城大学)

A33 中国における都市生活廃棄物処理の需要の将来予測と整備戦略に関する研究」

本研究では、都市環境インフラ整備戦略の予備的検討として、中国都市における都市生活廃棄物処理・処分のためのインフラ需要予測とその充足度に関する分析を行った。まず、中国の主要都市における都市生活廃棄物の排出特性及びその変化パターンについて分析を行った。次に、中国北京市における今後の都市生活廃棄物排出量の変化について、現状維持型と先進国追従型の2種類のシナリオを設定し、2020年までに必要となる都市生活廃棄物処理施設とその投資額を算定した。

B44 自治体の排水及び廃棄物処理事業の評価のための環境会計の検討」

本研究では、自治体の排水及び廃棄物処理事業を対象にTCA(トータルコストアセスメント)の考え方を適用し、環境会計とLCA(ライフサイクルアセスメント)を応用することでその費用対便益あるいは費用対効果の分析を試みた。その際、環境会計については環境資源勘定における物的勘定表の考え方を応用し、多層構造の環境会計を想定した。

B45 地域特性を考慮した排水及び廃棄物処理の最適技術選択システムの構築」

本研究では、資源循環を考慮した地域特性に基づく排水及び廃棄物処理方式の総合評価システムを構築した。その際、モデル構造は廃棄物処理システムと資源循環システムを統合した選択モデルとした。また、評価指標としてライフサイクルコストを用いたが、将来的には環境指標も含めた総合評価とする予定である。

 

【インフラ】

石橋良信(東北学院大学)

B55 建設プロジェクトの環境配慮に関する事例調査」

 柳沢らの土木学会コンサルタント委員第5小委員会では、道路、鉄道、廃棄物処理、河川の各部門における計画・設計・施工・供用に際しての環境に配慮する要素を抽出し、段階的に評価する方法を紹介している。各部門で、環境要素は異なっているが、今後多くの事例を収集、解析し、総合的な指針を作成することが期待される。

A42 都市構造物の製品連鎖マネジメントのシステム構築とケーススタディ評価

村野ら(大阪大学)は建設、廃棄により発生する環境負荷を評価するため、製品連鎖マネジメントの手法を取り入れながら、長寿命化メンテナンス、環境配慮型設計、マテリアルリサイクルの政策オプションを基に、政策シナリオを作成し、環境負荷削減効果を検討している。CO2やエネルギー対策といった新たなライフスタイル検討事項が判明したものの、本政策シナリオで100年間で80%を超える最終処分廃棄物量の削減が可能との結果を得ている。

B56 都市における持続可能な土地利用と基盤整備の計画と評価システム」

 藤田ら(大阪大学)は都市構造物の循環利用を勘案する一環から土地利用と施設立地をコーホート分析を適用しながら100年間という長期間で検討している。その結果、一極コンパクト化と多極的コンパクト化するシナリオで循環型の環境整備の高い効果が得られることを見出している。

 以上の3題はいずれも環境配慮が主たるキーワードになっており、今後増えてくるであろう土木関連構造物や廃棄等の計画と制御の解析を行う指針となると思われる。

 

今岡務(広島工業大学)

B57 都市の集積化による環境負荷の削減に関する検討」

 巻ら(八千代エンジニアリング梶jによる本研究は、高さ1000mといった超々高層構築物などにより、居住区域も含めた都市機能の集積化を図った場合の環境負荷について検討を行なったものであり、集約度の増加に伴って基本的には環境負荷が低減することを示した。ただし、超々高層構築物では上水を上層階へ搬送するエネルギーの増加により削減効果が制限される場合があり、水位差を利用した発電システムの構築などが必要であるとした。

A43 小型低騒音車導入と排水性舗装の施工による道路交通騒音の環境基準達成率の改善について−北九州市を対象として−」

 都市部幹線道路近傍においては、騒音に関わる環境基準の達成率は依然として低い状況にある。渡辺ら(九州工業大学)は、この問題に対して排水性舗装の採用および低騒音車の導入という音源での対策の効果について検討を行った。その結果、車両に関しては大型車の寄与が大きいため、小型車への低騒音車の導入の効果は小さいが、通常より小さい骨材粒径(5〜10mm)を採用して排水性舗装を施した場合、北九州市での環境基準達成率は昼間で87%、夜間で69%、両時間帯で67%に改善されるとした。排水性舗装の強度の問題など、側面からの検討の展開も期待したい研究である。

A44  水道管路網の改良・更新計画のための評価手法に関する研究」

 わが国の水道管路のうち、約36%は敷設後20年以上経過した管であり、近い将来には法定耐用年数を超過するものが大きな割合を占めることになる。小棚木(鞄水コン)らの研究は、このような水道管路網の効率的な改良・更新計画を立案するためのツールの一つとして、健全性(有効水頭不足比率等)、充実性(水圧変動幅等)および効率性(有収率等)などを項目・指標とした管路機能の評価手法を提案したものである。本手法により、現状の問題点だけではなく、各配水ブロックの将来時の状況も勘案した改良・更新の優先順位付けを行うことができたとしているが、著者らも述べているように事業費・ランニングコストなど経済的な問題も重要であり、費用対効果の評価への今後の課題としている。

 

鶴巻峰夫(八千代エンジニアリング梶j

A45 大都市域での下水処理水利用による水辺創成と地震被害の軽減に関する研究」

 西村らは、常時定量的に確保することが期待できる下水処理水について、常時における水辺創成のための親水水路用水、震災時における消火用水、トイレ用水等の中水としての利用を提案している。本研究では、両者の利用効果を最大限に引き出すことを目的とした大都市域水循環システムに対する水辺創成モデルの構築を行い、そのケース・スタディを実施した内容を発表した。会場との質疑では技術的な質問のほか雨水利用との比較の議論などが行われた。

A46 港湾における埋立の規模と位置の特徴」

 鈴木は、港湾開発における埋立について、その規模と空間分布特性について経済指標や地理的指標との関連をパス分析により検討を行っている。この検討により、バブル期に当たる8991年度と、直近である9698年度の期間に立案され提出されている港湾埋立計画の計画規模に対する決定要因として地理的・経済的要因との関連を数値的に表示するとともに、その決定過程を時代的背景との関連による考察で矛盾なく説明することができた。質疑では、主に技術的な側面に着目した質問があった。

B59 小規模擁壁工に着目した中山間地における木製擁壁転換時のCO2排出量削減の推定」

 澤田らは、中山間地に豊富にある森林資源(木材)を有効利用しようとする観点のひとつとして、コンクリート材料の代替材としての利用によるCO2削減効果に着目して、町レベルのスケールで、その効果を推定している。対象工事としては木材転換が比較的容易と考えられる小規模擁壁工を選定し、昨年度における個別構造におけるCO2排出量の基礎的検討に基づいて、地域レベルでの効果検討として発展的に研究を進めている。質疑では、地域経済への貢献の程度に関する質問等があった。

 

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編集後記

 ニュースの発刊が遅れ、昨年11月の論文発表会の座長報告をやっとお届けすることができました。座長報告は、1発表について数行で要約、質疑応答、感想を担当した座長が作成しています。が、近年、忙しい中で書くのはしんどい、また意義もわからない、といった意見が出てきています。編集がてらザーと目を通してみると、座長の個性がでている文章で面白く読め、またキーワードを拾い読みするだけでも、環境システム分野でどんな研究が最近行われているかがわかるのではないか、と思っています。環境システムニュースレターの記事として長年載せてきた座長報告も、もしかすると今回が最後になるかもしれません。止めるのは簡単なのですが、惜しい気もします。

 なお、本ニュースレターは、藤原委員と鎌田委員が担当しました。原稿集めに四苦八苦したと聞いています。ご苦労さまでした。

 編集後記の文責 原沢英夫(NL担当委員)