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*                                    *
*       土木学会 環境システム委員会ニュースレター        *
*      Vol.13、No.3  2001.1.15発行      *
*                                    *
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−−−−−−−  目 次  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1.「環境システム委員会からのお知らせ」

2.「第28回環境システム研究論文発表会」の報告

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 環境システムニュース平成12年度第3号をお届けします。本号では、委員長と委員の推薦に関わる「環境システム委員会からのお知らせ」と平成12年26日()、27日()に名古屋大学において開催された「第28回環境システム研究論文発表会」の概要とセッション報告を掲載しています。

1.「環境システム委員会からのお知らせ」

<<委員長と委員の推薦のお願い>>

 2001年3月末で環境システム委員会の委員と役員の再構成が行われます。後述の委員長からのメッセージにありますように、委員長の候補及び委員の候補を検討するにあたり、よりひろい範囲の方々を候補として検討するために、皆様からのご推薦をお願いしたいと存じます。

 具体的には以下のような要領で委員長と委員の候補を募集いたします。

(1)委員長候補の募集

 任期は2001年4月〜2003年3月の間とし、環境システムの学会活動に対して深い見識と熱意を持つ方。

(2)委員候補の公募

 任期は2001年4月〜2003年3月の間とし、環境システムの学会活動に対して熱意をもち、実行力のある方。なお、公募の対象となるのは委員会委員のうち、委員長推薦によりきめられる部分です。

(3)推薦方法

 来る2001年2月16日(金)までに、被推薦者名、推薦者と連絡先、200字程度の簡単な推薦理由(被推薦者の活動内容を含む)を(社)土木学会環境システム委員会宛(〒160-0004 東京都新宿区四谷1丁目無番地Tel: 03-3355-3559Fax: 03-5379-0125)に送付してください。推薦が委員長候補の推薦か、委員候補であるかを必ず明記してください。なお、自薦も可とします。 

 なお、この方式による委員長及び委員の選出の手順は以下のようになります。

a)本ニュースレターにより募集(締め切り2001年2月16日)

b2001年3月上旬 環境システム委員会委員長推薦委員会開催  

  推薦いただいた候補者、推薦委員会自身が挙げる候補者を対象にして委員長を選出

c2001年3月下旬 環境システム委員会において委員長決定

d)その後、推薦された委員候補を参考にしながら、新委員長が委員構成を決定

<環境システム委員会 森杉壽芳委員長よりのメッセージ>

 学会委員会委員長等の選出手順やその結果についての透明性を高めること、学会員参加による民主制を確保することが要請されています。このような要請に答えるべく、環境システム委員会では、1999年に委員長候補と委員候補の公募を行いました。一方で、委員長推薦委員会を発足させ、委員長選出過程の公開制を確保しました。その成果は、説明責任と透明性を十分に確保できたものと考えます。そこで、今回の次期委員長および委員選出に当たっても、前回の手順を踏襲した手順で行います。皆様のご理解とご協力をお願いします。

2.第28回環境システム研究論文発表会報告 (幹事長/国立環境研究所 原沢英夫)

 平成121026日(木)、27日(金)に名古屋大学において第28回環境システム研究論文発表会が開催されました。今回は、日本環境共生学会との連携学術大会とし、両学会の共通イベントとして特別シンポジウム、懇親会を開催しました(日本共生学会の学術大会は28日(土)に開催)。

 今回の発表会より、論文集である「環境システム研究」を分冊化し、従来の全文審査部門論文を「環境システム研究論文集」、アブストラクト部門論文を「第28回環境システム研究論文発表会講演集」としました。前者の論文数は56件、後者は69件の合計125件に及び、前年の102件に比べて約20%増加となりました。また、参加者は環境システム研究論文発表会が279名、環境共生学会学術大会は118名、共催の特別シンポジウムなどを含めると421名の方が参加され、20世紀の終わりにふさわしい盛大な発表会となりました。

 また、今回は優秀ポスター賞を創設しました(次項を参照)。従来アブストラクト部門の論文発表形態としてポスター発表を行っていましたが、今年は全文審査部門論文のポスター発表希望が7件あり、合計24件がポスター発表されました。1日目の13:00から1時間をあてましたが、ポスター発表者と参加者の間で熱心な議論が交わされました。

 各セッション発表については、1日目の早朝から多くの参加者があり、各セッション30名から80名の参加がありました。特に2つの企画セッションには多くの参加者があり、発表後の質疑応答も活発になされました。セッションの報告については、4.をご覧ください。

 2001年は久しぶりに東京で開催予定です。学会誌2月号で論文募集を行いますので、読者の皆様、是非奮って応募いただきますようお願いいたします。

ポスター賞受賞者の報告 (国立環境研究所 一ノ瀬俊明)

 さる1026日から3日間の日程で、土木学会環境システム委員会(第28回環境システム研究論文発表会)と日本環境共生学会(2000年度学術大会)の連携学術大会が、名古屋大学において行われ、421名の参加があった。前者(初日及び2日目)においては環境政策、環境経済、環境評価、市民参加、環境解析、環境モデル、大気環境、エネルギー、物質循環、水環境、自然生態系などに関する全文審査部門56題、アブストラクト審査部門69題の研究発表が行われ、多くのセッションで立ち見が出る盛況ぶりであった。また、2日目の特別シンポジウム「都市環境共生の可能性 〜技術と制度〜」と懇親会は2学会共催の形で行われた。前者における発表のうち28題についてはポスターセッションであったが、ポスター形式の奨励とイベント性の高揚を兼ねて、本年度からスタートした優秀ポスター賞が競われた。環境システム委員を中心とした13名の審査委員による、「わかりやすさ」、「ユニークさ」、「美しさ」(学術水準そのものは対象外)の3つを審査基準とした投票の結果、以下の3編の論文が優秀ポスター賞に輝いた。受賞者には環境システム委員会より賞状が送られる。

・「河川・湖沼に関する絵本にみるテーマの変遷」

  吉冨友恭氏(建設省自然共生研究センター)

・「ダム湖畔における水路の環境整備と流水性生物の生息場所創出効果」

  百瀬浩氏(建設省土木研究所)ほか5名

・「街区構造の違いを考慮した東京23区の具体的ヒートアイランド対策」

  玄地裕氏(工業技術院資源環境技術総合研究所)ほか5名

なお、本報告は、土木学会誌2001年1月号に掲載予定です。

セッション報告

【マテリアル・インフラA(1)】 藤田 壮(大阪大学)

マテリアル・インフラAのセッションでは7編の報告と質疑がおこなわれた。

最初の立命館大学天野・渥美による「一般廃棄物処理における事業系ゴミの影響に関する研究」では、全国の324の自治体を対象に一般廃棄物の取り扱いや収集制度に関するヒアリング調査に基づく分析についての研究が報告された。一般廃棄物収集での事業系廃棄物を取り扱う自治体に注目して事業系ゴミの従業者あたりの発生量原単位に影響を与える地域特性を相関分析によって導き、飲食店やサービス事業所等の数が有意に影響を与えることや有料制を導入した自治体では事業ゴミが一般廃棄物とならない傾向を示した。報告後の質疑では、集計的なデータの分析では、要因相互に共線性のが問題が発生するため、特定の要因の影響を特定できない可能性があることが指摘された。

続く、九州大学井村、松本、鮫島による「ディスポーザー導入による過程の生ゴミ処理・再資源化システムの評価」では、ディスポーザー導入による排水及び廃棄物処理システムでの環境負荷の改善効果をLCAの手法を用いて算定した結果が報告された。汚泥の再資源化技術として生分解性プラスティックの生産をシナリオとして設定した結果、現状よりもライフサイクルコストを低減できることを明らかにした。発表に対して乳酸生成の現時点の技術水準とコストのフィージビリティについて質問がだされた。

3番目の同じく九州大学のグループ井村、松本、岩尾、大迫による「都市の有機物資源循環システムの評価指標の開発」についての研究では、福岡市を対象として食物由来の資源循環とそれに付随する直接、間接の資源投入と環境負荷を算定し、循環の効率や健全性等の指標を設計して製品循環の上流から下流までの対策のシナリオ分析を行った結果を報告した。食品ロス率の削減や汚泥のコンポスト化の指標への影響を算定した結果を報告した。

【マテリアル・インフラA(2)】 今岡 務(広島工業大学)

A04 セメント産業における副産物の利用促進に関する研究

和田らは、石炭火力発電や粗鋼生産の副産物として算出されるフライアッシュや高炉スラグを混合セメントの副資材として利用する際の最短輸送経路検索を、GISデータを用いたネットワーク解析により行い、併せて混合セメントの生産拡大によるCO削減効果について環境税を導入したケースも含め、検討を行っている。結果の例示が、中部地方に留まったため、全国のセメント工場等を対象とした解析の成果を希薄にした感があった。

A05 コンクリート及び木製小規模擁壁のCO排出量に関する基礎研究

枝澤らは、小規模土木構造物である擁壁について、コンクリート製と木製のもののCO排出量を比較、評価を行い、コンクリート擁壁の施工時CO排出量は木製の約5.5倍であること、また木製擁壁のLCCO排出量はその耐用年数が10年以上であれば、コンクリート擁壁のそれを下回り、環境負荷削減に優位となることなどを報告した。全体システムに関わるマクロな解析も必要であるが、このような個別のパーツを対象とした基礎的なデータの集積も重要であることを示唆する発表であった。

A06 建設物の製品連鎖マネージメントによる環境負荷削減効果の検討

藤田らは、建設廃材のリサイクルシステムについて検討し、廃コンクリート等を同じ建設資材として活用を図るクローズドシステムを促進すべきであると指摘した。さらに、大阪市を対象に廃コンクリートの再資源化システムをシナリオ別に解析し、区単位で施設を立地させることにより、輸送に伴うCO排出量の削減効果が大きく高まることなどを定量的に示した。今後、このようなシナリオをどのように実現して行くか、その道筋を示すシナリオについても研究の展開を期待したい。

A07 都市空間構造改変政策に伴う各種環境負荷のライフサイクル評価システム

林らによるこの研究は、住宅の耐用年数の改善や配置変換など都市構造の改変施策を実施することによる環境負荷変化をモデル化し、CO排出量や廃棄物など10項目を指標として、長期的影響のLCA的評価を行ったものである。総合評価値として「環境への優しさ指数」を用いた解析結果などが報告され、都市内住宅を駅周辺に立地転換することによる環境負荷削減効果が住宅の耐用年数増加に伴う効果に匹敵することなど興味深い成果が示された。

【企画セッション1】                   二渡 了(産業医科大学)

 本セッションは、環境システム委員会自己評価小委員会が行っている環境システム研究における視点を整理し、21世紀における環境システム研究の位置付けやあり方を検討するといった活動の一環として企画されたセッションである。7件の発表と全体討議が行われた。

 まず、企画セッションの趣旨説明として、「環境システム研究」には1988年以来の12年間に816編の論文が掲載されていること、それらの中心課題は土木技術と地域環境システムおよび人間と環境との様式化であったこと、その後、各種環境関連学会の充足や新規設立も行われ、環境研究が多様化してきていること、こうした中で掲載論文を対象分野ごとにレビューすることが述べられた。

B01 環境システムとしての大気・熱環境研究の来し方行く末

 環境システム研究における大気・熱環境研究は、90年代初頭より始められ、大型計算機を用いた数値計算についての成果が報告されている。しかし、その計算機環境は一般的なものではなく、計算条件も現在から見れば限定されたものであり、都市や地域スケールでの気温・風系の数値計算、観測、都市のエネルギー消費構造との関係等を解析したものであった。96年を境に新たな流れが始まり、計算機性能の向上や大型研究プロジェクト、他学会との交流がすすめられた。こうした自然科学の知見を整理し、先進事例としてガイドラインにまとめる必要性などが述べられた。会場からは、社会のニーズとしての環境システムにおける大気研究をどのように考えれば良いのか、日本では大気汚染の問題は解決してきているように見えるが、世界ではSPMの問題等もあり、どの分野の専門家が取り組めば良いのかといった質問があり、環境システムならではの研究が当然必要であり、欧州等での低レベル濃度の議論も必要かもしれないといった回答がなされた。しかし、そうした取り組みは土木学会として必要だろうかといったコメントもあった。

B02 「環境システム研究」における水域環境研究の変遷と展望

 環境システム研究全体の1/4程度が水域環境に関する研究論文であった。それらを研究対象(自然環境、人工システム)、分析対象項目(水量、水質、生物、エネルギー、他)、利用データ、解析・評価手法の項目で分類し、経年的な推移について整理した内容であった。科学的現象と社会的現象を統合した解析や定量的な評価を水域環境の保全施策につなげる研究が見られるようになってはきているものの、全体的な構成や研究対象・手法等については大きな変化はなかったことが示された。研究対象が国際的になってきてはいないかという質問もあったが、極端には増えてはいないとのことである。

B03 環境システムにおける都市基盤システム・物質循環研究

 当初は廃棄物処理処分についての研究が見られたが、92年以降減少している。廃棄物学会の設立が影響したのであろうか。9094年には、各種の指標財についてのLCA研究が行われ、土木施設に関するLCA研究も96年をピークとしており、解析の方法論として市民権を得たといえる。都市のマテリアルフロー・物質収支や都市活動のエンド・オブ・パイプとしての都市基盤システムに関する研究が、環境社会システム研究の一つの流れとなる傾向を見せ、要素の機能特性を最適化し、多機能を統合化しようという方向が示された。最近、政策設計へ展開する研究論文も増え始めており、他学会等との連携も必要との期待が述べられた。都市インフラの費用便益と環境影響評価を合体させてマニュアル化する必要はないかとの質問があったが、オランダにおけるターゲット・プランニングのような論理的システムによる政策誘導型の手法の検討も必要であり、次の世代の都市環境システム研究の課題として小委員会で検討したいとの回答がなされた。

B04 環境システムにおける自然生態系研究

 まず、自然生態系研究が環境システム研究にふさわしいかといった疑問が投げかけられ、発表会におけるセッション名の変遷が両者の関係を物語っているとの指摘があった。「生き物」関連論文を場の区分、対象生物、生物の見方、研究目的から分類し、水処理における機構解明と環境変化全般にわたる研究論文数が多いことが示された。さらに、環境システム研究、年次学術講演会、環境工学論文集、河川技術に関する論文集を比較検討し、環境システムにおける自然生態系研究の独自性や存在価値が認められることが述べられた。土木学会内外の多くの論文集等にも自然生態系研究が掲載されているが、これらを横断的に眺め、環境システム研究らしさを現出していくことが必要なのかもしれない。

B05 「環境システム研究」における環境の経済評価分野に関するレビュー

 環境評価に関する論文を物量と金銭の評価ターム、集計データか非集計データかのデータの性質によって都合4つに分類し、各分野での検討結果が示された。評価タームでは、物量データを取り扱ったものが多く、金銭タームでの評価は90年代後半からである。また、データ収集方法では近年アンケート調査の利用によって個人の行動分析や具体的・定量的な評価が増加してきており、いわゆる社会的な費用便益分析が行われていることが述べられた。会場では、環境の経済分析と環境影響評価とは区別すべきであり、環境経済分析からの経済理論への貢献はなかったのではないかとの意見に対して、経済学のパラダイムでの貢献はなかったが、経済学にはないパラダイムや経済学が扱っていないところでの貢献はあったのではないかとの議論が行われた。ミクロな人の行動を解析する社会科学的な分野での方法論におけるリーダーシップを環境システム研究がとりうるであろうとの指摘もなされた。

B06 環境システム研究における地球環境・温暖化研究

 土木学会では地球環境シンポジウム等でも地球環境・温暖化に関する研究発表が行われている。環境システム研究の特色を整理すると、データベースの整備、政策対応型の研究、国際化への対応となる。今後は、温暖化研究のように各要素での取り組みを対象とした研究を政策提案へと結びつける手法が必要であるとの発表内容であった。他委員会との関係では、やりとりを進めていく必要性と投稿者の自発的な態度に任せるべきとの意見があった。なお、JGEE(地球環境委員会論文集)の編集はそれ独自で行われており、システム的でないものも含まれているとの補足説明もあった。

B07 「環境システム研究」における環境理念・環境論の多様性と展望

 環境システム研究における発想の”幅”をほりあげるために十進分類分野ごとに掲載論文の特徴が整理されていた。計画・デザイン的な社会学の視点や環境文化論、環境意味論等の特色のある論文が多かったことに驚かされた。つまり、環境システム研究はいかなる分野でも可能であり、対象ではなくアプローチに特徴があること、積み上げ的研究(収れん)とフロンティア研究(発散)の両者からなっていること、環境システム研究の懐の深さ、言い方は悪いが節操のなさがあることが述べられた。ただし、異分野との交流においてはそこでの作法に注意すべきであるとの指摘があった。

全体討議

 7件の発表の後、環境システム研究の視点や今後の課題についての全体討議が行われた。以下は、議論の概要である。

◆環境システム研究では、水域環境研究のように研究対象・解析手法ともに変化の少ないものと環境理念・環境論のような幅の広いものがある。

◆環境システム研究は、ドメンインとして多くの研究領域をカバーしている。環境がはやりというわけではないが、聞いていて面白いから発表会に参加している。環境システム研究としては、何をやるべきかを考えるとともに現在の自由な風土を保ちつつアクティビティーをさらに高めることが重要である。

◆環境研究を横断的につなげる仕組みについての議論が必要である。

◆過去には論文の中で「環境システム」という言葉を使わないようにとの指導を受けた。問題解決型の環境システム研究として、研究成果を蓄積するとともに環境システム研究としての必要条件を整理すべきである。

◆今回の論文レビューを通して横断的な整理を試みたが、過去の論文に逆に新鮮さを感じた。研究対象や手法の検討によって新しい方向が見えてくるのではないだろうか。

◆環境システム研究の研究レベル、アクティビティーはそれなりに高いと評価できる。また、環境システム研究へのニーズもありそうである。ただし、環境システムとしての思考過程が明示される必要がある。今回のような論文レビューや展望を定期的に行い、発散と収れんの過程を明らかにすべきであろう。

 最後に、本セッションは立ち見が出るほど盛況であり、同時開催の他セッションに少なからず影響を及ぼしたものと思われる。翌日の日本環境共生学会と連携した特別シンポジウムのテーマでもあった共生(技術と制度はそのアプローチの一つ)についての討論や昨年の提案型論文セッションの総合討論で指摘された分野横断的・総合的研究こそが環境システム研究の大きな特徴であり、自己評価小委員会での検討を継続していきたい。

【大気環境・エネルギーA】 一ノ瀬俊明(国立環境研究所)

 このセッションでは、熱環境シミュレーション(前半2題)、温暖化対策の地域大気環境改善効果(島田ら)、エネルギー供給システムの改善による二酸化炭素排出量削減効果(荒巻ら)にわたる4題の講演に対し、30名強の参加者により途切れない熱心な討議が行われた。いずれの発表でも、空間情報基盤や地理情報システムを活用して行われたユニークな研究成果が示された。例えば前半2題に関する主な論点は以下のとおりである。

 田村・水鳥は、建物群の効果を考慮して建物間気温を予測できる都市キャノピーモデルを開発し、メソスケールモデルに組み込み、通常の手法では海風の影響で乱され検出が困難な都心部における日中の高温化(建物間)を再現した。東京をフィールドに同種の研究を進めている亀卦川氏(富士総研)などから、適用されている各種入力データの質に関するコメントがなされた。モデルと入力データは車の両輪の関係にあり、一方だけ詳細化を進めても努力が報われないことが改めて印象づけられた。90年代後半における計算機環境の飛躍的な発展もあり、モデルによる数値シミュレーションが身近なものとなった感がある。反面その実行自体の価値は乏しくなり、手法上の創意工夫と明確な目的意識が求められるようになっている。それゆえ、目的に応じたバランスのよいモデルと入力データの選択も重要であろう。

 上野らは、簡単な空調モデルを用い、メソスケールモデルによる計算気温と世帯属性の分布情報を組み合わせて、夏季の空調負荷分布の将来予測を行った。会場からは、使用しているピーク時の空調負荷原単位が大きめであり、信頼性のチェックが必要である、との指摘がなされた。延べ床面積に対する空調面積の比自身に不確定要素が多い現状では、計算結果の絶対値の検証が不可欠であろう。

【水環境A】 福島武彦(広島大学)

「水環境A」ではA論文4題の発表が行われた。

羅漢金(山梨大学)らの「地球化学的水質分類による地下水形成システムの検討―新潟県小国・小千谷・小出地域の地下水について―」は、地下水中の主成分元素による地球化学的水質分類に水温、地質、地形などの情報を加え、地域地下水がどのように形成されているのかを解析した結果を報告した。地域地下水の形成システムの詳細を明らかにしているものの、地球化学的な手法の適用に終始している感があった。今後、揚水や消雪水撒布等、人間活動の影響に関する解析が望まれる。

金泰成(立命館大学)らの「雨水貯留施設による雨天時ノンポイント流出汚濁物のリアルタイム制御」は、分流型下水道の末端の雨水貯留施設に汚濁制御、洪水制御、水利用の3機能をもたせ、モデル地域を対象に、シナリオ設定によるリアルタイム制御導入の効果を検討した結果を報告した。貯留施設の設置、リアルタイム制御の導入により、汚濁負荷の90%以上の削除が可能であることを示した。さらに、降水パターン、汚濁負荷の種類を変化させることから、実用的なシステムの開発が望まれる。

中村圭吾(建設省土木研究所)らの「河口に設置した人工内湖による汚濁負荷制御」では、霞ヶ浦に流入する川尻川河口に設置した人工湖(約30,000m2)の汚濁負荷削減効果を調査した結果を報告している。セジメントトラップを用いた観測結果をもとに、窒素で19%、リンで83%の除去効率を有すると推測している。セジメントトラップ観測結果の解釈、外部湖水との混合量の評価など、今後、手法をさらにリファインする必要がある。

竹村仁志(八千代エンジニアリング)らの「水の循環利用地域における高度浄水への利用者評価に関する研究」は、大阪府が1998年から導入した高度浄水処理に対して、市民の評価をアンケート調査した結果をまとめたものである。利用者の約半数が高度浄水への変化を認識しているものの、約75%の人が水道水に不安を覚えていることを報告している。また、適切な情報提供の必要性を示しているが、今後、その具体的な方法などを提示してくれることを期待したい。

【マテリアルインフラB(1)】  鶴巻峰夫(八千代エンジニアリング)

「新規交通施設整備に伴う環境負荷変化のLCAに基づく評価モデル」

 加藤らは、従来のLCAにおいて対象とすべき環境負荷の概念を拡張したELCEL(Extended Life Cycle Environmental Load)という考え方を提唱し、公共交通機関の新規導入に適用を試みている。

「ライフサイクルシミュレーションモデルを用いた施設や製品の最適寿命設定」

 加藤らは、工業製品に関する寿命について物理的・機能的・経済的要因を考慮したライフサイクル・シミュレーション・モデルを提案し、実際の製品に適用して製品の最適寿命や、事後保全・予防保全・更新の適切な組み合わせによるライフサイクル戦略について考察している。

「一般工業化住宅への環境保全型商品の導入に関する一考察」

 佐野らは一般工業化住宅におけるISO14024に定義されるタイプT環境ラベルであるエコマーク部材の導入についての環境負荷削減効果の定量化を試みるとともに、導入障壁となる要素の明確化を行っている。

「製品連鎖マネジメントによる都市と農村における有機物循環に関する研究」

 楠部らは都市と農村における有機物の循環について有機性廃棄物のコンポスト化と、そのコンポスト利用による農作物の品質向上というシナリオを仮定し、その問題点の抽出するとともに、有機農産物の価値に関する支払い意志額の分析による消費者が担う費用分担について検討を行っている。

【マテリアルインフラB(2)】  花木啓祐(東京大学)

B23 有機廃棄物の循環利用における物質代謝アプローチの展開

楠部ら(大阪大学・科学技術振興事業団)は、神戸市を例にとって、地域単位での有機物収支をとり循環システムについて解析を加えている。その中での重要な指摘は、農業、畜産、食品工業、流通店舗、消費者という各主体の間では単純な循環システムは機能せず、農業主導型、工場主導型、店舗主導型、流通主導型、公共セクターおよび市民主導型、のそれぞれの有機物循環を並行して進める必要がある点であり、それらの循環の個別解析の成果も示している。

B24 学校ビオトープでの廃棄物の活用による総合的な学習教材作り等に関する研究

田(大阪市立都島小学校)は小学校高学年の生徒を対象にして廃棄物の堆肥化、生徒の家庭から発生するごみの調査、等を通じた環境教育を実施している事例を報告した。その中で、生徒のエコライフ達成度を意識調査を元にして評価しており、他校に比べて高いことを示している。発表者自身が指摘するとおり、このような環境保全意識の高揚を今後学校から地域社会へ、継続的に波及させていくことが重要であり、活動の蓄積と発展が期待される。

B25 資源循環の適正空間規模の評価に関する基礎的研究

立花ら(九州大学)は資源循環にはそれぞれの資源もしくは廃棄物の特性によって適正な空間規模が存在するという認識に基づき、それを解析しようとしている。空間規模に関わる要因として、法制度、廃棄物自身の性格、リサイクル容易性、廃棄及び再資源化ルート(自治体ルートか民間ルートか)があることを指摘している。このような視点の元にいくつかの廃棄物・製品について解析を行っており、これらの結果をどのように一般化・統合化していくかが今後期待される。

B26 都市物質代謝システムの環境経済評価に関する研究

中山ら(九州大学)は建設廃棄物のリサイクルを進めた場合の地域経済的な面での波及効果を一般均衡モデルで解析している。今後リサイクルやゼロエミッションが大規模に行われるようになった場合の産業部門の構造的な変化や家計部門、政府部門へ及ぼす経済的な影響を予測することはリサイクルの実施に当たり不可欠である。ここでは福岡市の場合を例として、建設廃棄物リサイクルの波及効果を示しているが、更なる手法の確立と信頼性の向上を期待したい。

【環境評価A・環境政策】 片谷 教孝(山梨大学)

このセッションでは、合計8件の全文審査部門の発表が行われた。ここでは筆者が司会を担当した前半4題について述べるが、それぞれ分野あるいは研究のアプローチが大きく異なるため、それぞれについて個別に印象を述べることにしたい。

亀田ら(A17)と伊藤ら(A18)は、いずれも災害対応と都市環境の関連に関わる発表を行ったが、着眼点は大きく異なっている。前者では災害に対する脆弱性をもつ地域の定量的評価と、そこに居住する高齢者の生活行動の把握に着目しており、新しい着眼点といえる。ただし、まだ初歩的な評価にとどまっており、今後さらに定量性を高めることが望まれる。後者では、震災時の水道復旧過程を住民から行政への電話回数を指標として時系列的に評価することを試みており、これも着眼点としては新しい。しかしフロアからの指摘にもあったように、解析の前提としている線形性がどれだけ成り立ちうるか、あるいは変数の選択が適切であるかなどが課題と考えられる。古守ら(A19)は、環境問題に対して先進的と評価される企業や地方自治体に対するアンケート調査等に基づいて、それらの環境管理活動の類型化や評価を試みた。調査内容としては新規性があり、意欲的な取り組みといえるが、分析内容や考察にはまだ幅を広げる余地があるように感じられた。横山ら(A20)は、道路交通騒音の低減対策について、その物理的効果の比較と費用効果分析を試みた。都市計画に対する効果分析をメッシュ単位で行うことの意味や、騒音被害の計量方法などに問題を残しているものの、研究例の少ない騒音と都市環境に関する研究として、期待が持たれる。

以上のように前半4題では、都市防災、騒音対策、企業や自治体の環境管理というような、これまで環境システムの世界では比較的取り上げられることの少なかった研究テーマが並び、いずれも課題を残すものの、今後が楽しみな研究発表であったといえよう。

【企画セッション2】 長野章(水産庁)

企画セッション2「人間の諸活動と自然環境間の相互関係の相互関係の構造分析手法について」の進行は各発表に対して質疑応答の後、最後に20分間ほど総合討論を行った。質疑応答及び総合討論における主な意見は次の通り。

 門間はシステム構造分析手法の今後の発展について、幾何学的構造モデルでは調査者の主観的情報が活用できること、システムの要素数に制限があるが、具体的数量データが取り込めればさらにシステム構造分析の可能性は大きくなるとのべた。児玉は要素抽出における有識者の位置づけと言うとにに対して、問題点などの要因分析でなく環境社会システムのような広がりを持ったものの構造分析では地域の主たる産業を中心に地域全体を把握している人を有識者と位置づけて調査すべきと述べた。

 児玉らの二つの論文は戦略的環境アセスメントに通ずるものがあり、環境だけの保全でなくそれらがどのように経済に生活文化に影響するのかの評価が可能である。

 古屋らの論文については地域の活性化の話しであるが、失敗例を示すことに新味がある。また施策の階層化の元となった各町の振興計画そのものがAHPに機能するよう厳密に作られていないと言う問題がある。古屋らの研究に対して地域住民の意識構造という点ではうまく説明できているが行政側の意識構造も大切でこれをはっきりさせなければ行政の失敗は続くのではないかとの意見に対し、行政及び公共事業に依存する住民の意識の方が問題であるとの反論がなされた。

 DEMATEL法における手法の適用の注意事項について、平均値を出すのでなく、違いを数字でわかりやすく出す。住民などには正直に意見を言ってもらい、すぐ分析しフィードバックし議論をすることが大切との指摘があった。

 環境社会システム構造分析の場合は、一つの方向を出すものでなく違いを見せていく手法であることに注意すべき。その中で分析したモデルの時間的な意識の変動とか出来事の前後の意識の変動などを見ていくと分析手法の可能性が広がる。

 今回の企画セッション研究は、山中ら研究に見られるように現場の問題を取り扱う問題解決型のものばかりで今後その調査研究の進展が望まれる。しかし、分析手法の限界を知るべきではないか。例えば山口さんの「生産する仲間の存在」が中心的な役割であり原因であるが、なぜそれが存在するのかなぜ要素として存在するのかはこの手法では調べられない。今後の方向としては手法の研究、手法の適用、適用の限界について整理して行くべきであるとの指摘があった。

【大気環境・エネルギーB】    倉田学児(豊橋技術科学大学)

 このセッションでは5件の発表があった。泉(東京大学)と平野(東京大学)らによる2件はいずれもヒートアイランド現象に関するもので、前者は、研究史という観点からヒートアイランド現象の研究の流れを整理したもの、後者は人工衛星データからの緑被率の推定をベースに都市緑化によるヒートアイラドの緩和効果をモデル計算から論じたもので、いずれも今後の展開に期待できる。ヒートアイランドに関する発表は、A論文やポスターのセッションも含めると10件近くと環境システム研究の一つの柱となっているが、今後はさらに独自性を強調して他の発表との差別化が望まれるだろう。

 河原(香川大学)らによる東京23区を対象とした河川水と下水処理水を排熱源とする地域冷暖房システムに関する研究では、水熱利用よる省エネルギー効果、排熱削減効果は大きいが、需要地域と熱源との空間的な分布にずれがあることが示された。会場からは、河川の温度上昇の点や、特に効果の大きな地域はどこかという質問がなされた。

 粂川(宇都宮工業高校)らは、LESモデルを用いて推定した宇都宮市周辺でのSO2の空間濃度場から、雲底下でのウォッシュアウト過程を計算し、採取した雨水との比較を行った。高校生にも理解できるように簡易な式での推定を試みたという事であったが、会場からは過去の経験からSO2よりもSPMの方がよい相関が得られるだろうと助言があった。

 四蔵(舞鶴高専)らによる、IEA/OECDのエネルギーバランスのデータを用いた各国の再生可能エネルギーの利用状況に関するクラスタ分析では、日本は再生可能エネルギーの多様性に欠けており、研究費の投資でも積極性が見られないグループに属するとされた。会場からはクラスタ分析のパラメータの独立性についての疑問などが示されたが、さらに統計処理方法を洗練すれば興味深い結果が見られると期待する。

 以上5件は、大変バラエティの富む内容であり、それぞれにフロア−との熱のこもった議論が展開されたが、時間の制約で十分に議論を煮詰めることができなかったのが残念である。

【自然生態系B】 鈴木 武(運輸省港湾技術研究所)

B70 道路緑地のハビタットとしての機能に関する研究〜帯状道路緑地の鳥類による利用を例として〜

 道路の植樹帯とのり面における鳥類の生息状況と植栽等について、現地調査を基礎とした研究が発表された。周辺緑地との連続性や緑地の幅について掘り下げた分析が求められた。

B71 道路事業における生態系の評価手法

 この報告は、アセスの指針を受けたマニュアルの内容紹介であった。ルートの違いは、原則1kmの幅の中で考慮されるという発表者見解の表明や、生態系の抽出は、異なるハビタットの分布と生物の移動経路の関係性から分析すべしという指摘などがあった。

B72ヒヌマイトトンボ生息地の立地条件とその復元に関する一考察

 ヒヌマイトトンボの生息地の分類と、その保護のためのミティゲーション事例の紹介がなされた。ヒヌマイトトンボの生活史や分布密度などについて高い関心が示され、意見の応酬があった。

B73 滋賀県に生息する哺乳類(カモシカ・ニホンジカ)を指標種とした生息適地評価に関する研究

 標高、植生、積雪深をもとに対象種の生息適地を推定した結果が報告された。地形や他メッシュとの連続性の不足が指摘される一方で、研究がプリミティブな段階では、実社会に対する結論的な評価は避けるべきであるという、倫理的なコメントもあった。

B74 ウミガメ保護と養浜を含む海岸保全に関する基礎的研究

 海岸保全においてウミガメ保護を行う場合の注意事項が紹介された。実証的研究への期待や、砂の粒径、海浜勾配、砂層厚についての関心が示された。

B75 生態ネットワークにつながる共生概念の系譜と階層的計画システム

 共生の概念を宗教・政策面から系譜を整理し、共生の実現手法の一つである生態ネットワークの展開方向を提案した研究である。そのもう一つの柱である「ふれあい」概念の整理にも強い期待が寄せられた。同時に、語源的な共生概念からの変容に論争があり、それらを終着させる新概念が求められた。

【提案型論文セッション】          原沢英夫(国立環境研究所)

A-33 「環境実験都市オーロヴィル(南インド)の成立及び発展の要因に関する研究」滋賀県立大学・加藤大昌・近藤竜二郎

 環境システム研究の従来の流れとは一線を画す、毛色の変わった研究である。南インドに構築された環境実験都市オーロヴィルを研究対象としており、そこでの環境社会システムの変遷をモデル化し、成立・発展要因を探っている。日本で「環境共生」都市、「持続可能な」都市を今後構築するうえでは、背景となる社会・経済・文化など多くの点が異なるが、「環境共生」がひとり歩きしているわりには、具体像が見えない現段階において、オーロヴィルで得られた知見が「環境共生」都市構築のヒントを与える研究になりえよう。今後のさらなる展開を期待したい。

A-34 「都市域における人工系水循環システムモデルの構築に関する研究」京都大学・清水康生ら

 都市域の集中豪雨による洪水災害などが多発するに及び、都市を地震、洪水、渇水、環境汚染の面から多面的にリスク評価し、こうした災害に強い都市づくりが求められているが、水循環ひとつをとってみても、河川、水道、下水道管理など多くの主体が個別対応してきた。本研究はこうした従来型の都市域の水循環システム管理では限界があり、都市内の水の流れを総体として扱う水循環システムのあり方をリスクという視点から提案している。実現にはまだ多くの克服すべき問題があろうが、今後総合的に都市域の水循環を検討するうえで有用な提案を行っている研究であろう。

A-35 「循環型の産業集積開発事業の計画と評価についての調査研究」大阪大学・藤田壮ほか

 社会実験地での循環複合体のシステム構築を進める研究グループの提案型論文である。産業エコロジーは理念追求から実践段階に入っており、日本を含めて各国の最新事例を整理し、そこから実践のための知見を得ることは大変意義深い。論文では、デンマークのKlundborog、米国のFairfield Ecological Park, 日本の北九州エコタウン事業を取り上げ、分析したうえで、環境効率の高い産業集積を実現するためのカスケードサイクル等の循環型産業集積の評価フレームを提示している。

A-36「資源循環型トイレットの可能性」長崎大学・石崎ら

 日本では下水道、浄化槽等で水洗トイレを使用している人口は約9000万人に及んでいる。近年汚水を排出せず、においの少ない資源循環型のトイレの開発が進んできた。自己完結型、乾燥・炭化・消却型、携帯トイレ、おが屑利用分解型などがあるが、とくにおが屑利用分解型が「廃棄物を資源としての利用」を考える次世代型トイレの実現可能性と課題についての提案がなされた。これに対して、従来の屎尿処理は衛生面からきているが、衛生面・安全面の問題、大半の人々が水洗トイレを利用していることから、水洗トイレが文化として根付いているが、その中でこうした循環型トイレを普及することの問題点等の質問がなされた。提案の循環型トイレの普及はまず、高山地や災害地など水が利用できない場所での利用を最初に行うことが現実的であるとの回答がなされた。

A-37「穀物菜食者におけるライフスタイルと環境意識とのつながりに関する研究−穀物菜食団体「蒼玄」を事例として−」ファミリーサービスエイコー・石井直子ら

 穀物菜食を実践する団体会員に対してアンケートを行い、実践する人々の意識から穀物菜食実践タイプの分類を行い、熱心タイプ、健康志向タイプ、手抜きタイプなどに分類し、各タイプ毎に環境に対する意識(地球環境問題、地域環境への負担意識と環境配慮行動など)との関連を解析し、環境配慮に至る要因、食−身体による意識の変化、食−身体からライフスタイルの変革について考察している。人々の環境に対する意識が、穀物菜食となって具現化している団体に着目し、意識と実践との間を探る研究として興味深い。従来環境に対する意識の高さに比べて、実践に必ずしも結びついていないことがわかっているが、食の面から意識と実践、さらにはライフスタイルの変革にどう取り組むかに結びつく研究であろう。

総合討論:提案型論文は、論文のもつ完成度が多少犠牲にしても、新たな発想や具体的な環境政策と結びつく研究が環境システム分野では重要であることから昨年度から募集している論文カテゴリである。今年度は10件の応募があり、最終的に5件の提案型論文が採択された。各論文それぞれの提案を行っているが、循環型社会の実現に向けたアイデア、アプローチ方法、産業や技術のあり方、そしてライフスタイルの変革を目指すための食に注目した研究であった。今回は他と同様に1つのセッションでの発表と討議を行った。今後とも今回報告、議論された循環型社会、ライフスタイルの変革など具体的提案、実現可能性など議論が展開される研究論文を期待したい。

【自然生態系A(1)】 関根雅彦(山口大学)

A38 都市近郊用水路網におけるメダカの生息環境要因に関する研究

上月(徳島大)らは、都市近郊の用水路網で、水量の季節変動や面的な広がりを考慮したメダカの生息環境調査を実施し、流速が緩やかで、通年淡水している場所、あるいは平均流速が大きく、かつ沈水植物が繁茂している場所が適しており、有機物汚濁はほとんど影響していないと指摘した。一般には、メダカが姿を消した理由の一つは農薬であると言われている。今後は、農薬などの微量有害物質との関係を明らかにしていただきたい。

A39 ダム設置河川における魚類相と環境特性−徳島県勝浦川における調査から−

佐藤(徳島県立博物館)らは、ダムが河川生態系に与える影響を明らかにするため、ダムによる減水区間を含む5地点で魚類調査、物理化学環境調査を実施した。その結果、トロは瀬や淵と比較して種多様度が低くなること、ダムの減水区間ではトロが多くなることを指摘した。本解析では、水温の情報がないなど、流程遷移と種多様性の関係の考察が不足しているように思われる。調査は継続しているとのことであり、今後に期待される。

A40  階段式魚道における落下流と表面流の発生特性とウグイの遊泳行動

 林田(土木研究所)らは、実験室内の魚道に落下流、表面流、斜め流などのさまざまな流況をつくりだし、ウグイの遡上行動を観察した。その結果、魚道隔壁頂部の形状によっては既存の魚道の設計式で予想されるものとはまったく異なる流況が生ずることを指摘し、表面流、斜め流、落下流のいずれにも魚の遡上を阻害する要因が含まれているものの、どちらかといえば落下流がウグイの遡上に適しているとした。魚の行動をつぶさに観察しての評価は興味深い。新たな設計式の提案を待つ。

A41 一の坂川ホタル護岸の有効性調査

 宮本(山口大)らは、ホタル護岸で有名な一の坂川で、実際にホタルの蛹化にホタル護岸が利用されているのかを現地調査した。その結果、蛹化場所としては護岸そのものより高水敷の利用が多いこと、冠水する部分では蛹化場所として利用されても羽化は少ないこと、ホタル護岸の多くの部分で土壌が流出し、蛹化に不適となっていることを見いだし、メンテナンスの必要性を指摘した。著者らは現在多用されている緑化ブロックを用いた簡易型ホタル護岸の調査を進めており、比較結果を待ちたい。

【自然生態系A(2)】 皆川朋子(建設省土木研究所)

A41 一の坂川ホタル護岸の有効性調査

 山口市の一の坂川におけるホタル護岸の有効性を検証することを目的に、ゲンジボタルの幼虫上陸調査、羽化調査、産卵場所調査、幼虫分布調査等の実態調査を行い、ホタル護岸が蛹化場所として有効であること示した。ホタルの幼虫が登ることができる護岸の高さ、ホタル護岸のメンテナンスについての質疑が行われた。今後、河川管理においては、順応的管理が求められていることから、整備の事後評価は重要な課題となろう。

A42 雫石川におけるハビタットの変化と冠水頻度の関連について

 数十年で裸地の減少、樹林化が生じている雫石川を対象に、空中写真から約50年間の地被状況と河道形状の変化の把握、過去の日流量データに基づく水位計算結果から、木本地及び裸地と冠水頻度との関係を検討した結果、1〜5日/年程度の冠水頻度を境界とし、河道内の裸地及び木本地が占める割合が変化することを示した。水際勾配によって冠水頻度が異なるところでは樹種が異なるかどうか、主な優占種は何か、等の質疑が行われた。また、冠水頻度は植生を規定する重要な要因であり、具体的な冠水頻度が明らかになった点が評価できるとのコメントがあった。

A43 吉野川河道内の砂州上におけるアキグミ群落の分布状況と立地特性

吉野川を対象にアキグミの定着立地環境を解明すること目的に、群落の空間分布、生育立地の比高、河床材料、定着年代の推定を行った結果、分布の70%以上が低水面からの比高が2〜4mの範囲に制限されていること、実生の生存には大型の礫による保護効果が推測されること、限られた年代(前年の秋の大きな出水があった年)に定着していることを示した。アキグミの発芽特性に関する質問については、アキグミは根粒菌を利用して窒素固定するため、河原のような比較的貧栄養な場所でも成長できるという回答があった。また、アキグミを対象とした理由については、近年生じている土砂動態の変化の指標とするための第一段階として、アキグミの生態学的特性、立地環境の解明を行ったとの回答があった。

A44 雑木林の植生管理と林床植物の生活史戦略の関係

二次林の雑木林や草原などの植生管理手法を明らかにするため、北海道大学苫小牧演習林の落葉広葉樹林内を対象に、林床の光環境を操作することによって、林床植物の生活史戦略タイプごとの光環境に対する反応傾向を示した。対象地域の選定理由や、植生管理においては光環境のみでなく、下草刈り、落ち葉掻き等の要因の検討も必要なのではないか等の質疑が行われた。

A45 都市域における自然的空間の整備計画に関する研究

 利用者心理を反映した空間の配置を目的に、大阪府北摂地域の1ha以上の空間を対象としたアンケート調査を行い、ボロノイ分割により空間を階層的に捉え、空白円を用い整備すべき場所、共分散分析を用いて整備すべき内容を明らかにしようとしたものである。自然的空間の整備における生物多様性の観点を加える必要があるのではないか、また、ボロノイ分析は本来、商店街の配置計画に用いられるべき手法ではないのか、等の質疑が行われた。

【環境解析・環境システム(1)】 酒井伸一(京都大学)

環境解析・環境システムセッションの前半では、環境問題へのゲーム論的アプローチ、リサイクル情報システム構築への考え方、地域構造のモデル化に関する研究の3件が報告された。

井出ら(滋賀県立大)は、琵琶湖石けん運動をゲーム理論的視点から取り上げ、大

学生を被験者としたゲーム実験により、「共有地の悲劇」ゲームと仮定できるかどうかを検討した結果を報告した。他者選択と自己選択の関係式がS字カーブを描く「バンドワゴン」効果は認められなかったこと、石けん運動の前後で利得差が異なることを確認している。

今堀ら(科学技術振興財団・大阪大)はマテリアルリサイクルの抱える問題について事業者アンケートした結果を報告し、インターネット上のリサイクル情報マッチングシステムを提案した。ネット上のリスクやマッチングの一過性などについての課題もあわせて報告されたが、実用化が期待される研究である。

神崎ら(京都大防災研)はアメニティと地域構造の関連をシステム論的に検討した結果を報告した。アメニティとして「利便性」と「快適性」により定義し、とくに高齢世帯の選択をモデルに反映させることを意図したモデル化を志向している。Weight係数の設定方法や時間積分範囲を10年としたことの理由などに関し質疑があった。

【環境解析・環境システム(2)】 守田 優(芝浦工業大学工学部)

A49 日韓中3国の都市の規模と環境関連指標に関する比較分析

 金子、今井らは、日本、韓国、中国の東アジア3か国の都市環境を比較考察するための環境関連指標について分析を行っている。まず、都市の定義、都市の規模等について3国間の比較を行い、その違いを明確にしたうえで、都市活動の指標・生活環境指標と都市規模との関係を分析している。都市環境という観点からの比較都市論は重要な研究領域であるが、外国の都市の環境指標のデータ収集は実際にやってみると想像以上に困難であり、また本研究で明らかにされているように、都市の定義や諸元も国によって異なっている。フロアからは、人口密度と環境指標の関連など比較考察の方法について注文もあったが、まずは、都市環境の比較都市論研究への「地ならし」として有益な研究であると言えよう。

A50 温室効果ガス排出に伴う気温・海水位上昇の簡易推計モデルについて

 松岡らによる本研究は、すでに提案した温室効果ガスによる気温・海水面上昇予測のための簡易モデルのアップデイトである。この簡易モデルは、GCM(大気大循環モデル)と比較して、モデルの明快性、運用の容易さ、マクロな統合評価への適用性などの特徴があり、気候変動に関する対策評価作業の支援ツールとしての有用性も高い。本研究では、最近の知見にもとづき、モデルのパラメーターの修正、温室効果ガスのより詳細な取り扱い、放射強制力サブモデルの改良などを行い、さらに、IPCC開発のSRES排出シナリオを用いて、2050年、2100年時点での気温上昇、海水面上昇の計算結果も示している。フロアからは、GCMと簡易モデルの関係について、パラメータなどに関して質問があった。

A51 気候安定化と21世紀中の温室効果ガス排出量の関わりについて

 A50においてすでに提案した簡易モデルを用いて、温室効果ガス排出と気候安定化の問題を検討したのが、松岡らによる本研究である。従来の温暖化予測は21世紀を主な検討対象としているが、本研究ではさらに23世紀までを視野に入れ、気候安定化という観点から温室効果ガスの排出シナリオを検討している。安定化目標を、濃度と気温について設定しており、両者の関係についてフロアから質疑があった。気候安定化という研究対象、そして予測計算の結果は興味深いものであった。ただ、数百年という時間スケールでの予測になるので、大気と地表面の相互作用による地表環境の変化も考慮する必要があるのではないかと思われた。

編集後記:

いよいよ,21世紀が始まりました。新世紀を語るフレーズとして,「力の世紀」から,「知の世紀」へという言葉を聞きましたが,なかなかだと思っています。「省庁再編」や国立大学,国立研究機関の「独立行政法人化」など,環境研究を取り巻く「環境」も変化が予想されますが,「知の世紀」を迎えるに当って,「環境」に関わる技術者,研究者に対する期待も非常に大きいものを感じています。「環境システム研究」をますます充実したものにして行くために,今後もご意見,ご指摘等をご遠慮なく委員会までお寄せ下さい。

  (Vol.13,No.3 編集担当幹事 広島工業大学 今岡 務)