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*       土木学会 環境システム委員会ニュースレター        *
*      Vol.13、No.2  2000.9.15発行      *
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−−−  目  次  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

1.地域シンポジウム 『環境まちづくり交流会 in 京都』報告 
          立命館大学 笹谷 康之 ・ 京のアジェンダ21フォーラム
2.土木学会環境システムシンポジウム2000 
  「自然を利用した都市づくり」開かれる         広島大学 福島武彦
3.環境システム委員会からのお知らせ           幹事長 原沢 英夫
4.[連載]研究室・研究所めぐり【第2回】
   中国フィールド調査の裏側          国立環境研究所 一ノ瀬俊明

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1.地域シンポジウム 『環境まちづくり交流会 in 京都』報告 
          立命館大学 笹谷 康之 ・ 京のアジェンダ21フォーラム

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6月8日〜11日、環境月間の行事として開催された「環境まちづくり交流会in京都」。
参加者は延べ900人以上、すでに環境まちづくりに取り組んでいる地域の方をお招き
し、参加者の皆さんとともに今後の活動のヒントとなる情報を共有することができま
した。

分科会
地域内の連携でライフスタイルの変革を(分科会1)
 ライフスタイルワーキンググループが担当した分科会のテーマは、「環境を考えた
地域づくり〜賢い暮らし、上手な商い〜」。商店街の活性化と環境保護に取り組んで
いる大映通商店街の森春生氏、地域での環境学習や実践に取り組んでいる2つの地域
女性会(三好悦子氏、西川冨久子氏)から報告がありました。その後、商店街のあり
かた、環境を配慮した買い物などについて現状と課題について活発な議論や提言があ
りました。現実には、ライフスタイルを変え、環境を守ることは困難であるが、「商
店街は特色をもつことで活性化をはかることができる。地域の多様な団体や組織と連
携し、環境保護に取り組んでいく」などの前向きな意見も出され、今後の活動につな
がる分科会になりました。
               (ライフスタイルワーキンググループ 田浦健朗)

●「京都環境マネジメントシステムスタンダード」初の説明会(分科会2)
企業活動ワーキンググループにおいて検討されてきた「京都・環境マネジメントシス
テム・スタンダード(KES)」の初めての説明会であるにも関わらず参加者は70名を
超え、具体的なご意見・ご質問もいただきました。なかでも、「中小企業に金銭的・
時間的負担をかけずに環境問題に取り組んでもらうためにKESは非常によいシステム
だと思います。京都のみでなく、ぜひ多くの自治体へ展開する活動につなげてくださ
い」とのご意見には、これからの展開に大きな励みと重大な責任を痛感しました。
KES成功のために、多くの方々のご協力をよろしくお願いいたします。
                  (企業活動ワーキンググループ 津村昭夫)

●自治体の環境マネジメントの動向を見る(分科会3)
 ワーキンググループの担当ではなく、特別に開かれたのが『自治体の環境マネジメ
ント』のあり方をテーマとした分科会。ここでは、3人の講演者から全国の動向と、
豊中市と上越市の事例が発表され、活発に意見が交わされました。
 各講演者の共通意見は『環境マネジメントに必要なのは、まず行政と住民のパート
ナーシップを構築すること』で、そのためには、行政は市民が参加できる環境を整え
、必要な情報を公開・提供し、説明責任を果たすことが必要だというものでした。豊
中市と上越市の事例の違いから、立地条件や、従来からの地縁団体と新しいテーマ別
のNPOといった2種類の市民団体の熟度に応じて、その地域にふさわしいマネジメント
の手法を用いることの大切さを実感しました。
                          (立命館大学 宮地泰彦)

●      社会実験の効果はいかに(分科会4)
 藤井聡さん(京都大学大学院工学研究科助教授)に、都心における自動車交通につ
いてご報告をいただきました。(詳しい内容は巻頭特集をご覧ください)
交通ワーキンググループでは、周辺地域との交通連携を考慮しつつ、都心における持
続可能な交通の将来像(ビジョン)をまとめる話し合いを進めています。めざすプラ
ンの基本コンセプトは、歩行者の最優先、都心への自動車流入と通行の抑制、中心街
路へのトランジットモールやモールの導入、LRT導入を含む公共交通、自転車利用の
大胆な促進策などを包括しています。幅広い市民・商業者・住民など地域の利害関係
者・関係行政部局と徹底した議論を行うたたき台として、このプランを活用したいと
考えています。
            (交通ワーキンググループ コーディネーター 能村聡)

●      京都での実践活動に向けて(分科会5)
 愛林館館長の沢畑氏より、山林の植樹・下草刈り等の農作業を中心とした様々な体
験教室を通じて、自然の中で地域の人々と都市の人々との交流が深まる水俣市の里山
での取組が紹介されました。スライドで見た地元の人たちの手で積み上げられた石積
みの美しい棚田が印象的でした。
町家倶楽部ネットワークの小針氏からは、町家に住むに至った実体験と、ものづくり
を糧とする市外の人々が自分で家を改装できる魅力から西陣に住みつくといったよう
に、個々の活動が結果としてまちづくりにつながった西陣における町家の活動事例が
報告されました。
いずれもエコミュージアムという言葉は使わずして、その風土に根ざした普段の人々
の生活を外から来た人々が再評価することで、地域を映し出す鏡としてのエコミュー
ジアムの活動を成立させた事例でした。
エコミュージアムワーキンググループでは、2000年度は全国のエコミュージアム活動
グループと連携を取りながら、毎月研究例会を行い、学習体験活動によりメンバーの
共有を深めていきます。2001年度には京都でも実践活動を行いたいと考えています。
ご参加お待ちしています。
              (エコミュージアムワーキンググループ 笹谷康之)

基調講演&シンポジウム
●      「風の道」を生かした都市計画
基調講演では土木学会環境システム委員会の一ノ瀬氏より、ドイツ南西部に位置する
シュツットガルトの再開発計画の事例紹介とともに、環境に配慮した開発と経済効果
の両立をキーワードとしたドイツの環境アセスメント制度や、都市開発のガイドライ
ンについてお話がありました。特に、計画区域の気候の改変の抑制を目的とした都市
計画へのアドバイスの手法のひとつとして紹介されたのが、市街地が谷に位置するシ
ュツットガルトでの「風の道」を利用した都市計画です。夜間に周囲の丘陵地帯で起
こる自然の風(冷気流)の流れを市街地へ導入することで、ヒートアイランドと化し
た都市を冷やすという方法は、山に囲まれている京都市でも生かせる事例では、とい
う提案も込められた講演でした。

●今後につなげる
最後に行事のまとめとして各分科会の内容を全員で共有したシンポジウムでは、参加
者から質問をいただいた他、「パートナーシップで進められる交流会が、発表の場に
なっていたように感じた」「企業・消費者の区別なく、学習と実践なくして環境問題
解決はあり得ない」「市民・企業・行政の情報の共有により信頼関係を築くのが大切
」といったご意見もいただきました。皆様の意見をうけとめ、参加者の方々が共有し
た情報をそれぞれの地域で生かし、次回その結果を持ち寄って一歩進んだ交流ができ
るよう、今後も「環境まちづくり交流会」を開いていきたいと考えています。
                      (事務局アシスタント 佐藤桂子)


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2.土木学会環境システムシンポジウム2000 
   「自然を利用した都市づくり」開かれる
                             広島大学 福島武彦

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土木学会環境システム委員会・環境工学委員会共催による環境システムシンポジウム
が,6月30日(金)午後に土木学会図書館講堂で開催された.大変に暑い日にもかか
わらず,約50名が出席して,興味深い講演,活発な討議が行われた.
まず,原沢幹事長から,本シンポジウムのテーマ「自然を利用した要素技術を用いた
都市づくり」に関する説明が行われた後,以下のような講演とその討議が行われた.
 
バイオテクノロジーの視点から            大崎 満(北海道大学)
建築材料の視点から                浅枝 隆(埼玉大学)
その討議                            萩原 運弘(清水建設)
生態工学の視点から                中村圭吾(土木研究所)
その討議                            西村 修(東北大学)
都市水循環の視点から                尾崎正明(都市基盤整備公団)
その討議                            小尻利治(京都大学)
エネルギーの視点から                   濱田靖弘(北海道大学)
その討議                        守田 優(芝浦工大)
環境システムの視点から               一ノ瀬俊明(国立環境研)

講演者の話の概要としては,大崎先生は「大気,河川といった開放系で植物・微生物
による環境浄化は難しく,半閉鎖系の土壌の活用が考えられる」.浅枝先生は「吸水
性の瓦により,夏涼しく,冬暖かい住宅が作り出すことが出来る」.中村先生は「生
態工学を活かした例として,多自然型川づくり,湿地浄化,湖岸植生帯の復元などが
ある」.尾崎先生は「地下浸透工法,砕石空隙貯留法といった技術は,水循環再生シ
ステムモデルの基礎となる要素技術として活用されている」.濱田先生は「エネルギ
ー自律型住宅の概念と実験住宅での実験結果を紹介し,自然エネルギーによる自律型
住宅と蓄熱が有効である」.一ノ瀬先生は「ドイツの環境共生都市シュツットガルト
,フライブルクでは自然を活用した街づくりが既に始まっている」.
その後,九州大学の楠田先生をコーディネータとしたパネルディスカッションが行わ
れ,それぞれの講演の要素技術をエネルギー,資源,水資源,住環境,生態系,景観
,教育などの視点で整理した.また,自然エネルギーの利用とは,「多目的であり,
人工システムとの調和が必要なこと」,「自然エネルギーは希薄であり,時間変動を
有するなどの欠点があるが,逆にそうした特性を活かした活用技術が必要なこと」,
等が議論された.
なお,本シンポジウムの終了後、土木学会として大型研究予算の提案に向けての取り
組みを具体化するためのオープンフォーラムが開催され,環境システム委員会,環境
工学委員会の他に,水理委員会,海岸工学委員会,地球環境委員会,地盤工学委員会
からの代表者も加わり,今後の研究の方向が議論された.

□□  委員会だより  □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

3.環境システム委員会からのお知らせ        幹事長 原沢 英夫

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 環境システム委員会は、第28回環境システム研究論文発表会を下記の要領で開催
いたします。今年は名古屋大学で開催いたしますが、2日目の特別シンポジウム及び
懇親会は、環境共生学会との共催です。分野を越えての議論ができるものと期待して
おります。是非ご参加いただくようお願いいたします。また、環境システム研究論文
集等を事前購入希望される方は、お早めにお申し込みください。

1.主 催:(社)土木学会(担当 環境システム委員会)

2.期 日:2000年10月26日(木)〜27日(金)

3.会 場:名古屋大学工学部新一号館(予定、名古屋市千種区不老町)
     交通アクセス:JR名古屋駅より地下鉄東山線「本山」下車、徒歩15分
(案内地図は土木学会誌(9月号)、環境システム委員会ホームページ(9月以降)
 に掲載されます。

4.参加費:無料(参加登録は発表会当日、受け付けにて申し受けます)。
「環境システム研究論文集」「第28回環境システム研究論文発表会講演集」−発表
論文を収録した論文集・講演集です。実費(予価7,000円)で頒布致します(10月上
旬刊行予定)。事前に購入を希望する場合は、送り先、お名前を書いて下記にFAXあ
るいはe-mailにてお申し込みください(10月5日まで、請求書を同封いたしますので
、銀行振込をお願いします。送料別)。土木学会環境システム委員会(担当:丸畑)
FAX:03-5379-0125, E-mail: maruhata@jsce.or.jp

5.特別セッション:「都市環境共生の可能性―技術と制度―」
日時:10月27日(金)16:00〜18:00
会場:名古屋大学豊田講堂
内容:エネルギー技術、法制度、都市環境地理および構造物設計の立場から先駆的研
究を進めている研究者・専門家から最新の話題を提供していただき、都市の環境共生
について技術と制度に焦点をあて、多角的視点から現段階での可能性と将来展望につ
いての意見を戦わせていただく。いずれも論客で、聴衆を巻き込んだ議論が多いに期
待される。環境共生学会との共催です。
 話題提供者は、佐野 充(名古屋大学、エネルギー技術)、浅野直人(福岡大学、
環境法)、一ノ瀬俊明(国立環境研究所、都市環境地理)、杉山郁夫(日建設計、構
造物設計)の予定です。(コーディネーター・司会は 林 良嗣、名古屋大学)

6.研究発表プログラム: (各セッションの後ろは司会者名)

■■ 10月26日・木曜日
◎第1会場  [工学部新一号館N131]
 9:30〜[マテリアル・インフラA] 藤田壮(大阪大学)・今岡務(広島工業大学)
14:00〜[企画セッション1]       ニ渡了(産業医科大学)・森杉壽芳(東北大学)
16:30〜[大気環境・エネルギーA]                 一ノ瀬俊明(国立環境研究所)

◎第2会場  [工学部新一号館N132]
 9:00〜[水環境A]                   福島武彦(広島大学)
10:35〜[水環境B]                   後藤光亀(東北大学)
14:00〜[マテリアル・インフラB]             花木啓祐(東京大学)
          ・松本享(九州大学)・鶴巻峰夫(八千代エンジニアリング)

◎第3会場  [工学部新一号館N133]
 9:15〜[環境評価B・市民参加]            加藤博和(名古屋大学)
                       ・松村寛一郎(三和総合研究所)
14:00〜[環境評価A・環境政策]             内海秀樹(京都大学)
               ・片谷教孝(山梨大学)・東海明宏(北海道大学)

◎ポスター会場 [工学部新1号館ロビー]
13:00〜14:00  ポスターセッション

■■ 10月27日・金曜日
◎第1会場
 9:45〜[企画セッション2]     長野章(水産庁)・笹谷康之(立命館大学)
13:00〜[提案型論文]     松岡譲(京都大学)・原沢英夫(国立環境研究所)

◎第2会場
 9:00〜[大気環境・エネルギーB]        倉田学児(豊橋技術科学大学)
10:25〜[自然生態系B]               鈴木武(港湾技術研究所)
13:00〜[自然生態系A]      皆川朋子(土木研究所)・関根雅彦(山口大学)

◎第3会場
 9:45〜[環境解析・環境モデル]  酒井伸一(京都大学)・守田優(芝浦工業大学)
13:00〜[環境経済]        井村秀文(九州大学)・奥田隆明(名古屋大学)

◎豊田講堂
16:00〜[特別セッション](詳細は上段参照)        林良嗣(名古屋大学)

研究論文発表会プログラムの詳細につきましては、環境システム委員会ホームページ
及び環境システム委員会ニューズレター(9月発行予定)、土木学会FAXサービス(FAX
 BOX)をご覧ください。

○環境システム委員会のホームページ
        :http://www.ritsumei.ac.jp/se/rv/sasatani/rs/env/top-m.html
(或いは,土木学会のホームページhttp://www.jsce.or.jp/の「委員会活動」からジャ
  ンプできます)
○土木学会FAX BOX [FAX BOX] No.234535

7. 懇親会の開催:下記により懇親会(環境共生学会と共催)を開催いたしますので、
参加ご希望の方は当日受付にてお申し込みください。
(1)日時:10月27日(金)18:00〜20:00  
(2)場所:ユニバーサルクラブ、名古屋大学シンポジオン内
(3)参加費:3,000円(予定、当日受付)

問い合わせ先:土木学会環境システム委員会 
〒160-0004 東京都新宿区四谷一丁目無番地
TEL:03-3355-3559  FAX:03-5379-0125 E-mail: maruhata@civil.or.jp


□□ 連載 □□ 研究室・研究所だより【第2回】□□□□□□□□□□□□□□

4.中国フィールド調査の裏側
                         国立環境研究所 一ノ瀬俊明

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  小生がはじめて中国へ足を踏み入れたのは1992年3月のことである。以来8回の渡航
を通じ、のべ約3ヶ月間現地で過ごしていることになる。小生の中国訪問の歴史はま
さにトラブルの歴史であったといってよい。はっきり覚えているものだけでも今まで
に8回、(ということは1度の渡航について必ず1回)ささいな(?)トラブルに遭
遇している。現在ではもう、「次回は一体何が起こるのだろう」と楽しみにすらなり
つつある。
 環境システム研究の分野においても多くの研究者が中国と関わりを持っており、現
地調査・国際学会出席等で渡航する機会があるものと思われる。小生のこれらの体験
は今後渡航される人々にとって参考になることが多いと思われるので、小生のホーム
ページ(http://www-cger.nies.go.jp/~ichinose/ichinose/china.html)に紹介して
いる。中国だけに限らず、海外調査をする上で共通の留意事項も含まれているものと
考えている。今回はその中から、中国フィールド調査における最大の危機について紹
介する。
 1997年9月12日、夜9時半に北京空港に降り立った小生は、海関(税関)脇にある某
旅遊公司(旅行代理店)の窓口へ向かった。中国国内線の机票(エアチケット)の発
券が出発までに間に合わなかったため、日本国内の代理店を通じてその日本支社から
バウチャー(引替券)を受け取っていたのである。営業時間はとっくに終わっていた
が、バウチャーには到着便に合わせて夜遅くまで服務員がいると書かれていたので、
とりあえず行ってみたものの、窓口の灯りが消えており誰もいなかった。中国だから
こんなこともあろうかと、その日はそのままタクシーに乗り、空港の近くのホテルに
向かった。翌日は正午の便で、雲南省の省都である昆明へ向かうことになっていた。
 多少のトラブルを予想して、出発の3時間ほど前に空港に着いた小生は、とりあえ
ず雲南航空公司の窓口に行き、事情を説明した。窓口の小姐もバウチャーを見るのは
初めてらしく、どうしていいか迷っていたが、彼女に税関のゲートから中に入っても
らい、例の旅遊公司の窓口に行ってもらうことにした。航空公司の職員といえども税
関のゲートから中に入るのは難しいらしく、警備員を説得するのに時間を要した。や
っとの思いで中に入ったものの、十数分後彼女は目を真っ赤に泣きはらして戻ってく
るではないか。今日もまた窓口に服務員がおらず、北京市内のオフィスに電話してみ
たが誰も出ないという。可能な限りいろんな所にコンタクトしてくれてはみたものの
、彼女にはこれ以上どうすることもできない。
 「あなたが机票を買うしかありません。」ということだが、空港ではキャッシュカ
ードは使えないとのこと。バウチャーは帰国後に清算すればよいが、今ここでキャッ
シュを払ってしまうと小生の財布は残り2万円を割ってしまう。帰国時の昆明〜上海
についてもバウチャーのままだし、これはもう昆明では机票に換えることができない
。昆明〜上海の分を現地で購入するにせよ、残り2万円ではもう不可能である。しか
し、昆明行のミッションをこんな理由であきらめるのは馬鹿げている。結局小生の財
布の中身は非常に心細いものとなってしまった。
 昆明行の飛行機の中では実にいろんなことを考えた。上海までヒッチハイクで帰ろ
うか。いや、それでは成田行きの飛行機には間に合いそうにない。第一今夜からの飯
代と宿代はどうするのだ。日本大使館の出先にでも泣きついてみようか。まてよ、昆
明にそんなところあるのだろうか。まずはホテルにチェックインしてからゆっくり考
えよう。ホテルの中国語名は何だろう。タクシーのドライバーに英語名を告げたとこ
ろで「不知道(知らない)」といわれるのが関の山である。空中小姐(スチュワーデ
ス)に聞いてみたが、知らないという。空港で聞くしかない。
 結局、昆明の空港には今回のカウンターパートである中国科学院西双版納(シーサ
ンパンナ)熱帯植物園(旧称・昆明生態研究所)副教授の張一平先生と、小生の共同
研究者である広島大学のF先生が、はからずも迎えにきて下さっていたおかげで、ホ
テルの中国語名の問題は消滅した。Education Hotel =教育賓館だなんて、何も悩む
ことはなかったのだ。また、日本円にして4万円強(国内線のチケット代に相当)を
F先生にお借りすることとなった。
 さて、予定通り9月16日に上海経由で日本に戻った小生は、翌日試しに研究室から
北京市内の旅遊公司にかけてみた。なんと、女性が出るではないか。先方は「対不起
(ごめんなさい)」の一点張り。仲介した日本の代理店に聞いてみたが、こんなケー
スは初めてという。北京空港は場内アナウンスなどを除けば中国語オンリーの世界で
ある。小生が仮に中国ビギナーであったならば、初日夜に窓口に服務員がいなかった
時点でアウトである。果たして生きて日本へ戻れただろうか(ちょっと大げさか)?
 もし仮に中国以外の英語のほとんど通じない国で同じような目にあったとしたら、
今度こそ本当にアウトである。


■ 編集担当から
 この連載は、環境システムに関わる研究を行っている研究室または研究所を対象に
、最近の話題や、論文には出てこないような裏話など、他の方々の参考になる話題、
あるいは息抜きになる話題を紹介することを目的としています。内容や編集方針につ
いて皆さんのご意見をお待ちしております。

**  編集後記  ******************************
 皆さん夏休みだからと、遠慮気味に執筆依頼をしたりしていると、あっという間に
秋の気配になってしまいました。編集者は強引でなければならないとつくづく反省い
たしました。(倉)
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