環境システム委員会の沿革について。

環境システム委員会の沿革

土木学会環境システム委員会

 土木学会において環境問題をとりあげたのは、かなり以前のことです。1972年に第1回の環境問題シンポジウムが開催されています。日本での環境問題の扱い方は、当初は製造業などの産業活動がもたらす公害や環境破壊にまず視点があてられる傾向がありましたが、土木学会では都市や国土の基盤を適切に形成することにより環境を保全、回復、創造してゆく長期的な構想を重視してきました。

 環境を資源としてとらえ、より高い水準の環境資源サービスを公正かつ公平に提供するという考え方が広く認められるにしたがって、環境汚染にとどまらず、物質循環の健全さ、資源循環のエコ効率、水循環の形成、生物生態の保全、歴史的文化的環境の保全など対象を幅広くとらえて基盤的な環境として論じる基礎ができました。

 環境問題小委員会から変更して環境システム委員会という名称を確立したのは、人間と環境との間に人工的な装置や社会的仕組みを介在させることによって、人間にとって快適であり、なおかつ環境それ自身の持続性が確保されるような構図を描くには、システム論が欠かせないと考えたからです。システム論の特徴は要素と全体との関係を把握することであり、不確実で複雑な対象に対して分析、評価、計画、施工などの行為をシステム論に依拠して展開してゆくことができます。

 環境システム委員会の活動は、1992年のリオ・サミットあたりから、さらに発展をめざすことになりました。すなわち、地球環境問題への取り組みを強め、地球的規模の関係性を技術的もしくは自然科学的アプローチのみならず、人文社会科学的アプローチを重ねることにより、環境システム研究の得意とする総合的な論理構成の領域を発展させてきました。

 土木建設技術の一層の人間化によって人に優しい生活環境をつくること、自然の生物生態に適応した技術に工夫することによって循環型で持続的発展が可能な社会を構築すること、そして市民の願いを実現してゆくプロセスを計画科学として磨きをかけ、参加型の手法と仕組みを極めることは、本委員会の全面的協力で編集されたエコシビル・エンジニアリング読本にも描かれています。

 環境システムの対象として、大気圏、水圏、地圏などの自然圏域を扱う場合でも、水供給処理システム、熱供給システム、交通システムなどの社会基盤システムを扱う場合でも、あるいは経済政策システム、環境マネジメント、環境学習などの社会システムを扱う場合にも、環境の有限性、人間の創造性、文化の多様性などいくつかのキーワードが抽出されつつありますが、これらは皆さんの研究交流を活発かつ有効なものとするための手がかりと考えた方が良いでしょう。

 環境システムの領域や研究方法論を確立したいと考えるアプローチとフロンティアを求め領域や方法論は常に斬新的なものでありたいと願うアプローチは、一見すると相反するように見えます。しかし、大切なことは収れんと発散の意図的な繰り返しをおこなうことができるかどうかです。この点で1998年4月に発刊した「環境システム−その理念と基礎手法」は、まさにこの時期のひとつの収れんであり、多くの関係者がこれを踏み台としてさらに環境システム研究を発展してほしいと願っています。

 環境システム委員会には、本委員会に加えていくつかの研究小委員会を設置しています。一定の手続きを踏んで、研究小委員会を新たに設置して調査研究、研究交流をおこなうことができます。委員会委員は任期2年で、企画・立案・運営の作業をおこなう幹事会も開催されています。また、主要な行事として、環境システム研究発表会、環境システム地方シンポジウム、環境システム・シンポジウムがあります。それぞれの内容については、ホームページの別の紹介をご覧下さい。

 環境システム研究と環境システム委員会の発展は皆様の積極的な参加と貢献に依ります。是非、御参加下さい。心よりお待ちしています。

「土木学会環境システム委員会 前委員長 盛岡通(大阪大学大学院工学研究科)の挨拶から」