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土木構造物の耐震基準等に関する「第二次提言」

平成8年1月10日

土木学会 阪神・淡路大震災対応技術特別委員会

本文

はじめに

わが国は、常に自然災害の危険性にさらされている。一方で、自然に対するわれわれの知識は限られている。われわれは自然に対して謙虚であるとともに、防災機能、環境の保持、経済性のバランスのもとに、国土、地域、および都市づくりを考えることの重要性を再度認識する必要がある。
阪神・淡路大震災の甚大な被害は、高度な社会基盤施設と稠密な人口分布をもつ大都市の直下に発生した大地震に対し、主として、1) 構造物の耐震性の不足、2) 市街地構造および都市機能システムの不備、3) 被災後の危機管理の不備、の3種類の問題に起因しており、これらの問題は互いに強く関連している。本来、ある規準の下で建設された構造物が絶対に破壊しないと断定することはできない。また構造物の直接的被害はなくても、火災などによる間接的被害も発生しうる。したがって、構造物の耐震性能の強化とあわせて、より広い観点から総合的な地震防災性の向上が図られるべきである。
そのためには、耐震設計基準のもとで構造物を建設する技術のみでは十分ではなく、設計における地震力を上回る超過地震力への対応も必要となる。限られた財源、構造物や土地利用の改変に伴う困難等、様々な制約条件の中で、未知の超過地震力に対応することになる。この対応は、指針となるべき絶対的な論理的決定根拠が存在しないがゆえに、国民の価値観に依存する意思決定に基づくこととなる。
阪神・淡路大震災は、過去の震災の記憶の風化と、そのことの危険性を改めて示した。さらに人口の都市への集中、社会施設の高度化が進む現在、以前にも増して地震が与える重大な被害と影響を強く考慮しなければならないことを示した。社会の現状と将来に向けて、防災に関わる国民の価値観ないし意識は、教育や啓蒙、訓練等によって絶えず磨き高められていなければならない。
このような地震災害を繰り返さないために最も重要なことは、徹底した震災原因の解明が行われることである。そのために、地震動の観測記録や構造物被害の調査結果に関する情報に基づいた関係分野の技術者および研究者による横断的かつ広範囲な検討が必要であり、早急に促進されなければならない。
土木学会では、平成7年5月に第一次提言を発表して以来、提言内容の深度化を目的として4つの分科会を組織して検討作業を続けてきた。第一次提言は、わが国の地震防災力を高める各方面の努力のなかで、真剣に受け止められ有効に活用されている。これを踏まえて二次提言では、より広い観点からの地震防災性向上の基本方針を新たに加えるとともに、第一次提言で示した土木構造物耐震性能の強化のための諸方策をより詳細に示している。第二次提言は、土木学会が学術的見地より望ましいと考える事項をとりまとめたものであり、今後の研究開発を待たなければならない事項が含まれている。今後、関係各機関が地震防災対策を立案する上で本提言が有効に活用されることを期待する。

1. 耐震性能照査で考慮すべき地震および地震動

1.1 震源断層近傍域での地震動を考慮することの必要性

兵庫県南部地震によって、多くの土木構造物が大きな被害を受けた。兵庫県南部地震は大都市近傍の内陸活断層の活動により引き起こされたが、マグニチュード7級の地震による震源断層近傍の地震動の問題は、従来の耐震基準等では取り入れられていなかった。兵庫県南部地震により、最大加速度約 8m/s2、最大速度約 1 ・/s, 最大変位 30 〜 50 ・ の強い地震動が震源断層近傍の広い範囲で観測されたことはわが国初の経験であり、弾塑性設計が導入される以前の地上構造物や、比較的安全とされてきた地中構造物に対して、想定外の地震外力として作用したことが被害を大きくしたものと考えられる。一方、最新の耐震技術により建設された構造物が大被害を免れ、震源断層近傍域の強い地震動への工学的な対処が可能であることも多くの事例によって示された。
個々の活断層について見れば、その活動の再現期間は千年のオーダーに及ぶとされ、それが大都市圏を直撃することによる被害は典型的な低頻度巨大災害である。これを人間活動の時間スケールで表現すると、 50 年間の発生確率が 5 %程度であることと等価であり、このような低い発生確率の災害のもとで、土木構造物にいかなる耐震性能を保持させるかという観点から戦略的な判断がなされるべきである。さらに、強震観測による定量的な資料が得られる以前の時代を含めれば、過去においてマグニチュード 7 以上の内陸型地震により大きな被害を被った例が少なくないことは一次提言でも述べたところであり、全国のどこかでという観点に立てば、このタイプの地震も看過できない発生確率を持つと考えられる。このことから、兵庫県南部地震の経験を今後に生かすためには、現行の耐震設計の枠組みに加えて、内陸の断層破壊に起因する断層近傍の地震動の影響を、耐震設計に取り入れることが必要である。

1.2 設計地震動の体系への影響

第一次提言では、土木構造物の耐震性能の照査で考慮する地震動として、構造物の供用期間内に1〜2度発生する確率を有する地震動、および陸地近傍で発生する大規模なプレート境界地震や直下型地震による地震動のように供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動、の二段階を考えることが示されている。この考え方は、現行の耐震設計の一部ではすでに取り入れられており、それぞれ、レベル1地震動、レベル2地震動として位置づけられている。これらの地震動の耐震設計における目的と性格は以下の通りである。

レベル1地震動は、弾性設計手法と組み合わせて用いられており、静的荷重または弾性動的解析用の地震動として設定されている。土木構造物は多種・多様であり、構造種別ごとに、その特性を反映した設計法の体系とノウハウが、多くの経験の蓄積の上に発達してきており、これを尊重するのが適当である。
一方、レベル2地震動を現行の設計体系において考慮する場合には、標準的地盤における弾性応答で1g の設計地震動を考慮するなどの形で扱われているが、兵庫県南部地震で経験された強い地震動から、震源断層近傍域で発生する強震動を対象としたレベル2地震動の再評価が要請されている。以上の理由により、本章ではレベル2地震動の問題に限定して提言する。
さらに、内陸直下地震に特有の問題として、地震断層のずれによる相対変位が地表面にまで達し、構造物が断層を横断する場合がある。断層の正確な位置の特定が困難な場合があること、また線状構造物では断層を避けて通れない場合があることなど、現代の科学技術ではその対処が困難な場合が多く、今後の研究・開発を待たなければならない。

1.3 レベル2地震動の考え方

レベル2地震動は以下の考え方に従って設定する。

1.4 レベル2地震動の表現形式

レベル 2 地震動の表現形式は以下の通りとする。

1. 5 地震動に関するその他の研究・開発課題

2. 耐震設計法

2.1 提言の前提条件

本章では、レベル 2 の地震動に対して、土木構造物が保有すべき耐震性能と耐震設計法について述べる。
土木構造物は、橋梁・ダムなどの地上構造物、岸壁・堤防・盛土などの土構造物、トンネル・埋設管路などの地中構造物、および橋梁・タンクなどの各種基礎構造等、極めて多種であり、かつ地盤条件や構成材料も多様であるため、これら多種・多様な構造物が保有すべき耐震性能を一律に論ずるのは困難である。それぞれの構造物の耐震設計法等の見直しに当たっては兵庫県南部地震による被害レベルの異なる構造物の被害原因の究明を十分行い、その結果を反映させることが重要であり、引き続き詳細な検討が実施されなければならない。このため、地上構造物、地下鉄・埋設管路などの地中構造物、および盛土・基礎などの地盤・基礎構造物の 3 つに大別して記述する。

2. 2 地上構造物 (橋梁) が保有すべき耐震性能と耐震設計

(1)レベル1地震動に対する耐震性能

(2) レベル2地震動に対する耐震性能

(3) 地上構造物の耐震設計における留意事項と研究・開発課題

2. 3 地中構造物が保有すべき耐震性能と耐震設計法

周辺地盤の地震時の変位・変形挙動と安定性が地中構造物の耐震設計の基本である。シールドトンネルや開削トンネルなどの大断面を有する地中構造物の耐震設計では、周辺地盤の地震時の変位の平面のみならず深さ方向を含めた三次元的分布、小断面の埋設管では管路線上の地震時の変位分布が重要である。したがって表層地盤の地震応答を十分に把握することが必要である。また、地盤の液状化やこれに起因して発生する地盤の側方流動は地中構造物の耐震性に大きな影響を与えるため、耐震設計にあたっては地盤の安定性を十分検討しなければならない。

(1) 保有すべき耐震性能

(2)可撓性構造等の採用

(3) ライフラインシステムの計画

(4) 地震断層を横切る地中構造物

2.4 地盤および構造物基礎の耐震性能と耐震設計

(1) 構造物基礎の耐震性能

(2) 岸壁、堤防および盛土の耐震性

(3)地盤、構造物基礎、岸壁、堤防および盛土の耐震設計における留意事項と 研究・開発課題

3. 耐震診断と耐震補強

3.1 耐震診断

(1) 耐震診断の基本方針

(2) 耐震診断のためのデータベースの整備

(3) 構造系としての耐震性能

(4)システムとしての地震防災性

3. 2 耐震補強

(1) 耐震補強の基本方針

(2)優先順位

(3)耐震補強の方法

(4) 補強構造物の耐震性能評価

(5) 維持管理・補修

3.3 耐震診断および耐震補強に関する今後の研究・開発課題

(1) 構造物の特性に応じた耐震診断技術の開発

(2)耐震補強技術の開発

(3) 設計図書等に関するデータ ベースの構築

4. 地震防災性の向上に向けて

4. 1 土地利用および施設の適切な配置による面的な地域安全性の向上

(1)地震災害アセスメント制度の導入

わが国の都市の多くは、道路、公園等のオープンスペースがきわめて少なく、また住宅地では狭い街路、少ない緑、林立する電柱に象徴されるように、インフラストラクチャーの整備はきわめて不十分と言わねばならない。加えて宅地は狭小であり、そこには耐震性能を保持しない、いわゆる既存不適格の建物が密集している。これらの地域では防災性はもちろん快適性においても先進諸国のそれと比べて極めて劣るものであり、その改善は我が国の抱える最大の都市問題である。

これらの地域においては長年月がかかると思われるが、今後根本的な再整備が必要である。そのために以下に述べる「地区災害アセスメント制度」の導入が必要である。

このような分析・評価を行い、公表することによって各地区が自らの地区の置かれた状況を正しく理解し、またその状況が地価に反映されることになる。このことが地区改善への誘導策となり、住民自らの発意によって改善事業が励起されることになる。
さらに、住民からの改善への要求に対して、行政は計画案の作成や財源的な助成などにおいて様々な支援制度を作り、従来の都市再開発事業、土地区画整理事業などの制度と組み合わせながら地区改善を進めるべきである。

(2)都市・地域計画および各種施設の計画基準の点検と改訂

都市・地域計画において、従来より防災安全性は重要な計画目標の一つであったが、地域防災計画との連携が十分に行われていたとはいい難い。
道路、公園等の都市施設は、幹線道路から補助幹線道路、区画道路に至る体系や広域公園から近隣公園に至る体系のように、本来、その施設規模およびサービス圏域による階層的体系をなすべきものである。わが国の都市の場合、この体系が十分確保されておらず、個々の施設の規模、配置共に不足していることは前述のとおりであるが、それらの計画基準の改善・拡充の必要性が従来より議論されてきた。それに加えて、被災時を考慮した最低限かつ緊急に確保すべき、避難・救援用道路、オープンスペース等をはじめとする各種都市施設の計画基準が整備されているとは言えない。地震防災性向上の観点から、都市・地域計画および各種施設の計画基準の点検と改訂を行なうことが必要である。この計画基準は、上記アセスメントを実行する上での、評価の尺度ともなるべきものである。

4. 2 災害時の危機管理体制の改善による被害拡大の阻止

被災後の救援の遅れや、火災等への対応等災害時の危機管理体制の不十分さが被害の拡大をもたらした。被害拡大の阻止方策としては、平常時からの体制整備と訓練、被災時の状況把握、情報伝達、救助・救援活動の各段階があり、それぞれに関し以下の改善が必要である。

4. 3 既存構造物補強費用と災害復興費用の負担ルールの明確化

社会基盤施設の耐震性レベル、既存構造物の補強工事期間、被災後の復興計画の決定には、それらに要する費用の大きさと、その財源負担のルールが大きな評価要因となる。それぞれの負担費用に対し、効果が評価され、補強、復興計画が決定されることが原則であるが、次のような価値観に関連する事項が存在する。

防災投資による被害軽減効果を定量的に評価することは重要であり、4.1 のアセスメントと併せて実施することが必要である。その効果は防災対策の相対的な社会経済的効率を定める基準となり得る。ただし、保険や官民の多くの防災投資事例から明らかなように、防災投資額を被害軽減額の期待値より大きくとる場合が多く、想定していた以上の超過外力への対応も含め、防災投資のレベルは国民の価値観に基づく社会的選択の問題となる。
また、その財源についても、阪神・淡路大震災に対処するための立法措置および財政的施策が講じられたが、時間的制約もあり議論が十分とはいえず、施設間の整合性、各種ルールの論理性、合意形成等に関し再検討の余地は大きい。ここに改めて、復旧・復興財政、既存施設の補強費用負担についてのルールの確立が必要である。


土木学会「耐震基準等基本問題検討会議」の構成

社団法人土木学会 ( 順不同・1995-9-25 現在 )

議長 田村重四郎 日本大学
副議長 石原 研而 東京理科大学
第1分科会
(地震動)
委員 亀田弘行 京都大学・防災研究所、分科会長
東原紘道 東京大学・地震研究所、分科会幹事
阿部勝征 東京大学・地震研究所(地震)
土田 肇 財団法人沿岸開発センター
伯野元彦 東洋大学、耐震工学委員会委員長
佐藤忠信 京都大学・防災研究所
浜田政則 早稲田大学、全体調整幹事
大町達夫 東京工業大学、全体調整幹事
家村浩和 京都大学、全体調整幹事
川島一彦 東京工業大学
分科会委員 工藤一嘉 東京大学・地震研究所(地震)
第2分科会
(耐震設計法)
委員 土岐憲三 京都大学、分科会長
家村浩和 京都大学、分科会幹事
今田 徹 東京都立大学
伯野元彦 東洋大学、耐震工学委員会委員長
龍岡文夫 東京大学・生産技術研究所
町田篤彦 埼玉大学
浜田政則 早稲田大学、全体調整幹事
東原紘道 東京大学・地震研究所、全体調整幹事
大町達夫 東京工業大学、全体調整幹事
分科会委員 井合 進 運輸省・港湾技術研究所
安田 進 東京電機大学
古賀泰之 建設省・土木研究所
国生剛治 電力中央研究所
佐伯光昭 日本技術開発株式会社
第3分科会
(診断と補強)
委員 福本 士 大阪大学、分科会長、 土木学会鋼構造委員会委員長
浜田政則 早稲田大学、分科会幹事
岡村 甫 東京大学、土木学会コンクリート委員会委員長
岡田恒男 東京大学生産技術研究所(建築)
川島一彦 東京工業大学
今田 徹 東京都立大学
佐藤忠信 京都大学・防災研究所
土田 肇 財団法人沿岸開発センター
龍岡文夫 東京大学・生産技術研究所
東原紘道 東京大学・地震研究所、全体調整幹事
大町達夫 東京工業大学、全体調整幹事
家村浩和 京都大学、全体調整幹事
分科会委員 西村昭彦 財団法人鉄道総合技術研究所
稲富隆昌 運輸省・港湾技術研究所
中野正則 建設省・土木研究所
第4分科会
(地域防災計画)
委員 森地 茂 東京工業大学、分科会長
大町達夫 東京工業大学、分科会幹事
片山恒雄 東京大学生産技術研究所
高田至郎 神戸大学
首藤伸夫 東北大学
浜田政則 早稲田大学、全体調整幹事
東原紘道 東京大学地震研究所、全体調整幹事
家村浩和 京都大学、全体調整幹事
分科会委員 浅野光行 早稲田大学
村橋正武 立命館大学
黒田勝彦 神戸大学
林 良嗣 名古屋大学
稲村 肇 東北大学
オブザーバー 後藤洋三 株式会社大林組技術研究所、
土木学会 阪神・淡路大震災対応技術特別研究委員会 幹事長
ワーキンググループ 有岡謙一 東洋建設株式会社
小川安雄 大阪ガス株式会社
貞光誠人 大成建設株式会社
嶋田三郎 前田建設工業株式会社
末松直幹 不動建設株式会社
内藤静男 鹿島建設株式会社
中村 晋 佐藤工業株式会社
平井正哉 株式会社大林組
前 孝一 清水建設株式会社
松本正毅 関西電力株式会社
脇田和試 株式会社間組
事務局 定道成美 主任・土木学会企画調整委員長
村橋正武 土木学会企画調整幹事長
柴山知也 土木学会企画調整幹事
河村忠男 土木学会事務局
柳川博之 土木学会事務局
注 ; 各分科会の中に必要に応じてワーキンググループが組織されている。

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