日本のコンクリート技術の海外展開 ~その課題と展望~

2009年12月,コンクリート委員会Newsletter 2010年新年号特別企画として,海外に関わる業務経験のある技術者4名による座談会が行われた。海外における日本コンクリート技術,技術者の役割とは? 彼らが活躍できるための理想的な状況とは? 日本のコンクリート技術の海外展開における課題と展望について問う。

*本記事は土木学会コンクリート委員会Newsletter 2010年新年号掲載記事の日本語版です。

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座談会参加者*

*あいうえお順

猪熊康夫

中日本高速道路(株) 八王子支社

日本国内で高速道路の建設・管理を発注者の立場として実施。その間,マレーシアのMalaysian Highway Authority(マレーシア道路公団)にJICAの専門家として滞在(1991年から1993年)。マレーシアにおいては,日本の高速道路技術の指導・移転,橋梁の標準設計の作成,などの技術協力業務を担当。

 

金子雄一

東電設計(株) 土木本部 原子力火力本部

インドネシアやマレーシアの既設火力発電所の水路トンネルの構造や耐久性の検討に関与。土木学会コンクリート委員会・コンクリート構造物の耐震設計法国際比較小委員会で各国の基準を用いた橋脚の耐震の比較設計を担当。

 

山元英輔

(株)大林組 海外支店 土木第三部

主にアジアのマーケットを担当。これまでに延べ9年間,海外に赴任し,赴任先では現場を主に担当。過去の赴任先は,バングラディシュ,シンガポール,韓国,UAE(ドバイ)。現在は東南アジアとオセアニアを中心に海外工事獲得部門に所属。

 

横田  弘

北海道大学大学院 工学研究科

2009年3月まで港湾空港技術研究所に所属し,JICAの短期派遣専門家(エジプト,イラン,カンボディア,インドネシア,フィリピン,東ティモール)やJICA集団研修における講師を務める。また,国土交通省と共同で港湾維持管理に関する技術指導・移転(ブルネイ,インドネシア,ミャンマー2回)に従事。

 


国際関連小委員会
司 会:
信田佳延(鹿島建設(株))
大島義信(京都大学)
編 集:
高橋良輔(山梨大学)
長井宏平(東京大学)

信 田:


今日はお集まりいただきありがとうございます。土木学会ではコンクリート委員会をはじめ,色々な委員会が活動をしていますが,それぞれの活動の中で国際貢献をひとつの柱としております。コンクリート委員会も内部に国際関連小委員会を作り,海外の機関とのジョイントセミナーや,コンクリート標準示方書を国際会議で紹介するなどの活動をしております。その中の大きな柱の一つがこのニュースレターで,日本の技術をより多くの海外の方々に知ってもらうという趣旨で情報を発信しています。

日本のコンクリート技術は,今日の国内や海外の社会的要請に対して,十分にその要求に応えうる水準にあると思いますが,一方で,高い技術力やそれを実現しているコンクリート技術者が世界的に認知され,十分に活躍しているかという点においては,努力すべき余地があるとも言えるのではないでしょうか。そこで,海外における日本の技術について,色々,ご経験やお考えを持っていらっしゃる方々にお集まりいただき,日本のコンクリート技術の海外展開に向けた課題と今後を考えるとともに,対談を通じて得た情報を,このニュースレターを通じ,海外の研究者,技術者の方々に広く発信したいと考え,この対談を企画いたしました。

それではまず,これまでの経験をふまえて,海外で役に立つ技術,広めていくべき日本の技術,海外から見て興味ありそうな技術は何かという観点からお話をお聞きしたいと思います。

 

猪 熊:

国外で強みとなる技術ですと,まずは,品質管理とかPCの施工とか耐震関係だと思いますね。また,細かいところの仕上げは凄いですよね。以前,私達が日本で造っているコンクリート構造物を,全く分野外の日本の方に見せたら「コンクリート技術は素晴らしい」というお褒めをいただいきました。表面が綺麗で,寸分の狂いもないコンクリートだったのです。それが本質的に必要なものなのかどうかというと,分からない部分もありますが,そういうコンクリートだから長持ちするのかもしれません。

あとは個別の技術について。吊り形式の立派な橋が日本の援助でアジアなどでも割と造られているのですが,日本国内だと,そこに行くまでに変断面の張出などの技術の時代があったんですよ。国外では,そういう技術を飛ばして最新の技術に行っているのですが,例え一昔前のものであっても日本が得意な技術を国外でももっと使えるのではないかなと思います。他にも,プレキャストのセグメントとか,高品質の高強度コンクリート,いわゆるハイパフォーマンスコンクリートなどは,技術としては良いと思うので,国外でも使えるのではないでしょうか。そういう技術というのは,技術基準という以前に,もっと国外に売り込めるのではないかなと思っております。

 

山 元:

ハイパフォーマンスコンクリートに近いものは,ドバイの工事で使っていました。ただそれを使うのにあたって,日本の新しい標準示方書に則ったという話ではなくて,その類のコンクリートが普通のローカルのマーケットで製造されているということで使いました。

 

信 田:

そのような場合,使用許諾が必要と思いますが,特に問題なく許可されるのでしょうか?

 

山 元:

当然,原則論としては「スペックに合ったものを使う」ということになるのですが,現地の生コン会社でよく使われたグレードの製品でしたので,何も障害もなく使えたということです。

 

信 田:

コスト的には高いことになると思いますが,その負担はどのようになるのでしょうか?

 

山 元:

その工事は設計施工+αといった内容でしたので,全て我々の中で処理しなければならない。設計の最初の段階から,ハイパフォーマンスコンクリートを使うことは考えましたが,やはりなるべくコストセービングの計画を立てますので,結局,使用しないということで工事を始めました。ですが,D51くらいの鉄筋が密にラップしているようなところでは,やはりその下がコンクリートで埋まっていない。そこでかなりの時間と,労力などを補修にかけてしまうことを考えると,やはり,ここで材料の転換をしたほうがいいということになりました。材料の転換にかけるコストは,かけないコストと比べた時と同じくらいか,もしかしたら多少高いかもしれませんが,見えないリスクのことを考えればそのほうがいいだろうという,総合的な判断だったと思います。

 

金 子:

日本が一番の技術というのは沢山あります。なので,とんでもない条件を出されて,それに対応するのは高い技術力を持った日本の企業くらいしかない,というリスクの高い工事は,独占的に取れるということはあると思います。ただ一般の条件に対しては,高い技術力を提案しても,「別に高い技術力でなくても出来る」と言われてしまったらそれで終わりなので,技術力だけで国外の仕事をとれるかどうかというと,なかなか難しいと思います。だから日本の企業はプラスアルファのところで頑張ってしまう。

 

横 田:

私も日本の個別の技術は結構高く,世界的に見てもNo.1ぐらいまで行っていると思いますが,計画から,設計をやって,施工に至るまでのコンストラクトマネージメントは非常に弱いような気がします。

 

信 田:

事業としてうまくいくか,いかないか,というのはマネージメントとか現地の作業者の使い方とかによって全然違ってきます。仕事のやり方自体をしっかりと理解している技術者がいる現場ではきちんと利益を出しながら仕事ができる。ただ,最近特に話題になっているドバイや,アルジエのような大規模な海外工事では条件が違います。だから,現場工事の運営上,当然,コントラクトの問題,コントラクトに対する習熟の問題,理解の問題等を考えていかなければならない。技術だけでなくマネージメントの影響に対処していく必要があると思います。

では技術では全く勝てないかというと,そうではない。ボスポラスの海峡トンネルなどではいろいろ提案をしてきて,もちろん,コストの問題はあるのですが,その中で日本企業が取れたっていうのはやっぱり評価されるべきではないかなと思います。

 

金 子:

何年か前に日本で行われた耐震設計に関する国際セミナーで,いろんな国の基準で比較設計するという企画がありました。条件をいくつか決めて,各国のコードで設計したら違ったものが設計されて,その違いを見れば,各設計基準の違いが分かるのではないかという予想だったのですが,結果としては,やはり設計者の特性のほうが強く出たという感じでした。世の中の最近の流れとしては,性能設計という形で動いているので,基準の通りやればいいというだけではなくて,例えば,「こういう原理原則があるからこういう結果になります」ということを,設計する側と設計を受け取る側の両方が正しく理解すれば,どのような基準を用いてもよい,そういう時代に来ているのだろうと私は思います。ただ,法律ですとか,契約によっては決められた基準などを使わざるを得ないことがあります。その辺が障害にならなければ,土木学会標準示方書も良いものですから,どんどん国外でも使うように進めていったらいいのではないかなと思っております。

 

信 田:

我が国の技術基準を海外で広めることは,土木学会がターゲットにしている活動のひとつですが,猪熊さんからは,技術基準というのは二の次でという話がありましたね。

 

猪 熊:

「二の次」というのは表現が良くないのですが,看板としての技術基準というのは,契約を交わす政府との契約条件ですからそれは大事です。ただその看板というのは,結構昔からの看板が頑張っているので,掛け替えるのは難しいのではないかと思います。コンクリート標準示方書の考え方をきちんと説明するとか,つまり中身としての基準が大事で,看板はどっちでもいいというか・・・。中身がしっかりしている方が大事だろうということで技術基準は二の次と申し上げました。

さきほどお話があったように,橋梁でも同じように比較設計をしたことがあるのですが,その時に思ったのは,基準の看板はとりあえずあるのだけれど,荷重や,荷重の組み合わせや,構造細目をどうするとか,細かいことはそこに書いていないということです。技術者が適切に判断していくと,看板の元で,最後の結果は変わります。変わるけど,その差は小さいんですね。そのような理由で,確かに看板の重みというのはすごくあるのだけれど,看板はどうでもいいのではないかと思います。

あともう一つは,日本の基準として具体的にどの基準を広めるのかという問題もあり,難しいと思うのです。

 

金 子:

例えばEuro CodeにしてもACIにしても,メインはビルディングですよね。日本の基準としてコンクリート標準示方書を持って行って,これを土木の示方書ですと言うと,「じゃあ,ビルディングは?」という話になってしまう。で,今度は建築の基準を持って行くじゃないですか。建築は,コンクリート標準示方書と違い,未だに許容応力度設計法でほとんど設計されているから,「建築は建築で別物です」と言うと,国外の人は頭の中がクエスチョンマークだらけになって,「日本とは一体どういう国なのだろう?」という疑問から設計の話が始まってしまいます。その辺も含めて,色々と問題があるのではないかという気がします。

 

山 元:

工事に携わった経験から言いますと,ある基準で工事をやると決まっている時に,何か技術的な問題が起きて日本の示方書に変わる,ということはありませんでした。たまに,そのような時に参考書的に示方書が使われるということはありましたが・・・。ただ,コンクリート示方書を現地の設計者やコンサルエンジニアに見せることは,大変な苦労です。日本の示方書に書いてあることを出しても,彼らにとってはなんの説得力もないらしいのです。彼らからすれば日本の基準がどういうものかというのは全く知らない状態ですから,彼らが自分として信用できるかできないかを決めなければならない。それで示方書に書かれている内容の根拠など,背景まで掘り下げて聞かれるわけです。その前に,示方書を英訳しなければならないという話もあります。英訳版があってそれを差し出すのと,私が示方書を英訳したものを差し出すのとでは大分違います。ですから,示方書の英文版は基本的に必要条件としてなければいけないと思いますね。

 

信 田:

コンクリート標準示方書の位置づけとしては,"Code for code writers"であり,基本を書いて,具体的な工事向けのスペックを作る上での参考にしていただくことがあります。つまり,「コンクリート標準示方書のこの部分を,工事仕様書のこの部分にあてるというような使い方をしてください。」というのが基本だろうと思います。したがって示方書の条文そのままをすべての構造物の工事仕様書に使えるということはないと思います。その意味で中身が重要というのは非常に重要な指摘だろうと思います。

 

横 田:

そのとおりだと思います。Standard specificationsですから,個別の工事のスペックに持って行くというのが大事じゃないかと思います。

 

金 子:

先ほどお話したように,性能照査型ということであれば,設計者と設計を受け取る側の両者が基準の背景をきちんと理解して判断できれば,その安全性や信頼性などがきちんと照査されているということを共通に認識できることとなり,そういった観点からはどの基準を使ってもいいわけです。ただ,一つの式の基になっているデータを,一般の人は,日本の技術者でも,ほとんど知らないですよね。だから基準の背景までちゃんと読み込めれば,国外でも示方書を使えることになると思いますが,そうなると本当にハイレベルの,少数の技術者しか対応できない話になってしまう。これは技術者の全体的なレベルのボトムアップをどうしていくか,ということにもかかっているかもしれない。

 

猪 熊:

基準については,あと,土木学会として何を目指すかということが重要だと思います。話は飛びますが,Code for code writersであれば,ISOに日本のCodeを持って行って,なるべくその心なり文章をそこに入れるとか・・・。そういう何か上位のところを目指していかないと,日本の中でいくらこの基準がいい基準ですよと言っても,世界に認知されないと思うのです。

 

信 田:

ISOに話が及んだので,横田先生にお考えをお聞きしたいと思います。

示方書の改訂では用語を合わせるなど,ISOに配慮しながら今まで来ておりますが,例えば,ISOの施工法の基準はだいぶ日本の考え方とは違うところがあり,日本の標準示方書である以上,ISO基準を全て取り入れることは難しいだろうという結論になっています。

 

横 田:

ISOは,材料施工,設計,維持管理の基準と大きく3つに分かれています。施工とか試験法の基準には,日本の基準をずいぶん苦労してISOに持って行ってもらっていますが,日本全部で一票しかありませんので,投票となるとなかなか勝てません。

設計の方はISO19338の中にPerformance requirementというのがありまして,それを満たす基準ということで,土木学会の示方書と,建築の構造設計規準とプレストレスコンクリート規準があります。そのISO19338の改訂の作業がそろそろ始まります。その時に日本の示方書の性能照査の考え方をもっと本文に入れようということで,いろいろ提案しようと思っています。

それから,自国に設計基準がない国向けのISO簡易設計法というものを,Subcommittee 5というところで作っているのですが,日本は関係ないと言って無視していると,どこかの国の基準をベースにしたSimplified designがISOになってしまいます。そうなりますと,その国は非常に有利になるので,日本も何か提案しなければいけません。私見ですが,コンクリートタンクの設計法を提案しようと思って準備をしております。もしそういうのが本当にISOになれば,示方書の細かな性能照査の考え方が,若干世界に広まる可能性はあるかと思います。土木学会の標準示方書をベースにしたという話は表には出てきませんが,国外の仕事が若干やりやすくなる気がします。それを今,維持管理の方では,示方書の維持管理編に基づくISOのフレームワークの提案を,アジアの国々を巻き込んで,まずアジアコンクリートモデルコードという形にして,アジアコンクリートモデルコードからISOを提案しようとしています。

 

信 田:

これまでの皆さんのお話から,少なくとも標準示方書の英文化は必要との認識でよろしいですね?

示方書の英文版はすでに国外で売っていますが,国外の現場には置いてあるのでしょうか。

 

山 元:

置いてないですね。

 

横 田:

使わなきゃ売れないし,売れなきゃ使ってもらえない。にわとりと卵,どっちが先かという難しい問題ですね。だから次回は無償で配ろうということに決めました。

 

信 田:

示方書の使い方として,基準としての使用に加え,施工編だったら参考書,一つの技術情報としての使い方もあるはずで,現場にも必携だと思います。

さてここで,技術者に話題を変えたいと思います。日本人技術者の役割だとか,過去の貢献だとか技術者としてその技術レベル,資格の問題,それから海外工事を念頭に置いた場合どういう人材育成をしなければいけないのか,海外から見たときにこういう技術者が信頼できる,といった観点から話題をお願いしたいと思います。

 

山 元:

日本人技術者として海外の人達と面と向かったときのポイントは,資格です。例えば名刺を渡したときに,すぐに他の国の方々が技術力をわかってくれるような,本当に広く認知されたような資格に日本の資格がなっていけば,初対面のときに有利に働くのではないかと思います。我々が思う勤勉さとか技術の高さなどというのは,平均的な日本人に対する考え方として他の国の方々も持っているのですが,実際はホストゲストの関係になりますから,技術者がすぐに,他の国の技術者に認めてもらうのは容易ではありません。1年2年の付き合いの後に初めて,「彼が言っているから,OKだ」となります。そうなれればしめたものですが,そこまで行くのにはすごく時間がかかります。例えば,技術士がもっと広く世界的に認知される資格となっていれば,状況は違うのではないかと思います。

 

横 田:

日本の技術者はどこへいっても信頼されていると思います。きちんとやっている人が多いと思いますが,信頼を築くにはやはり時間がかかると思います。時間をかけてだんだん信頼を築き上げて・・・というような方々が今まで多かったので,そういう評価になっているのではないかという気がします。あとは,信頼を得ようと思うとやっぱり,自分の本籍技術が重要ではないかと思うんです。自分がこれだけは譲れないという信念が重要で,そうすると時間はかかるけどうまくいくのではないかと思います。

 

猪 熊:

一般論ですけれど,日本の技術者は一見,何を話しているのかわからない,資格があるのか無いのかわからないということで,プレゼンスが弱いのではないかと思います。そういう入り口のところからハンディキャップを負いながら,一生懸命,拙い英語で勝負をする,ということで,何か非常に他の国々の技術者に比べて不利なところがあると感じます。それを埋められるかどうかはわからないけれど,しっかりとした主張は,できるところから始めるしかないのかなということを思っています。あと,資格の問題は,皆が例えばドクターを持っていればいいのですが,なかなかそれは難しいですよね。

 

信 田:

技術と技術者の両方の観点から国際関連小委員会で話題になったのですが,発展途上国を対象とした場合とある程度成熟した国と日本の技術の関わり方や使われ方は違うのではないかという意見がありました。

 

猪 熊:

成熟した国にマーケットがあるとは思えませんし,仮にあったとしても成熟した国のコンサルタントなりコントラクターがしっかりいるので,やはりどちらかというとこれから発展するような国のインフラ整備などが中心になると思います。日本だけでなく世界的にもそうじゃないかなと思っています。

 

信 田:

たとえばボスポラス海峡トンネルのようなかなり難しい条件のように,設計も施工も高度な技術が要求されるような工事では,日本の技術が貢献できるのではないかと思いますが。

 

山 元:

それはありますね。高度なのと汎用技術で安ければいいようなのと,プロジェクトには2種類あります。

 

信 田:

高度な技術が要求される市場の可能性はどうなのでしょうか。可能性があるなら目指していくべきと思うのですが。

 

山 元:

それは目指すべきでしょうね。家電製品がそうですが,やはり価格では勝てないとなった時に,日本は付加価値を高めて何とか技術で払拭している。そういう流れと同じような気がします。もちろん,価格のみで決まる工事が多いけれども,その中でも我々が持っている技術に国外の他社が追いつかないケースというのはあって,それで今も海外のコントラクターから声がかかるわけです。だから,全く先が見えないというわけでなく,経験を積み重ねていけば取れる仕事も絶対増えてくる。

 

猪 熊:

そういう日本の何社かしかできないような高度な技術があれば,そしてコンサルタントが設計する段階で入れてもらえるようなことがあれば有利ですよね。やはり,どうしても価格勝負がある一つの基本ですから,コンサルタントの側っていうか,もっと計画,設計から施工に至る流れの,上流側で頑張れればいいなと思います。

 

横 田:

やはり付加価値としている技術をスペックに書いてもらえばいいという話ですよね。スペックに書いていないのに付加価値を付けることをするから,結局儲けが出ないということではないかと思います。どなたかがさっきおっしゃったけど,やはり日本人は「緻密である」ということがちょっと災いしているのではないかと。

 

猪 熊:

長寿命化につながる品質管理とか,そういうところがきちんとスペックにできればいいと思うんです。過度な品質ではなくて高品質だから寿命が延びるとか。そういうのが日本の強みかなと思います。

 

信 田:

ありがとうございました。

最後に,海外への情報発信ということで自由意見をお願いできますでしょうか。

 

山 元:

われわれ施工の立場は,その地域の事情も知らなければなかなか上手くいかないということもありますから,ローカルのパートナーとよく技術の交流をしながら,その国に根ざした,足を据えた営業努力をしていくことが重要じゃないかなと思います。われわれが進んでいる技術に特化して売り込んでいくという格好で,その国の技術者と一緒にやっていけばまだまだ海外でも十分に日本の企業はやっていけるし,そうやっていきたいと思います。

 

猪 熊:

先ほども申し上げましたが,長寿命化につながる品質管理といったものが日本のひとつの強みであると思っています。耐震設計も含めて,このような日本の得意なことを中心に海外に売り込んでいくのがやはりいいのではないかと思います。

 

金 子:

私は示方書の維持管理編にずっと関わってきたのですが,「コンクリート構造物を手入れしないと長持ちしないよ」ということを,あれだけ早い時期から声高に言い,また,時間の流れをきちんと基準に入れ,そういうものを計画,検討する重要性を早くから指摘してきたということで,土木学会は先見性もあるし,レベルも高いと思います。

アジアモデルコードのほうにもそれは反映されていると思うので,そういう意味では日本の技術は頑張っているのではないかと思います。だからもう少し,示方書が世界のあちこちで読まれるといいなという願望はあります。

あと,物を造るということは環境をとても壊すので,物を造ったら出来るだけ長く使うということが重要です。そのためにはやっぱり品質のいいものをつくる必要があるということで,環境面でも日本の技術が貢献できるのではないかと思います。

 

横 田:

海外との接点はいろいろありますが,これから日本だけでクローズして物事を考えていけるような時代でもないと思いますので,もう少し海外のことにも興味を持っていただければ結果はついてくるのではないかと期待をします。

それと,せっかく良い技術を持っていても,黙っていたら誰も見てくれない。日本はPRが下手なので,良い技術力をどうやってアピールしていくかということが重要です。このようなことも含め,本当に建設技術ということだけを考えてみれば技術だけではやっぱりうまくいかないので,ソフトから全部含めてシステムとして何か海外に持って行くものを作らないといけない。いろいろとシステムとしてやって行くことが重要ではないのかなと思います。

 

信 田:

今日はどうもありがとうございました。