施工不良とコンクリート構造物の耐久性

独立行政法人 土木研究所 理事長 魚本健人
(東京大学名誉教授)

  私が大学生だった頃、コンクリートに関して習ったことは、「正しい材料・配合のコンクリートをきちんと練混ぜて、正しい施工を行えば、コンクリート製の構造物は半永久的に利用できる」ということであった。そのためには、どのような材料を選定し、配合設計を行うとともに、正しい運搬、締め固めを行い、養生を施すことが重要であることを学んだ。事実、多くの古いコンクリート構造物は何十年経過しても何ら大きな問題が生じていないことが多い。しかし、実在のコンクリート構造物はコールドジョイントや豆板など種々の施工不良が見つかることも多い。

 その後、大学でよりよい品質のコンクリートを製造・打設する方法に関して種々の研究を行ってきたが、よく考えると「もし間違った方法等が採用された場合にどう対処するべきか」について十分な勉強をしてこなかったと反省している。このことに気づいたのは私がコンクリート委員会委員長になって間もない1999年6月に発生した「(新幹線)福岡トンネル)」でのコンクリート片剥落事故である。剥落したコンクリート片は新幹線の天井部に落下したが、幸いにも列車の転覆などの大きな事故にならずにすんだ。

 この事故の原因を調べるために種々の検討が行われた。フェノールフタレイン溶液を噴霧した写真等を見ると、剥落したコンクリートの大部分は中性化しており、落下する直前まで壁面に付着していた部分はごくわずかな面積であったことがわかった。即ち、剥落する直前までに多くのひび割れまたは剥離が発生しており、新幹線の振動や空気圧の低下などが原因でコンクリートが発生応力に耐えきれず剥落したものと考えられた。この中性化した箇所の上面はコールドジョイントができており、その表面は全て中性化していた。言い換えると、コールドジョイント部は気体である炭酸ガスをそのまま通過させ、表層のセメント水和反応を止め、耐久性上も問題を引き起こしたことになる。

 施工不良の一つであるコールドジョイントは、下層コンクリート打設後何らかの原因で時間が経過してしまい、そのことに配慮をせずに上層コンクリートを打設したために生じるものである。結果的にこのコールドジョイント部はひび割れ部と同じことになり、力の伝達が行えないばかりでなく、気体や液体の通路になる。このため、もしこのような状況が発生した場合には、力の伝達を阻害している可能性があり、また耐久性を考慮すると直ちにコールドジョイント部に樹脂等による補修を施し、気体や液体が通過できぬよう密閉構造にしておかなければならないことになる。

 以上のことからも明らかなように、我が国でもしばしば見られる施工不良は将来的には大きな問題を内蔵していることを理解し、早めの対策が重要である。将来を考えると重要な社会資本であるコンクリート構造物を長期間利用可能とするためには、コンクリート技術者は施工不良などを起こさぬよう配慮することはもちろんのこと、誤った施工等が行われた場合に直ちに対処する「補修・補強」等の検討も重要である。