アルカリ骨材反応対策小委員会報告書に関する講習会 質問と回答

整理番号:

鉄筋の破断についての章で,鉄筋の曲げ加工に関する考察の項で少し質問させていただきたい.部材の加工による残留応力について関心を持つ技術者です.

小生は鉄筋の破断は,必ずしもアル骨反応の膨張で起きるものとは考えられません.膨張力が直接的に破断させているということではないと,言う意味で.

曲げ加工されている部分には,鋼材の降伏応力に近い残留応力が発生しているはずです.高い応力状態のところで,クラック発生に伴い水の浸入があれば,やはり水素脆性による影響を無視することはできません.水素脆性では鉄筋の変形なしで破断します.

電柱ではPC破断の事例がかなりあり(30事例程度ではない),電柱のPC鋼の破断検査法が検討されてきました.そこでは,電柱のコンクリート部分にひび割れが発生し,表面から水の浸入により,テンションの作用しているPC鋼で水素脆性による破断がおきていると結論つけていたような記憶があります(PC鋼の材料的な特性に影響される).もし,曲げ加工部がなければ,アル骨の構造体でも鉄筋破断は起こらないと想像できます.逆に一般の部材で,アル骨反応部材のように,クラック発生がおきて水の浸入があるようなことが起きれば,鉄筋の破断も起きうると想像できます.

部材の加工における残留応力に関心を払う時期に来ていると考えます.

 

回答者氏名:

河野広隆(実態・メカニズムWG主査)

 今回のASR報告会では,現状で入手できる情報を元に委員会で議論を重ねて,皆様方に状況を報告させていただきました.我々としても,鉄筋破断の原因を100%断定したわけではございません.不明の部分も残っていると認識しております.ただし,曲げ加工とASR膨張による高ひずみの条件が重ならないと,鉄筋は破断には到らないと推定しております.ご指摘のPC鋼材の破断とは,また若干異なったメカニズムも存在すると理解しております.

 ご指摘のように,ASRに限らず,鉄筋コンクリート構造物の挙動には,まだまだ十分に解明されていない部分があります.特に耐久性など,長期にわたる挙動の把握が必要な事項については,データそのものも不十分な部分が多々あります.また,残念ながら,事故や欠陥に関する情報は,なかなか公開されず,問題を把握することも難しい状況があります.

 今後,コンクリート委員会としても,可能な限りの情報を収集し,より良いコンクリート構造物の構築のため,コンクリート標準示方書等へ反映させていきたいと考えております.

 今後,是非とも情報公開にご協力いただき,国民に信頼されるコンクリート構造物の構築に活用させていただければと願っております.

 

整理番号:

東京会場における冒頭において,「中間報告の際に3つの前提を提示していた.その大前提として「現状の使用条件であれば安全」・・・」と説明がありましたが,アルカリをある程度消費するまで反応を起してしまったコンクリートは,たとえモニタリングをしていても反応が進むので経年変化で安全ではなくなる筈なのに,何故そんな前提を打ち出して検討を進めたのでしょうか?

 

回答者氏名:

評価WG

いくつかの安全側の仮定の下,仮定の妥当性を含めて検討を進めた結果,現状の劣化程度であれば現時点での構造安全性は確保されているとの結論を得ました.これは結論であって前提ではありません.しかし,現状の劣化状況を放置すれば,より厳しい損傷が生じることを想定して,どの程度の変状が現われれば構造安全性上問題となるかについても検討を行いました.

 

整理番号:

鉄筋破断はハツらなければ確認は難しいことは理解しますが,報告書I-61 (6)に示される鉄筋のN含有量等の化学性状を分析する,膨張圧を予測する等の複合により解析で鉄筋破断の可能性を予測する手法は考えられませんか?

 

回答者氏名:

河野広隆(実態・メカニズムWG主査)

現状では,鉄筋破断はハツらなければ確認は難しいのですが,非破壊的に検査する方法を報告書T編8章で模索しております.

 鉄筋破断を生じる必要条件はだんだんと判ってきましたが,破断を生じるかどうかは,複数の要因がかなり複雑に影響しているため,N含有量を測っても,必要条件のひとつを押さえるに過ぎません.これは,ASR劣化構造物では,「無害でない」骨材を用いることが,劣化に到る必要条件ではありますが,「無害でない」骨材を用いたからといって,必ず劣化が生じるわけではない,ということと同じです.

 全国には,非常に軽微な兆候から,鉄筋破断という重傷のものまで含めると,多分,何千(あるいは何万)とASR劣化構造物が存在すると推定されますが,その中で,何故,数十の構造物のみで鉄筋破断に到ったのかは,十分には解明できなかったのが現状です.

 ASR劣化構造物で,将来の膨張量の予測をしようと試みる研究も,複数なされていますが,残念ながら実用域までは達していないのが現状です.

 このようなことを考え合わせると,ASRによる鉄筋破断を事前に予測するのは,現状では技術的に極めて難しい状況にあるといわざるを得ません.

 なお,技術的に鉄筋破断を予測できるようになったとしても,鉄筋破断する構造物の率が低い状況では,破断予測に必要な試験を実施するための経費がよほど安価にならない限りは,実務的には,破断予測を現場で実施するのは難しいと思われます.

 

整理番号:

ASRにより影響を受けた構造物の安全性照査に関して,以下の項目が考慮されていないようですが,その理由についてご教示願います.

@ASRによる構造物の伸びによる影響(鉄筋応力)

     AASRによるコンクリート物性値への影響(特に弾性係数)

     Bコンクリートのクリープによる影響

 

回答者氏名:

松田好史(評価WG‐設計TG幹事)

第U編2章から4章の計算例においては,1章はじめににも書いてあるように,実務的な対応が急務と考えられる鉄筋破断が生じた場合の構造物の安全性の照査を目的として,実際に鉄筋破断が報告されたT橋脚等を中心に,コンクリート標準示方書[構造性能照査編]に基づき,設計最大荷重作用時の構造物の終局状態における安全性について一般的な検討を行ったものです.

@ご質問のASRによる構造物の伸びによる影響を構造解析に適用することについてですが,部材長さの変化を構造解析に適用する考え方は,温度変化の影響の場合を除いて,一般的にはありませんし,ご質問のASRによる伸びの影響がどの程度あるのかも定かではありません.計算例は,コンクリート標準示方書[構造性能照査編]に基づき,一般的な安全性の照査を行ったものです.

AASRの影響により,コンクリート強度や弾性係数が低下するとの報告がありますので,T型橋脚の計算例では圧縮強度の低下が耐力に与える影響について示しました.また.T形桁の安全性照査では圧縮強度の低下の影響に加えて,弾性係数の低下が与える影響について示しました.

B高圧縮軸力が作用するプレストレストコンクリート構造物の場合には,クリープの影響について検討を行っていますが,鉄筋破断が報告されたT型橋脚の片持ちばり部などの計算例においては,そのような高圧縮軸力の作用環境下にはなく,したがって検討は行っていません.

 

回答者氏名:

前川宏一(評価WG‐解析TG主査)

ASRの膨張を受けた部材の変形と耐力の解析では,鉄筋の伸びとそれによる拘束効果は考慮されています.2000マイクロ近くまでは部材耐力が上昇しているのは,鉄筋の伸びによる引張力と釣り合う圧縮力がコンクリートに導入されることに因ります.またASRに伴うひび割れを導入した解析では,ひび割れ面での接触分離に関する構成則が適用されています.その結果,見かけのASRによる分散したひび割れを有するコンクリート要素の圧縮変形係数(コンプライアンス)が変化することが,構造解析のなかで自然に考慮されるようになっています.その結果,数値解析では2000マイクロ程度の膨張を導入した場合,弾性係数は約半分程度に低下する解析となっています.なお,この耐力が上昇する機構については,鉄筋の定着不良の検討において,安全側を考えて,あえて考慮しておりません.静的な耐力を評価する上で,クリープの影響は考慮していません.これは安全設計で想定する終局限界状態に対応する荷重が短期静的荷重であるからです.また,ASRによる膨張予測においては,拘束を受けながら継続して進行するコンクリートのクリープの影響を含めた評価となっています.機構的に類似していると思われる膨張コンクリートの場合,膨張拘束下では,ほとんどコンクリートのクリープが既に進行,収束するために,膨張後のプレストレスロスはほとんど計測されていない,という実構造レベルでの実証結果を加味して判断したものです.

 

整理番号:

26章及び7章のシミュレーション解析において,鉄筋が高応力になっているのではないかと考えられますが,鉄筋応力レベルがどの程度なのかご教示願います.また,鉄筋応力が,降伏点を超えるような高応力となっている場合は,応力に対する評価を実施すべきではないでしょうか?

 

回答者氏名:

前川宏一(評価WG‐解析TG主査)

鉄筋コンクリート要素のひずみが,そこに配置されている鉄筋の平均ひずみと同じとなっています.したがって,鉄筋コンクリートレベルで2000マイクロの平均膨張量の数値解析では,鉄筋の応力はほぼ降伏強度に到達していることを意味します.鉄筋が降伏に至った場合には,それ以上の膨張に対する拘束効果は期待できなくなりますので,構造的にも安定性を失っていく方向に向かいます.ただし,急速に耐力を失うものではないと考えられます(これは一般のプレストレストコンクリートの耐荷力特性にも当てはまることです).鉄筋降伏が一つの限界状態になることから,この変形レベルを考慮した上で,簡易診断法における限界状態を設定することとしました.もちろん,鉄筋定着がとれていることが前提となります.そこで,定着に関わる限界状態とも組み合わせて簡易診断を提案しました.

 

整理番号:

ASRの補修と補強の目的をそれぞれ劣化抑制と耐荷性能復旧とした場合,この線引きを何に基づいて行うのかが明確でありません.本書では,構造物の劣化グレードに基づいて実施するように記載されていますが,実際に構造物の強度評価を行うことにより,定量的に判断する方法も考えられるのではないでしょうか?それに対するご意見及びその場合の強度評価基準(例えば,補修と補強の線引きを許容限界に対する発生応力比で規定する等)について良い指標があればご教示願います.

 

回答者氏名:

補修・補強WG

 材料の力学的特性や付着・定着の特性から構造物の現有耐荷性能を算定することについては,第II編で鋭意取り組まれました.しかし,報告書2.1.2(2)5.1あるいはII-81にありますように,測定結果(の特性値)を設計用値として直ちに計算に資するには至っていないのが現状と考えております.また,劣化予測が困難で,今後を見据えた対策の困難さも併せて考慮すると,今後のデータ収集(6章)が必要といえます.

 つまり,明確な線引きは困難であり,5.1「補強設計の基本事項」や,あるいはその前段として外観上のグレード+α(表4.1.1〜表4.1.3など)を考慮した「劣化グレード」(III-5に定義)から,補強の要否・選定を工学的に判断せざるを得ないのが現状と考えております.

 なお,LCCや諸条件(図2.2.1)も併せて念頭におく必要があります.

 この現状を補足する方向として,第II9章で安全性に関する簡易な一次診断を提示しております.

 

整理番号:

 第V編V-10の図2.3.1 対策シナリオ選定の検討フローにおける「通常のASR対策を選定し実施」は本編に示されている補修を指しているのですか?

 

回答者氏名:

補修・補強WG

鉄筋破断がない・鉄筋破断の恐れが少ない場合,「通常のASR対策」として,対策(表2.1.1)のうち,図2.3.2に示した@経過観察(点検強化・供用制限)や,A膨張抑制(水処理工や,物理的な拘束も含む補修)が選定できると考えられます.これは,既往の実験に基づく研究結果より,耐荷性能の低下は顕著ではないとされていることによります.また,塩害に比して比較的劣化速度が遅いことにもよります.

 その選定方法として,従来の考え方(表3.1.2や表4.3.1など)を踏襲しつつも,加えて残存アルカリ量も考慮した細分化を4.4で示しました.

 なお,劣化の程度によっては,「通常のASR対策」として補強が適用されることもあります.

 

整理番号:

鉄筋の曲げ加工部での破断が多く発生していますが,スターラップの末端部に設けたフックの部分の曲げ加工部で破断したような事例も見られるのでしょうか.

 

回答者氏名:

実態・メカニズムWG

実態メカニズムWGの委員が掌握している範囲では,フックの部分の曲げ加工部で破断したような事例は今のところ発見されておりません.