土木学会映画コンクール審査委員会

第22回映画コンクール最優秀賞

「民衆のために生きた土木技術者たち−」

企画:大成建設(株) 制作:(株)日映企画  監督:田部 純正



 

  
 明治の終わりから昭和の初めにかけ、土木事業を通して苦難にあえぐ民衆を救済する、との志を持ち、卓越した土木技術を駆使して難工事に挑んだ、青山士、宮本武之輔、八田與一。この映画は、廣井勇に学んだ彼等3人の土木技術者としての姿を描いた映像作品である。
「青山士」は、パナマ運河の建設に携わって高く評価された後、荒川放水路の岩淵水門を建設して東京市街を洪水から救った。「宮本武之輔」は、大河津分水可動堰を建設して越後平野の農民たちを地獄の苦しみから救った。「八田與一」は、台湾で洪水、旱魃、塩害の三重苦の不毛の大地を台湾最大の穀倉地帯に変貌させて、今なお神の如くに敬愛されている。
この作品では三人の業績を通して、彼らの卓越した土木技術と「人の役に立つ」技術を目指した土木哲学を描くことにより、土木事業の社会的意義を強く訴えている。また同時に彼らの生き様から、「土木技術」とは何であるのか、また、土木技術者としていかにあるべきかを、土木技術者あるいは広く一般の方々にも深く問いかける作品となっている。
 なお、この作品は第20回において会長特別賞を受賞した「日本の近代土木を築いた人びと」の続編として位置付けられる。戦前の古い資料をベースにしながらも随所に美しい映像と心に響くナレーションが織り込まれ、最優秀に相応しい作品であった。とりわけ土木を志す若者たちに是非見てもらいたい作品である。


   土木人物アーカイブス(映像・講演・資料集)で詳しく紹介しています。

第22回映画コンクール 部門賞(一般部門)

「崩れ―大地のいとなみと私たち―」

企画:国土交通省立山砂防事務所、全国治水砂防協会、砂防・地すべり技術センター、砂防フロンティア整備推進機構、斜面防災対策技術協会
制作:同上、NPO法人砂防広報センター



    

 一般部門賞は、土木事業及び土木技術を一般市民をはじめ広く社会に紹介し、それらに対する関心を高め、理解を深める作品を顕彰するものである。
本作品は子どもたちから大人までの幅の広い年齢層を対象に,「砂防」の入門として制作されている。国土の約70%が山地であり、山々の美しい自然に恵まれた日本。しかしその一方で、大規模な崩壊地が数多く存在し、土砂崩壊や土石流などにより多くの災害を被っていることも事実である。この現状を踏まえ、前半では特に立山カルデラに発する常願寺川の災害の恐ろしさをCGによる迫力ある映像で紹介するなど、一般の方々に砂防事業の必要性を訴えるものとなっている。
全編を繋ぐナレーターとして富山県出身の女優・室井滋を起用し、また後半では、崩壊と直面しなければならない日本の宿命を随筆『崩れ』に記した幸田文を取り上げて紹介している。その幸田文ゆかりの地を訪れる女流作家として、幸田文の孫にあたる青木奈緒を登場させるなど、ソフトな語り口の中にも、作品に凛とした臨場感と説得力を持たせている。
イラストによる説明も大変わかりやすく、昨今地震や、集中豪雨による災害が多発する中、多くの人に防災の重要性について知ってもらうことが大切であり、この作品はそのことを訴えるのにまことにうってつけの秀作といえよう。なお、住民や技術者の生の声を入れるなどさらに充実させられる余地があること、また後半の幸田文を扱った部分については、最後の問いかけの言葉も含め、賛否両論があったが、一般部門賞として多くの方々に視聴してもらいたい作品である。

第22回映画コンクール 部門賞(技術映像部門)

「街の一体化と安全のために―目黒線不動前〜洗足駅間地下切替工事―」

企画:東京急行電鉄(株)制作:(有)教育映画社  監督:大山 忠夫




 技術映像部門は、土木事業及び土木技術について、映像を通して高度な専門性を継承し、あるいは専門技術を分かり易く紹介する作品を顕彰するものである。
本作品は東京都、品川区、目黒区と東京急行電鉄(株)が交通渋滞の解消、地域の一体化・安全性の向上をはかるために進めている目黒線の立体交差事業のうち、平成18年7月1日深夜から2日の未明にかけて実施した「不動駅前〜洗足駅間(延長:約2.4km)の地下切替工事」を中心に記録したものである。
本事業で用いられている「STRUM(直下地下切替工法:鉄道線路の切替工事の際に切替部の仮線を用いずに、終電から始発までの短時間で線路を地下線に切り替える工法)」は、都心部の住宅密集地での立体化工事で有効な工法であり、本作品は、この工法を克明にかつ分かり易く伝えることで、同様の工事を実施しようとする技術者はもとより、学生や一般の方々が見ても大いに参考となる映像に仕上がっている。
終電通過後の4時間あまりの間に、2,000人を超える作業員を動員して約2kmの営業路線を地下へ切り替える工事は極めて珍しいと言われるが、不動駅前付近、洗足駅前付近と2駅(武蔵小山駅部、西小山駅部)の計4箇所の切替工事の様子が、時間の経過とともに次々に切り替わっていくショットは、臨場感があり見る者を楽しませる。
鉄道工事特有の専門用語が多用されていたり、踏切が解消された後の渋滞解消など一体化の効果が具体的に言及されていないなどの点に不満は残るが、複雑な工事を定点撮影し、その映像を早回しで表現するなどの工夫も見られ、記録映像としてのみならず鉄道利用者や周辺住民の方々にも十分提供できる作品である。


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