1.はじめに

 社会資本の整備が進むとともに、国民一人一人の価値観が多様化し、プロジェクト実施に関する判断に技術的・経済的信頼性、透明性が要求される現在、社会が求めているものに耳を澄まし、その解決策を積極的に発信していく事は欠かせないことである。最近の土木をとりまく諸々の批判については、多くの部分が適切な情報を与えられていないことによる誤解に基づくものと考えられる。従来から、土木技術者は、結果としての構造物を見て貰えればその成果は自ずとわかってもらえる、と考え、その効用、技術の高さなどを積極的に訴えてこなかった、むしろそういった行為を控える気質があったように思う。しかし、社会資本の整備が進んできた今、多くの市民にとって社会資本はあって当たり前のものであり、それを造る際の苦労や高度な技術などには、あまり思いを馳せない、あるいは気づいて貰っていない状況がある。加えて、投下されている資本が莫大であり、多くは国民の税金を資金源としていることから、ややもすると、マイナス面が強調され報道される結果となっている。

 学会ではこれまで、土木事業に対する理解向上を図るべく、倫理規定の制定や仙台宣言などを社会に発信してきたが、メッセージが十分行き届いているとは言い難い。

このようなことから、土木技術に関する社会への情報受発信に力を入れるべく、平成14年度会長提言特別委員会の活動として、「社会からの問い合わせに組織的に対応する仕組み」や即応性を向上させるため「Web上に市民と会員もしくは会員同士が議論する場・仕組み」を構築することとした。

1年間の活動では、前半期間でより良い仕組みの構築及びツールの整備を行った。本年2月より新たなWebページ(JSCE.jp)を一般にも公開し、試験実施として約3ヶ月の間、機能の検証・改良を図った。この間に、多数の学会員からアクセスがあり、種々の意見を踏まえ、より使いやすいシステムへの改良も適宜実施した。「質問広場」、「意見交換広場」なども概ね当初計画した型での運用が可能となってきている。このページは現在本格運用に入っており、学会ホームページからもリンクできるようになっている。

活動の評価目標として、試験運用に先立ち、委員会メンバー以外からの書込み・意見提示が3月末までに50通、投稿されたディスカッション・テーマを基盤としたリアルベースでの討論会の実施などを設定した。結果としては、投稿数は目標をほぼ達成するとともに、企画委員会主催の「土木トークサロン」とタイアップし、JSCE.jp上での「高速道路の民営化」に関する議論を展開し、その内容がトークサロンの中で紹介されるなど、一定の成果が得られたと考えられる。

 しかしながら、会長提言特別委員会は1年間という限られた活動であり、また、社会との情報の的確な受発信・浸透という課題は、今回提案する仕組みを整えたことによって、短期間に飛躍的に効果が現れるという性格のものではない。学会が一連の仕組みを社会や会員に提供し、ようやく情報受発信の活動のスタートラインに立った、という段階であろう。今後とも、今回構築した仕組みを定着、活性化する努力を怠らず、「学会誌」と両輪となって、社会から評価されるコミュニケーションを実現していくためには、「JSCE2005」でとりまとめられた土木学会の中期目標、中期計画を自らの改革の道標として、会員各位の継続的かつ力強い活動が必要と考える。

会員各位におかれては、今後の活動への益々の御支援を下さるよう、お願いする次第である。


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