序文 (渡邊 晃,平成7年11月)

本年1月17日,予想もしていなかった所を大地震が襲った.阪神・淡路大地震
である.5000余の人命を奪い,一般住宅やビルは勿論のこと,ほとんどの社
会墓盤施設にも甚大な被害を及ぼし,マスコミをして安全神話が崩れたと言
わしめた.港湾施設も例外ではなく,昨年10月第24回国際海岸工学会議がま
さに開催されたポートアイランドでも液状化による岸壁の被災等が随所で生
じ,港湾施設は未だその機能を復旧するに至っていない.そして1983年5月の
日本海中部地震,一昨年7月と10月の北海道南西沖および北海道東方沖地震,
昨年未の三陸はるか沖地震は,最近相次いでいるインドネシアやフィリピン,
チリでの津波災害と相まって,地震による津波の恐ろしさをも一般市民に再
認識させた.

一方,本年9月の台風12号は,中心気圧は925hPa,風速25m/s以上の暴風圏は
直径600kmをこすという文字どおり超大型で非常に強い,戦後未曾有のもので
あった.幸い日本列島を直撃することなく東日本の太平洋岸をかすめるコー
スを取ったため,その規模から見れば最小限といってよい被害で済んだが,
もしコースがもう数100km西にずれていたら(それは充分に起こり得た),その
ずれに応じ,東京湾,伊勢湾,あるいは大阪湾なビにおいて,少なからぬ高
潮災害が生じていたことは疑いの余地がない.

甚大な災害が起こるとマスコミや国民は大騒ぎをし,行政は防災対策におお
わらわとなる.大災害が起きない限り,たとえそれが充分に起こり得たもの
であっても,マスコミはほとんど問題視しない.行政の対応もつい後回しに
なる.こうした境界条件の中で,海岸工学が専門と称しているわれわれは何
を如何になすべきか,もう一度問い直してみる必要があろう.

"Harmony with Nature"が第24回ICCEのテーマであった.しかし自然は時とし
て牙をむく.中途半端なやり方ではうまく行かないこと,これまた必定であ
る.「自然との調和」,「人と自然に優しい」,「地球に優しい」,「ミチ
ゲーション」等々,これらの真の意味をも,繰り返し問い直してみる必要が
ある.海が無ければ生物は発生しなかった.陸が無ければ人間は存在しなか
った.そしていうまでもなく,海岸は海と陸との接点である.1950年にLong Beach
で第1回海岸工学会議が開催され,Coastal Engineeringという用語が少なく
とも正式に誕生してからまる45年,海岸工学は「不惑の歳」をとうに過ぎて
いる.人類の歴史ましてや地球の歴史の長さに比して45年が無に等しいとは
いえ.

駄文はここまでとして……,来年度より第7部門(環境)が発足することとなっ
た.従来の第7部門中の衛生工学の分野が独立し中心になって作られるもので
あるが,この新部門の「環境」のカバーする範囲については未だ不透明で流
動的な状況にある.ただし海岸工学委員会としては,当然ながら,海岸工学
に関わる環境問題には従来どおり積極的に取り組んで行こうという姿勢に変
わりはない.また,当委員会では現在,「海岸工学公式集(仮称)」を新た
に編纂・刊行することが計画され,準備会を設置して基本構想の検討を開始
したところてある.内容等についてのご意見やご希望をお持ちの方は,是非
早目に海岸工学委員会宛お知らせ戴きたい.その他の委員会活動についても
忌憚のないご意見・ご批判をお寄せ戴ければ幸いである.そうした多くの方
々からのご意見は,創立40周年を今年迎えた海岸工学委員会の活動の更なる
発展に,必ずや役立つであろう.

第42回海岸工学講演会では,前回の記録をまたも更新し,371編の応募論文の
中から採択された257編におよぶ論文が発表されることになった.中国地方で
開催されるのは二度目,鳥取市での第22回講演会以来ちょうど20年ぶりであ
る.この講演会の開催にあたっては,広島工業大学を始めとする中国・四国
地区の関係大学,運輸省第三港湾建設局,建設省中国地方建設局,通産省工
業技術院中国工業技術研究所,広鳥県,広島市,(社)建設コンサルタンツ協
会中国支部,(財)中国電力技術研究財団等,地元の方々に大変お世話になっ
た.ここに厚く御礼を申し述べたい.また末筆ながら,論文集の刊行に欠か
せない論文査読者各位,海岸工学論文集編集小委員会,土木学会事務局のご
尽力,ならびに業界案内を通しての民間各社・各種法人からの変わらぬご支
援に対し,深尽なる謝意を表したい.

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