序文 (岩垣雄一,昭和47年11月)

わが国は地理的な関係から台風の経路上に存在するので,台風の制御が可能
とならない限り,永久に台風とのかかわり合いをもつ宿命にある.台風によ
る恩恵の認識は別としても,それによる被害の最小を目的として,防災に心
がけるべきことは当然である.これまですでにわが国沿岸には多大の産業設
備投資が行なわれ,ところによっては発生する公害に関して,きびしい住民
の追及をうけ,そのため臨海工業のあり方が問われている.とくに,こうし
た重工業地帯は,多くの場合湾奥にあって,高潮の危険がはなはだ大きい場
所に存在している.このことは逆に,起こりうべき被害の規模がけたはずれ
に大きいことを意味しており,平常時の公害問題とは質の異なった異常時の
すさまじさを予想する必要があろう.

昭和47年8月に文部省特定研究の自然災害科学総合班がまとめた「自然災害科
学の研究成果と将来の方向」によると,具体的な研究目標として,(1)自然現
象の最大値・極値の研究,(2)自然現象の予知の研究,(3)防災機能の破壊の
研究,(4)被災のメカニズムの研究,(5)防災・減災の構造の研究,(6)自然環
境の変化予測の研究,(7)自然災害の地域性の研究,(8)突発災害の調査研究,
をあげている.これらを海岸工学にあてはめてみると,かなり有益な示唆を
うることが多いと思われる.

今年7月10日より第13回海岸工学国際会議が,カナダのバンクーバー市で開催
され,わが国からも若い研究者が数多く参加して,研究成果の発表と討論を
行なったことは誠に喜ばしい次第であった.次回は2年先にデンマークのコペ
ンハーゲン市で行なわれ,その次はハワイで行なわれることが決っているが,
そのあとを西ドイツのハンブルグ市およびオーストラリヤが希望しているよ
うである.このように,各国が開催場所をきそって立侯補している点を考え
ると,海岸工学の将来は,ますます大きく成長し発展する可能性を示してい
るように思われる.

一方,この海岸工学講演会論文集も第19回に達し,毎年増大する発表論文数
や頁数に対して,どのように取扱ったらよいか苦悩するまでにいたったが,
幸いにも発表者の御理解と協力とによって,昨年なみにとどめることができ,
また財政面においても,昨年に引続き業界案内欄を充実することによって,
かなりの改善ができたと考えている.

おわりに,この東京での講演会は,当委員会と士木学会関東支部との共催で
行なわれるもので,会場や見学会,シンポジウム,懇談会など,大変面倒な
準備を引受けられた関東地区委員や関係諸官庁り後援に感謝するとともに,
論文集の編集にあたられた当委員会編集小委員会および土木学会事務局の方
々に厚く御礼を申しあげる.

委員会トップページへ戻る

海岸工学論文集と講演会へ戻る

海岸工学講演会の歩みへ戻る